広報PRコラム#59 SECIモデル体験(5)

こんにちは、荒木洋二です。

今まで4回にわたり、筆者の体験と照らし合わせながら、SECI(セキ)モデルを解説してきました。同モデルの4段階の第3段階までの要約を記しつつ、前回までの内容を振り返ります。

①S:共同化(socialization)   :暗黙知→暗黙知

全人格としての暗黙知をぶつけ合う

・三つの要点:身体による共同体験、一対一の徹底した対話、共感

②E:表出化(externalization) :暗黙知→形式知

言語化、図像化により「見える化」する

・三つの要点:比喩、たとえ、ハッとした気付き・ひらめき

③C:連結化(combination)     :形式知→形式知

「見える化」した知を組み合わせ、物語や理論に体系化する
  
④I:内面化(internalization) :形式知→暗黙知

今回は最後の「④I:内面化」を解説します。

■ダイナミックなサイクルを回し、新たな知識を生み出し続ける

④I:内面化(internalization) :形式知→暗黙知

SECIモデルの第3段階である「連結化」とは、「見える化」した知を組み合わせることです。つまり言語、概念、図像、仮説で見える化した知をどう組み合わせるのか、ということです。その成果がマニュアルであり、設計書や計画書です。経営者が「物語る」信条やビジョン、組織内で体系化された理論も「連結化」に当たります。

第4段階で重要なことは連結化された知の実践です。「内面化」については、入山章栄氏の著書『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社刊、2019年)が実に端的に説明していますので、そのまま引用します。(カッコ内、原文のママ。太字も。)

「組織レベルの形式知を実践し、成果として新たな価値を生み出すとともに、新たな暗黙知として個人・集団・組織レベルのノウハウとして『体得』する

具体的な行動、アクションのことだ。実際に行動し、価値を出し、それを反復してやり続けることで、組織はそれをまた暗黙知として昇華させていく。そして、この暗黙知がさらにまた共同化されて、表出化され、連結化されて……というダイナミックなサイクルが回ることで、やがて形式知と暗黙知がそれぞれ増大し、組織は知識を生み出していくのである」。

筆者と「相棒」の14年間を振り返ると、まさにダイナミックなサイクルを回してきました。その成果として、形式知と暗黙知を増大させながら知識を生み出してきた、と自負しています。

■知の実践である現場実務の重要性

前回述べた3度にわたる講座の内容自体が、連結化された新たな形式知です。いずれの段階でも講座で語るだけでなく、当時出会った経営者たちや現場で広報に携わる担当者にも伝えてきました。

重要なことは、伝えた内容がしっかりと伝わったのか。そして、行動変容につながったのか。伝えることも知の実践の一つです。行動変容につながったのであれば、その行動から現実面でどんな変化が生まれたのか。実務を主に実践したのは当社でした。ですから、実践により顧客に現れた変化はまさしく内面化といえます。

思い起こすと、当社がPR会社として顧客に提供してきた実務も、連結化のたびに変容してきました。

起業当初の実務といえば、もっぱらパブリシティでした。パブリシティとは、企業・組織が報道関係者に情報を発信し、その情報をもとに報道されるまでの一連の働きのことです。プレスリリースや報道資料を提供し、その内容が報道に値すると報道機関側が判断すれば、第三者の視点で報道されます。

毎週のようにプレスリリースを書き、それを記者クラブに投函したり、取材を設定したりしてきました。プレスイベントを年間40回開催した年もありました。プレスイベントとは、同一時刻・同一会場に報道関係者を集める催し物です。新たな取り組みを発表する「記者発表会」、経営者を囲む「記者懇親会」、専門知識などを伝える「プレスセミナー」の三つがあります。年末年始、ゴールデンウィーク、お盆休暇があるのですから、ほぼ毎週開催していたことになります。その現場に立ち続けました。

2度目の講座前後から、新たに加えた実務があります。ファクトブックとニュースレターの作成です。そもそもどういうものなのか。それは次のとおりです。

・ファクトブック:組織の「今」のありのままの姿を正しく伝える資料

・ニュースレター:組織の日々の営みと息遣いを正しく深く伝える情報媒体

ニュースレターとは、組織の「舞台裏」を伝える最も重要な広報媒体です。社内報、企業広報誌はニュースレターの一つです。ニュースレターが利害関係者に与える影響は、顧客だけでなく当社の予想をも超える成果を生み出しました。

ニュースレターの一つである導入事例(顧客インタビュー)を営業、展示会、セミナーなど、あらゆる機会、接点で配り続け、伝え続けた会社がありました。インターネットを活用した教育会社、いわゆる「eラーニング」会社です。同社は4年で該当する事業部門の売上高が倍増しました。

スタッフに毎月インタビューし、「働く人の声」として発行し続けた会社もありました。当初、採用強化のために始めたニュースレターは、次第に経営者の心を動かし、スタッフに共感や一体感を醸成させるに至りました。採用強化はもちろん、事業承継につながる株主の獲得にもつながりました。

■新たな知識を「体得」する企業や人材

数々のさまざまな現実に直面し、事実を直視しながら、そのたびに共同化し、表出化し、連結化することを繰り返してきました。3度の講座に至るまでに3周、SECIモデルが回ったともいえるかもしれません。2020年末に完成した245の講座で構成される、約34時間に及ぶeラーニング・コンテンツでちょうど3回転したのかもしれません。
ここ2カ月ほど、当社が行っているブランディングセミナーは、第3段階の「連結化」での「物語る」に当たります。手前味噌ですが、当セミナーに参加し、「目から鱗」だと感銘を受ける人も少なくありません。

今年の10月、当社は「広報人倶楽部」という企業・組織を対象とした会員制度を設立しました。企業ブランディングのための広報部立ち上げと運営を支援します。サービス内容は主に次の三つです。

1)人材育成  :eラーニング講座、実務能力向上のためのオンライン勉強会

2)指南・助言 :広報戦略、広報活動全般に関する指南・助言

3)システム提供:広報専用ウェブサイト「ニュースルーム」開設・運用システム

「広報人倶楽部」では、入会後8週間にわたる「伴走プログラム」を提供しています。当プログラムこそが、「連結化」による最初の成果ともいえるかもしれません。現在、当プログラムを会員企業に提供しています。

現在、まだ数は少ないですが、会員企業が新たな知を実践し始めています。会員企業とともに続ける知の実践から、どんな新たな知識が生まれるのか。知の実践により会員企業に「広報人」が育ち、会員企業が組織として新たな知識を「体得」していく、その姿、過程をしっかりと直視したい。そして、そんな企業や人をどんどん増やしたい。第4段階の「内面化」がここから始まり、再びSECIモデルのサイクルが回り始めるでしょう。

来年、どんな成果が生まれるのか、どんな新たな知識が生まれるのか。今から楽しみで仕方がありません。

★参考文献

『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社刊、著者:入山章栄)

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