#25 リスクとクライシスの違いとは?

こんにちは、荒木洋二です。

◆広報PRとリスクマネジメント

筆者はPR会社を経営して、15期目を迎えています。広報PRに携わるようになって、今月から25年目に入りました。

その間、2004年からリスクマネジメントの専門人材を育成するNPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会(当時、任意団体/05年秋に法人化)の事務局長を務め、広報業務に携わってきました。13年、同協会の理事長に就任、現在9年目を迎えています。当コラムでもリスクマネジメントに関して、広報PRとの関わりから何回かに分けて解説したいと考えています。

今回から2回にわたって、同協会の用語解説や定義について紹介します。筆者が同協会が主催する認定講師養成講座の模擬動画用に解説した内容をお届けします。

◆リスクとクライシスの語源

リスクとクライシスの違いについて解説します。単純に日本語に訳すと、リスクは危険、クライシスは危機、です。リスクとクライシスの違いを理解できれば、リスクマネジメントと危機管理の違いも分かります。

「失敗学」を提唱し、その名を馳せた畑村洋太郎氏は近年、「危険学」を掲げています。何冊か書籍が出版されていますので、関心のある人はご一読してみてください。学ぶことが多いです。

さて、リスクマネジメントとは何なのか、何を目的に、何をするのか。これらを整理するためには、まず、そもそもリスクとは何のか、クライシス、危機と何が違うのか。クライシスとは何のか、を正確に理解することが欠かせません。

それでは、最初にリスクについて、その語源をたどり、説明します。リスクを三つの言語、ラテン語とアラビア語、イタリア語の語源からひも解きます。

·ラテン語
「to navigate among cliffs」、つまり「座礁·沈没も予想される険しい岩礁を縫って航海するような状況」ということです。どちらかというと「冒険」に近いのです。

·アラビア語
「明日の糧」を表す言葉でした。

·イタリア語
「リズカーレ(risicare)」で、「勇気を持って試みる」「危険を承知で挑戦する」という意味です。

以上から分かることは、リスクとは何かを目指し、挑戦する、その先の危険に遭う可能性を指しているということです。期待する、目指していることにとって、プラスの方向にいくのか、マイナスの方向にいくのか、いずれの可能性もある状態です。

事業を営む場面で例えますと、有名な経営に関するフレームワークで「SWOT分析」があります。これは内部環境の強みと弱み、外部環境の機会と脅威を明らかにします。この機会と脅威はまさしくリスクといえます。

·クライシスの語源
次にクライシスの語源は何でしょうか。

ギリシャ語Krineinという「決定、選別」、そこから転じてラテン語のKrisis「転換点、転機」を語源としているといわれています。つまり分かれ道、重大な局面ということです。

まとめますと、リスクとクライシスでは時間軸が違うということです。

リスクとは、プラスにもマイナスにもいずれも起こり得る状態です。対して、クライシスとは、リスクのマイナス面が顕在化した重大な局面です。顕在化したリスクの重大なマイナス面のことということです。

リスクの定義

最後にリスクの定義を紹介します。国際標準化機構(ISO/アイエスオー)が示したガイドラインとして、リスクマネジメントの国際規格「ISO31000」があります。「ISO31000」では「目的に対する不確かさの影響」と定義しています。

簡潔に説明します。リスクは、「事象の結果」とその「発生の起こりやすさ」の組み合わせで表されます。起こったことが与える影響が強いのか弱いのか、どの程度の影響があるのかということとそれぞれが発生する確率によって、分析できるのです。

時代が移り変わり、社会や環境が変化することで多様かつ複雑なリスクが増えています。

リスクは常にあるし、どこにでもあるということを忘れてはなりません。未来のことは誰も正確に予想できません。未来は不確実性に満ちています。つまり、ゼロリスクはあり得ません。だからこそリスクをマネジメントする必要があるのです。

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