初級講座 Ⅰ.理論・基礎知識 「選ばれ続ける」をひもとく(2) 

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こんにちは。荒木洋二です。

今回は前回の続きです。「選ばれ続ける」をひもとく、について解説します。

選ばれるまでの過程、選ばれ続けるまでの過程には、「認知·理解·信頼·共感」というステップがあり、前回は認知·理解·信頼まで説明しました。今回は、信頼から共感について詳説明します。

社会心理学によると、信頼を獲得するためには二つの要素が必要である、という話をしました。日本の社会心理学者が、さらに研究を進めました。そうすると、もう一つ重要な要素があることが分かりました。より深い信頼関係を構築するためには、もう一つ不可欠な要素がある、というんです。それは、価値観を共有できているかどうかです。

相手がいくら能力があって、騙さない、誠実な人柄であったとしても、価値観を共有できていなければ、本当の意味で信頼関係は構築できないということです。価値観を共有するとはどういうことかというと、相手の価値観に共感できているかどうかです。信頼の先にあることとして、共感を醸成できるかどうかが、選ばれ続けるための決め手だということです。

共感の醸成について、スポーツを例に説明します。スポーツのファンを観察するとよく分かります。2019年に日本でラグビーのワールドカップが行われました。このワールドカップを例に挙げながら、「共感はどうやって醸成されるのか」について確認していきましょう。皆さんご存じのように、ラグビーのワールドカップ が日本で開催されることで、「にわかファン」がものすごい勢いで急増しました。「にわかファン」という言葉自体が連日マスコミで報道されるなど、話題になりました。日本中で多くの人々を熱狂させました。

この現象を巻き起こした理由には、二つの要素が絡んでいます。

1)変えようのない結果と事実:試合結果(ベスト8)・試合観戦
まず、試合結果自体は初のベスト8でした。結果をニュースで知った人だけでなく、試合そのものをリアルで観戦した人も大勢いたでしょう。これらは変えようのない結果と事実です。

しかし、それだけではあんな熱狂やブーム、感動の渦が日本に巻き起こるはずがありません。なぜ、あそこまで熱狂的な雰囲気が日本全体を覆ったのでしょうか。

2)結果に至る背景や過程:個々の選手・チームなどの素顔・秘話、紆余曲折・苦労 
その理由は、その結果に至る背景や過程を多くの日本人が共有し、選手たちに共感できたからではないでしょうか。
前回のワールドカップで南アフリカを撃破して以降、4年間にわたり、テレビをはじめ、さまざまななメディアで、個々の選手やチーム全体の取り組みなどを繰り返し報道していました。それぞれの選手に家族がいるし、さまざまなスタッフが関わっています。その素顔や秘話、紆余曲折、苦労を、いろんな角度から報道し続けました。われわれ日本国民は実に多くの情報に触れ続けました。

試合結果の情報や試合観戦は「表舞台」の情報です。「表舞台」だけではなく、普段、試合を観戦しているだけではうかがいしれない、試合結果からは全く想像できないであろう、選手·チーム·スタッフの苦労や感動の物語。そういう情報に報道を通じて触れたんです。

これらは全て「舞台裏」なんです。「舞台裏」の情報です。「舞台裏」の情報に触れ、共感の渦が巻き起こって、熱狂的な状況に至ったということです。つまり、共感醸成には「表舞台」と「舞台裏」、両方の情報が必要だということです。両方を伝え続けることが欠かせないということです。

ラグビーのワールドカップでは、「表舞台」と「舞台裏」の情報を伝え続けることによって、「にわかファン」が増えたんです。ワールドカップが終わった後も、ファンとして球場に足を運んだり、グッズを購入したりするなど、いろんな現象が続きました。

「表舞台」は能力を表しています。「舞台裏」には動機や試合に臨む姿勢が如実に表れます。「表舞台=能力」と「舞台裏=動機·姿勢」の情報、両方を伝えることで、共感が生まれたということです。共感が醸成されることで、選ばれ続けるようになるのです。

なぜ、報道機関はこんなにも舞台裏の情報を発信し続けるのでしょうか。「Google アラート」で舞台裏というワードを登録しておくと、毎日のようにいろんなメディアが舞台裏に関する記事を多数発信していることが分かります。

なぜでしょうか。報道機関が舞台裏好きということなんでしょうか。そうではありません。

世間、われわれ読者、視聴者が舞台裏が好きだから、報道機関が舞台裏を伝えてるんです。

では、舞台裏の情報を発信するのは、報道機関の専売特許なのでしょうか。そんなことはありません。しかも報道機関、メディアは、時間もスペースも限られています。全ての舞台裏を彼らは伝えられません。しかし、決して報道機関の専売特許ではありません。ですから、組織自らが舞台裏を伝えればいいんです。

では、組織における表舞台とは何でしょうか。舞台裏の情報とは何でしょうか。

·企業の表舞台
製品やサービスの性能·品質そのものです。経営戦略や組織力、実績·業績です。

·企業の舞台裏
代表者の思いや、普段知れない素顔です。製品やサービスを開発するまでの現場での苦労·苦悩など、さまざまな秘話や失敗談などです。顧客がどんなことを体験したのかという体験談。今でいう「顧客体験」です。

どうすれば相手から理解してもらえるのか。信頼してもらえるのか。そして、共感してもらえるのか。共感を醸成できるのか。それは自ら「表舞台」と「舞台裏」の情報を伝え続けることです。舞台裏は、報道機関の専売特許ではありません。自ら「舞台裏」を伝え続けることで、利害関係者の共感を醸成できるのです。

今回の「選ばれ続けるをひもとく(2)」の講座を、最後にもう一度まとめます。

·より深い信頼関係構築に不可欠な要素とは、価値観を共有することだ
 つまり共感を醸成することだ
·共感醸成には「表舞台」と「舞台裏」の両方を伝え続けることが必要だ
·選ばれ続けるために伝え続ける
·自ら「舞台裏」を伝え続けることで、共感を醸成できる

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