広報PRコラム#31 ブランディングの鍵は「舞台裏」にあり(3)

こんにちは、荒木洋二です。

前回は、経営者マッチングプラットフォームで出会った、株式会社LIBLAT identity(リブラットアイデンティティー)代表取締役の山本龍治(やまもと・りょうじ)さんの「舞台裏」を軸にした取り組みやアイデアの一端に触れました。今回は山本さんのアイデアをもう一歩踏み込んで紹介しながら、彼との会話から着想を得たことを軸に「舞台裏」をどう見せ、触れさせるか、どう見える化するかについて考察を深めていきます。

◆店内で「舞台裏」の動画を視聴

彼のアイデアは、レストランなどの飲食店が自身のこだわりの食材について、生産者の声や働く姿、シェフと生産者との交流を動画で伝えることができれば、生き残りの戦略として有用ではないか、というものでした。動画で伝えると言っても、やり方はさまざまです。どうやって、どこで動画を視聴してもらうのか。例えば、次のようなことが挙げられます。

1.YouTubeで公式チャンネルを開設し、配信する。
2.お店のニュースルームを開設し、YouTubeとリンクして配信する。
3.店内に液晶ビジョンなどを設置し、映像を繰り返し流す。
4.動画にアクセスできるQRコードを印字した印刷媒体を各席に配布する。

3と4は山本さんのアイデアです。店内での映像配信は向き不向きはあるでしょう。ただ、共通していることとして、来店者にその場で「舞台裏」の動画を視聴してもらうというのです。

さらに、動画とECサイトを連動させ、気に入った食材を購入できるところまでが彼の考えでした。前回、テレビ番組『満天 青空レストラン』(日本テレビ)について触れました。視聴中は「おいしそうだから、取り寄せたい」と気分が高揚していますが、番組の最後に「番組ホームページで」と促されてもすぐには行動せず、結局一度も購入したことはありません。もちろん購入者も相当数いたとは思いますが、筆者はそこまで至りませんでした。

新型コロナウイルス感染症のまん延により、長期間にわたって大多数の飲食店事業者が苦境を強いられています。テレビなどのニュースによれば、準備した食材を破棄した例も少なくないようです。休業要請や時短営業は飲食店事業者だけでなく、食材を提供する生産者にも甚大な影響を及ぼしていることは容易に想像ができます。日本酒を扱う居酒屋オーナーと懇意にしている知人の話では、コロナ禍で農家が酒米の生産量を減らすことで、経営の危機に瀕している酒蔵が全国各地で増えている、とのことでした。

◆生活者と生産者もつながり、物語が紡がれる

筆者の出身地は静岡の伊豆下田です。伊豆地方は伊勢海老の産地として有名ですが、約1年前、伊豆漁業協同組合がFacebookの投稿で出荷が激減し、苦しんでいることを知りました。すぐさま、電話で購入方法を尋ねたところ、ファクスでの申し込みでした。ネットでの購入と比べると手間も時間もかかりますが、故郷を少しでも応援したいとの思いから、購入しました。兄にも伝えたところ、同じく購入しました。コロナ禍にあって、お店や生産者の苦悩を知れば、そして飲食店で扱う食材を店内で簡単に購入できる仕組みがあれば、利用する人は一定数存在するでしょう。飲食店にとって生産者は顧客と並ぶ重要な利害関係者、ステークホルダーです。厳しい状況に置かれているからこそ、お互いに助け合うことで信頼関係がより深く、強くなるでしょう。

生活者がふだん知る機会の少ない、生産者の働く姿やそのこだわり、シェフとの交流などの「舞台裏」を店内の動画で知ることで、お店に対しても生産者に対しても愛着や共感が生まれます。その場でネット注文することで、生活者と生産者の間にも直接的な関係が築かれます。その後も継続的に利用することで、生産者にとっての重要な顧客となっていく。シェフがその食材を利用したレシピや調理方法を、同じように動画で配信するとどうなるでしょうか。今度はその利用者がシェフの「舞台裏」情報に触れ、その食材とシェフのレシピで自ら料理に挑戦するかもしれません。(コロナが収束して)その料理を家族や友人に振る舞うことがあれば、一連の「舞台裏」を喜々として語るに違いありません。熱や思いがこもったトークは何人かの心に響くでしょう。胃袋と心をつかまれた人は外食先にそのお店を選び、その食材を購入するなど、新たな関係が生まれ、広がっていきます。

「舞台裏」を共有することで共感が生まれ、新たな関係を築く力が生まれます。こうして飲食店を起点とした物語が紡がれていくのです。

◆感動経営とは

次は、経営者マッチングプラットフォームのラフメイカーで出会った内田感動マネジメントの内田貴久さんの取り組みを紹介します。

内田さんは「感動経営」を標榜しています。感動経営とは何か。筆者はこう理解しました。全ての利害関係者を幸せにする経営です。社員が適正な給与を得ることができる。取引先を下請け業者として(安く買いたたくなど)不当な扱いをしない。価値は等価交換です。職業に上下も貴賎もありません。どの利害関係者に対しても対等に向き合う経営だと理解しています。

内田感動マネジメントのウェブサイトには、「経営の伴走者として、企業の成長を決める『幹部育成』において評価」されている、と書かれています。同サイトで感動経営で得られる七つの財産が掲載されていますので、以下に転載します(原文のママ)。

  1. 経営者の高い志と揺るがない信念。
  2. 理念の実践集団として、幹部・従業員が同じ価値観で素早く対応する企業体質。
  3. 他社とは圧倒的な差別化となるビジネスモデル(業態開発)を実現。
  4. 必ず勝利する中期ビジョン(経営羅針盤)とそれに連動した経営計画書及び無駄なく効果的なプロジェクト活動の実現。
  5. 理念型採用&育成により、人財の採用力と育成力が倍速加する。
  6. 自ら主体的に動く従業員集団となり「任せる経営」が実現されることで、
    トップが更に学び成長する時間が取れる。
  7. 究極は「完全ブルーオーシャン企業」の実現。

内田さんは、その経営指南によって感動経営を実践している企業が一堂に会して、自社の取り組みを発表する場を定期的に設けています。それが「感動物語コンテスト」です。同コンテストは、企業の現場に生まれた感動のエピソードを分かち合う「感動映像の全国コンテスト」であり、現場で起こる感動の瞬間を映像作品に仕上げ、それを共有し、感動し、共感する場である、ということです。つまり、外部の人では知り得ない、うかがい知れない「舞台裏」を映像として「見える化」して、共有できる場を設けているのです。

内田さんに聞くと、感動経営の実践を検討している企業の経営層を「感動の瞬間」の現場に招待して、自分たちの目と耳で確かめてもらう場も設けているそうです。これも「舞台裏」に立ち会わせる、触れさせるという取り組みです。

どうやって「舞台裏」に触れてもらうのか。「舞台裏」をいかに見える化するのか。「ブランディング」とは(当社の解釈では)機能的価値と情緒的価値を伝えることです。情緒的価値は「舞台裏」に触れることでつくられます。「舞台裏」から共感が生まれます。社員にしろ、顧客にしろ、取引先にしろ、その企業を選ぶ理由は「舞台裏」にあります。各企業の創意工夫が問われています。

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