中級講座 Ⅰ.理論・基礎知識 戦略設計と活動計画 戦略とは?/企業価値

こんにちは、荒木洋二です。

今回も「戦略設計と活動計画」についての講義です。

1.戦略とは?

前回に続き、「戦略とは?」の解説を進めます。前回まで2回にわたり、「②経営理念」で、そもそも経営理念とは何かを詳説しました。今回から「③企業価値」について解説します。

企業価値とは、いったい何か。結論からいうと、利害関係者との信頼と共感の総和、全て足したもの、これが企業価値です。企業は自らを取り巻く関係者たちと共に価値を生み出し、提供しています。共に価値を生み出す、企業にとっての経営資源でもある利害関係者たち。彼らを取り巻く環境はめまぐるしく変化しています。経済、社会、自然環境、国際情勢も含めさまざまな環境変化の波にさらされています。その中で利害関係者たちも入れ替わり、新陳代謝もあるでしょう。それでも、その企業を選び続け、そして継続して価値を生み出し続けていきます。そういう利害関係者たちとの信頼、そして共感の総和、その塊、全部足したもの、それが企業価値です。

これまで、そもそも戦略とは何か、経営理念とは何か、ということを解説しました。そのことを踏まえて、改めて整理してみると次のスライドのとおりです。

さまざまな表現、呼称があります。経営理念・価値観・ビジョンと記しています。最近、企業社会では、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)として定着しつつあります。企業・組織の在り方や存在意義に関することですので、ここが起点です。

経営理念に基づいて経営戦略を策定します。経営理念を体現しよう、ビジョンを実現しよう、価値観を大切にしよう、という意志を持って組織は行動します。経営戦略とは経営の意思であり、利害関係者に対する約束です。

この約束に応えることが責任です。英訳すると、「レスポンシビリティ」です。約束に応えることで、利害関係者から信頼され、その先には利害関係者から共感されるようになります。

利害関係者の信頼と共感の総和が企業価値です。その信頼と共感が集まる中で築かれるのが、「企業の人格」だといえます。

表現に少々差はありますが、これら三つに、3段階に分類することで企業とは何か、組織とは何か、ということが理解できます。前傾のスライドを記憶にとどめてください。

次のスライドを用いて、改めて説明します。

利害関係者は企業・組織にとって、まさしく経営資源です。共に価値を生み出し、提供する仲間たちです。

まず、利害関係者たちに企業のビジョンを示します。われわれは「どんな姿を目指すのか」を明示します。社員、取引先、株主に、そして顧客、社会に対してもビジョンを明示するのです。

次にそのビジョンを実現するための戦略を策定します。戦略とは利害関係者との約束です。われわれは「どんな価値を提供するのか」を宣言するのです。社員、取引先、株主に、そして顧客、社会に対して「こんな価値を提供します」と約束します。これが経営戦略でした。

約束は利害関係者からの期待を醸成します。期待に応えていく、期待を超えていくことによって約束は守られます。その結果、利害関係者から信頼と共感を獲得できます。利害関係者たちと共感を伴う信頼関係を築けます。一体感を醸成できます。

それぞれを取り巻く環境は間違いなく、めまぐるしく変化し続けます。そんな状況下にあっても、この歩みをずっと続けていくことで、共に歩む利害関係者から、共に価値を生み出す仲間たちから、「選ばれ続ける」状態を維持できるのです。

最後にもう一つ、次のスライドを用いて、別の角度から分解し、説明します。

四つに分類します。簡潔にいえば、目的、戦略、実践・実行、業績・成果の四つです。

それぞれをもう少し詳しく説明します。

◆目的

目的は、経営理念・ビジョンの実現です。企業の在り方こそ、根幹に位置するものです。そして、在るべき姿を目指します。

◆戦略

理念・ビジョンに基づいて、経営戦略を策定します。何度も繰り返しますが、戦略とは利害関係者に対する約束です。経営戦略のもとに、約束を果たすために利害関係者たちとどう向き合うのか、どうコミュニケーションするのか、というコミュニケーション戦略が立てられます。そうして、ようやく広報戦略が決まります。広報媒体戦略ともいえます。誰にどんなコンテンツをどうやって伝えるのかを決めます。

◆実践・実行

これら戦略に基づいて、事業活動を行います。戦略を実践・実行します。事業活動の中でも、利害関係者とどう向き合うのか、という部分を担うのがコミュニケーション活動です。利害関係者との関わりの中でしか、企業は価値を生み出せないし、存続もできません。持続可能な状態を維持できません。利害関係者との不断かつ丁寧なコミュニケーションは企業経営に欠かせません。

これらコミュニケーション活動の一環として、広報活動は実行されます。広報戦略に基づき、丁寧にコンテンツを作成、表現します。広報部を軸に全社員が広報媒体を活用し、丁寧に伝達していくのです。

◆業績・成果

これら一連の事業活動、組織行動の結果が業績として現れます。これが成果です。理念やビジョンを見失うことなく、ずれることなく、どこまで約束を守れるのか。その成果として、どんなに環境が変わろうとも大切な利害関係者から「選ばれ続ける企業」になることができます。企業価値、すなわち企業の存在価値をずっと継続できるかは、利害関係者との関係をどう深め、強めるのか、ということにかかっています。関係性から多大なる影響を受けるのです。

企業不祥事や事故などが発生する理由を、さまざまな書籍や文献から分析してみると、主に二つに集約されます。それは、「理念不在」と「コミュニケーション不全」です。

業績や成果ばかりに目を奪われ、その前提となる思いや振る舞いをないがしろにすることで、事件や事故は起こります。そして、信頼が失墜され、結果として業績も悪化してしまいます。企業価値が毀損してしまいます。

業績はもちろん重要です。ただ、数字ばかりに囚われすぎ、経営理念やビジョンが絵に描いた餅になってしまうとどうなるでしょうか。価値観も含め、日々の営みにおいて思いや気持ちが伴わない言葉だけが宙に浮いている、実態や実践につながらない虚しい状態です。言葉さえ発することもなくなった状態です。

それは利害関係者を裏切ることにつながります。約束を根底から覆しているからです。周りのことが見えない、誰とも向き合えない状態に堕してしまっています。経営陣と現場、社員同士で本音と本気のコミュニケーションが行われていません。顧客や取引先をぞんざいに扱い、誠実さを欠き、まともな対話もなくなるでしょう。

このように「理念の不在」と「コミュニケーション不全」の組み合わせにより、事件や事故は発生することを肝に銘じなければなりません。

今回で「1.戦略とは」に関する解説を終了します。そもそも戦略とは何か、経営理念とは何なのか、ということを前回までで確認しました。そして今回は「③企業価値」についての講義でした。

次回から「2.広報戦略を設計する」について解説します。

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