#24 戦略なくして、情報発信あらず

こんにちは、荒木洋二です。

◆戦略不在の情報発信

インターネットの登場と普及、隆盛により、情報量は尋常ではない速度で膨張し続けています。SNS(ネット交流サービス)のプラットフォーム、情報発信ツールも次から次へと新しいものが生まれています。最近でいえば、クラブハウスが挙げられます。

われわれ企業社会で生きる者たちは、トレンドや流行に乗り遅れてはいけない、とアンテナを立てるあまり、目新しいツールを追いかけることばかりに躍起になっていないでしょうか。欧米社会から流れてくる外来語、カタカタ用語の言葉にいち早く飛びつき、これら用語を日常使いすることで仕事をした気分になっていないでしょうか。情報発信の手段に過ぎない、さまざまなSNSを使うことが目的化してしまっていないでしょうか。

確かに組織にとって「情報発信」という営みは宿命です。知らないということは存在していないに等しいからです。何らかの方法で知らせなければ、誰にも知られないからです。だから情報発信することは避けて通れません。

しかし、目的を忘れ、手法にひた走る姿は、あたかも(急成長を実現する)「魔法の杖」を探しているようにしか見えません。戦略不在の、やみくもな情報発信は何も生み出せません。

◆経営戦略とは利害関係者との約束

これから関係を築きたい相手たちや、運命共同体ともいえる身近な関係者たちと向き合うことなくして、情報発信はあり得ません。そして、向き合うとは、すなわちコミュニケーションすることであり、それは「みる、きく、考える、話す」の四つの要素で成り立っています。前回のコラムでは、「みる」と「きく」とはどういうことなのか、詳しく述べました。

今回は前回触れなかった「考える」について、掘り下げて説明します。

では、コミュニケーションする際に、「考える」こととは何でしょうか。

結論を言うと、「戦略」を考えるのです。見聞した事実・情報を分析・整理して、情報戦略を立てるのです。コミュニケーション戦略ともいえます。情報戦略はその上位にある経営戦略に基づき立てられるべきものです。

では、経営戦略とはそもそも何でしょうか。

遠藤 功 氏をご存じでしょうか。同氏は「現場学」を提唱した経営学者で、現在は良品計画やSOMPOホールディングスなどの社外取締役を務めています。彼は著書の中で、経営戦略とは経営の意思であり、利害関係者との約束であると説きました。利害関係者とは、最も身近な関係者たちです。経営者・社員に始まり、顧客、取引先・パートナー、株主・金融機関、(地域)社会(住民・行政)などのことです。どんな価値を誰とどのように生み出し、誰にどのように提供するのか。それぞれの関係者たちに示し、その実現を約束するのが経営戦略だというのです。その掲げた約束は彼らからの期待を醸成します。その期待に応えること、レスポンスすることこそが、企業・組織の果たすべき責任なのです。

ここで「そもそも」論に立ち返って、押さえておくべきことがあります。企業や組織とはそもそもどのような存在なのか、ということです。企業は法のもとに人格を認めれらた存在であり、社会を構成する主体として立っています。社会の存続があって、初めて存在できます。社会からさまざまな資源を得ることで、初めて価値を生み出し、事業を営めるのです。

◆ミッション・ビジョン・バリュー

ですから、社会における企業・組織の存在意義とは何かを、自らの存在意義を問わなければなりません。

皆さんは自分の会社の「企業理念」(経営理念)を暗唱していますか。オフィスの壁に掲示したり、社員全員が携帯する手帳に記載したりしている会社もあるでしょう。トヨタ自動車も昨年、社員手帳を発行しました。企業を経営するに当たって、階層構造の頂点に位置し、事業における全ての営み、行動の起点となるものが「企業理念」です。日本では古くから「社是」「社訓」ともいわれ、海外では「クレド」「ウェイ」といわれています。

企業理念とは三つの要素で構成されています。それがミッション(Mission)、ビジョン(Vision)、バリュー(Value)です 。略して「MVV」といわれています。米国の経営学者、フィリップ・コトラー氏 が提唱しました。MVVは経営戦略よりも上位にある、言い方を変えれば、経営戦略の根底にあるものです。それぞれを具体的に説明すると次のとおりです。

・ミッション(使命):企業の存在理由。何のために企業は存在するのかを定義している。存在意義。

・ビジョン(将来像):こう在りたいという(中長期の)目指す姿。未来のイメージ。

・バリュー(価値) :何を大切にしているのか。価値に関する根本の考え方。行動規範・行動指針。

同じ方向を目指し、同じことを大切にして、共に価値を生み出し続けていくのが真の利害関係者です。社会の存続のために役立つ存在であり続けることでしか、企業も組織も存続できません。永続できません。そのためにMVVを明らかにし、高く掲げましょう。そのMVVに共感する関係者こそ、わが社の存続に必要な関係者だといえます。

◆理念なくして、情報発信あらず

自らにとっての真の利害関係者とは誰なのか。彼らの心象風景はどんなものなのか。明確にしましょう。その上でそれぞれの市場に、社会に出かけ、真の利害関係者を探すのです。彼らはどこにいるのか。そして、彼らに何を伝えるのか。どう伝えるのか。これら一つ一つを(理念と経営戦略に基づいて)考えることが、情報戦略を立てるということです。

要約すると、次の二つにまとめることができます。

・企業理念に基づく経営戦略を立てる。
・経営戦略に基づく情報(コミュニケーション)戦略を立てる。

戦略不在の情報発信とは、理念不在の情報発信といえます。会社において企業理念が絵に描いた餅になり、形骸化したときに不祥事が発生します。理念も戦略もなく、ただ情報を発信し続ければ、やがて利害関係者、未来の利害関係者との間にコミュニケーション不全を引き起こすでしょう。コミュニケーション不全からも不祥事や事故は生まれます。企業不祥事を研究した書籍などを読んでみると、明らかです。

・理念なくして、情報発信あらず

今一度、原点に立ち返り、自らの情報戦略を見直してみましょう。

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