広報PRコラム#58 SECIモデル体験(4)

こんにちは、荒木洋二です。

今回は、筆者の実体験と照らし合わせながら、SECI(セキ)モデルの「③C:連結化」を解説します。SECIモデルとは、一橋大学名誉教授・野中郁次郎氏が提唱する、世界唯一といわれる、知の創造理論です。同モデルの4段階を再掲します。前々回の「共同化」、前回の「表出化」については要約を記し、振り返ります。

①S:共同化(socialization):暗黙知→暗黙知

 全人格としての暗黙知をぶつけ合う

 ・三つの要点:身体による共同体験、一対一の徹底した対話、共感

②E:表出化(externalization):暗黙知→形式知

 言語化、図像化により「見える化」する

 ・三つの要点:比喩、たとえ、ハッとした気付き・ひらめき

③C:連結化(combination):形式知→形式知

④I:内面化(internalization):形式知→暗黙知

■物語や理論に体系化

③C:連結化(combination):形式知→形式知

「表出化」とは、暗黙知を言語化したり、概念としてまとめたり、図像にしたり、仮説を立てたりして形式知化することです。要は見えなかった暗黙知を「見える化」するのです。前回も述べたとおり、「共同化」と「表出化」は同時に行われる、というのが筆者の体験から分かったことです。

そして、「共同化」と「表出化」を何度も繰り返す過程で、「連結化」がなされます。「連結化」とは、組織として見える化した知を組み合わせることです。入山章栄氏の著書『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社刊、2019年)によると、現場レベルでの「マニュアル、設計図、計画書などの形での体系化」もそうです。しかし、もっと重要なのは会社の信条、方向性、戦略であり、その場合、「物語る」ことが必要とされるといいます。物語るとは、「ナラティブ」というそうです。これは、経営者が社員など利害関係者に対してビジョンを語ることがそうです。

筆者の場合、どうだったのか。当社において「連結化」は主に筆者の役割でした。共感から生み出された言語や概念、そして「相棒」が表した図像をもとに、理論として体系化することに没頭しました。

広報PRに関する書籍は多数出版されています。しかし、大半が実務書か、難解な専門書ばかりというのが筆者の見解です。実務書は、プレスリリースの書き方やマスコミに取り上げられる方法など、「パブリシティ」寄りの内容です。専門書でいえば、唯一の業界資格である「PRプランナー」取得のためのテキストが挙げられます。広範囲にわたって、パブリック・リレーションズを扱っています。マーケティングに始まり、リスクマネジメントやCSR(企業の社会的責任)まで網羅されています。各分野における専門的な内容が記載されていますが、全てを理論として体系的にまとめてはいません。筆者はそう捉えています。

これでは広報PRに触れてこなかった中小企業の経営者や広報担当者には、本質が理解されないだろう、と当時から(今でも)問題意識を持っていました。

■3度にわたり、講座を開催

そんな問題意識を持ちつつ、「共同化」と「表出化」を繰り返していました。そうしたところ、天の計らいなのか、重要なキーワードや図像が生まれた後、つまり表出化された後、時間を置かず、必ず講師として登壇する機会に恵まれました。中小企業の経営者や広報を担う人材に対して、広報PRを理論化して伝える機会が、実に三度訪れたのです。そのたびに、(その当時)新たに生まれた重要なキーワードや図像を軸に講義内容を作り上げていきました。

一度目は2008年、全国の中小不動産経営者を対象に15時間(5時間×3回)の講座を開きました。二度目は2016年、大阪の中小・ベンチャー企業経営者を対象に約20時間(5時間×4回)の講座でした。そして、三度目は2019年、中堅企業の広報部スタッフ対象に約20時間(2時間×10回)の講義を行いました。

これまでに共感できる重要なキーワードや図像がいくつか紡ぎ出されました。筆者は広報PRに関する書籍の購読はもちろんのこと、そこにとどまりませんでした。キーワードを思考の軸として、広報以外の書籍も読み漁りました。マーケティング、顧客満足、行動観察、組織論、経営戦略、リスクマネジメント、CSR(企業の社会的責任)、レピュテーション(評判)、社会心理学などです。哲学に関する書籍も何冊も読破しました。思考を深め、頭の中で全てをつなげて整理できるよう努めました。

3回の講座における各回のキーワードは次のとおりです。

・全国の中小不動産経営者を対象にした講座(15時間)

 企業の人格
 みる、きく、考える、話す
 知らない = 存在していない(「知らせる」ことから全ては始まる)

・大阪の中小・ベンチャー企業経営者を対象に講座(20時間)

 企業価値創造の枠組み:PFECサイクル
 ①P:潜在的価値(Potential Value) ・・・事業源泉   
 ②F:機能的価値(Functional Value)・・・事業開発 
 ③E:情緒的価値(Emotional Value) ・・・事業推進    
 ④C:継続的価値(Continuous Value)・・・事業継続

・中堅企業の広報部スタッフ対象にした講座(20時間)

 広報PRの目的とは、経営における基礎体力を強化すること
 ブランディングとは、利害関係者から「選ばれ続ける」ための営み
 企業が発信する公式情報は2種類:「表舞台」と「舞台裏」
 広報基本4媒体:ファクトブック、プレスリリース、ニュースレター、アニュアルレポート

昨年末に完成した245講座の「eラーニング講座」は、前述の3回目の講座をもとにさらに内容を深掘りしています。どこまで理論として体系立てられているのか。大いに改善の余地はあると自覚しています。いまだに道半ばです。ただ、このように形式知を組み合わせ、体系立てる機会に恵まれてきました。

さらに、今年に入ってからは毎週月曜日に当コラムを執筆しています。コラム執筆は、今まであいまいにしがちだった、共感から生まれた言語や図像をもっと思考を深め、体系化するのための営みそのものだ、と実感しています。

次回は、体験と照らし合わせつつ「④内面化」を解説します。

★参考文献

『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社刊、著者:入山章栄)

『企業経営における新しい価値創造フレームワーク「PFECサイクル」
 〜中小企業経営にパブリック・リレーションズとリスクマネジメントを定着させるために〜』
(執筆者:荒木洋二/日本広報学会20周年記念大会・第21回研究発表全国大会「統一論題 リスクマネジメントと組織コミュニケーション」)

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