【ポッドキャスト #50】そもそも「戦略」って何だろう?(4)
「情報=記事」の三層構造を明らかにします。
「事実+感情+文脈」がそろって初めて「意味のある記事」として成立します。
そんな記事だからこそ人の心を動かし、共感が生まれ、関係が深まります。
記事蓄積の「母艦」としてのニュースルームは、
全てのステークホルダーを結節させる「ハブ」です。
音声(番組)は以下より聴取できます。
・ポッドキャスト:#50
・Spotify:#50
以下、テキスト版です。ぜひご一読ください。
◆情報の裏側に、いつも「感情」がある
荒木
前回まで、戦略や情報の話をかなり構造的にしてきました。
今回は、もう少し現場感のある話をしたいと思っています。
キーワードは「感情」と「関係」です。
濱口
一見すると、少し抽象的な言葉ですよね。でも、広報の現場では毎日のように出てくる。
荒木
そうなんです。
人は何かを体験すると、必ず二つのものを持ち帰ります。
一つは「事実」。もう一つは「感情」。
この二つは切り離せない。
でも、これまでの情報発信は、事実だけを切り取って流してきた側面が強かった。
濱口
感情のほうは、あまり扱ってこなかった。
荒木
むしろ「扱ってはいけないもの」として、無意識に避けてきたと思います。
でも実際には、意思決定をしているのは、ほとんどの場合、感情です。
濱口
たしかに。「この会社、なんとなくいいよね」とか。
荒木
そう。その「なんとなく」の正体が感情です。
広報の仕事は、その感情をどこに置くか、どう文脈化するか、なんです。
◆ニュースルームは、感情が意味になる場所
濱口
それがニュースルーム、ということですね。
荒木
はい。
ニュースルームは、単なる記事の置き場ではありません。
社員、顧客、取引先、地域──
ステークホルダー一人一人の体験と感情が、
意味を与えられながら蓄積されていく場所です。
たとえば、
社員が感じた誇りや葛藤、
顧客が感じた安心や違和感、
そうしたものが、ストーリーとして残っていく。
濱口
それを読んだ次の人が、また何かを感じる。
荒木
まさにそこです。
感情は、蓄積されると、次の人の感情を動かします。
そして感情が動くと、関係が生まれる。
この連鎖が続くことで、
関係は点ではなく、線になり、やがて束になります。
それが「関係資本」です。
◆覚悟が、企業の人格をつくる
濱口
でも、ここで一つ気になるのは、
「いい話だけ載せればいいのか」という点です。
荒木
とても重要な問いですね。
答えは、はっきりしています。
それは違います。
事実と違う美談は、資本ではなく負債になります。
感情を恣意的に編集した瞬間、
信頼は必ず壊れる。
濱口
短期的には、よく見えるかもしれないけれど。
荒木
ええ。でも長期では必ず歪みが出る。
ニュースルームに必要なのは、
「盛る技術」ではなく、「向き合う覚悟」です。
うまくいかなかったこと、迷ったこと、
そのプロセスまで含めて記録する。
それが結果的に、いちばん強い信頼になります。
濱口
社内広報でも、同じことが言えますよね。
荒木
まったく同じです。
現場の実感とか、言葉にならない感情を無視すると、
どんなに整ったメッセージも、届かなくなる。
広報が扱っているのは、
実は「情報」ではなく、
感情と関係なんです。
濱口
そう考えると、ニュースルームって、
かなり覚悟のいる取り組みですね。
荒木
はい。
でも、その覚悟が、企業の人格を育てていきます。
どんな言葉を残し、
どんな態度を示し、
どんな感情と向き合ってきたか。
それらが積み重なって、
企業は「人格」を持ち始める。
濱口
情報発信が、人格形成につながる。
荒木
そうです。
だから広報は、経営の中枢なんです。
次回は、この1年を振り返りながら、
『広報オタ倶楽部』がどこまで来たのか、
そして次にどこへ向かうのかを話したいですね。

