中級講座 Ⅰ.理論・基礎知識 戦略設計と活動計画 広報活動を計画する

こんにちは、荒木洋二です。

「戦略設計と活動計画」は今回が最後の講座です。ぜひ、最後までしっかりと学んでいきましょう。

前回までで「2.広報戦略を設計する」までの解説を終えました。今回が最後の「3.広報活動を計画する」に関する解説です。

広報活動を計画する、ということはどういうことなのか。「戦略設計と活動計画」の講座で前回までに何度か示してきたのが次のスライドです。

毎回説明していますが、今回も改めて振り返ります。

まず、誰が利害関係者なのか。そして、彼らからどんな会社だと理解されたいのか。どんな事実、どんな舞台裏があるのか、ということを明らかにします。

その上で広報戦略を設計します。伝える、情報発信することに絞れば、つまり「広報媒体」に関する戦略を設計する、ということです。誰に向けてどんなコンテンツを作り、どんな広報媒体を作り、どう伝えていくのか。これが媒体戦略です。

戦略に基づき、いつ、どのように何を実施するのか。これが広報活動計画です。つまり戦術のことです。誰に、いつ、どこで、どのように伝えたいのか。ここに相手の立場に立ち、相手に伝わるように伝えるために、さまざまな創意工夫をすることが決定的に重要です。

戦略を立てる際、利害関係者たちがどんな環境に置かれているのかを知らなければ、最適な戦略は立てられません。利害関係者とは、企業・組織を取り巻く関係者のことです。具体的には、顧客、経営者・社員、取引先、株主、地域者社会(行政・住民)、報道機関などが挙げられます。

それぞれの利害関係者たちは、経営環境、労働環境、事業環境、社会環境、自然環境に影響を受けながら、事業を営んだり、生活をしたりしています。

労働環境でいえば、若年層は「働く」ことに対してどんな意識を持っているのか、高齢者は定年後の働き方にどんな意識を持っているのか、ということです。事業環境であれば、自社の業界に関する市場調査の結果を入手することで把握することができます。社会環境であれば、働く人に限らず生活者全般の意識調査の結果などから把握可能です。自然環境も関連調査結果から現状を知ることができます。

このように利害関係者が置かれた環境を把握、理解した上で、経営戦略は設計されるべきです。その理解をもとに新しい打ち手(=戦略)を繰り出すのです。支社を開設しよう、供給網を開拓しよう、新しい販売網を構築しよう、展示会に出展しよう、採用説明会を開催しよう、といった具合にです。あるいは自社の専門分野に関するセミナーをそれぞれの利害関係者を対象に開催する、ということもあるでしょう。報道機関とのつながりを広げるために媒体研究をしたり、記者クラブを訪ねたりする、という打ち手もあるでしょう。

このようにして設計した戦略をもとに、広報媒体を作り、伝えていくのです。つながりを持った人(個人・法人)に対して、あらゆる接触機会を生かし、伝えるのです。どんなコンテンツもちゃんと丁寧に一つ一つを目の前の人たちに伝えていくことが大切です。社員全員、全ての顧客や取引先、全ての株主に伝えましょう。釣った魚に餌をやらない、という状況は望ましくありません。

詳しくは初級講座の実務能力編「広報媒体の使い方」で解説しています。復習してみてください。

各部署がその先にいる利害関係者に対して、会社の方針もなく場当たりの姿勢で何となくコンテンツを作り、何となく伝える、という取り組みはやめましょう。広報もしっかり計画的にやりましょう。どんな広報媒体を作るのか、どうやって伝えるのか、計画に組み込んで行動しましょう。リアルの場でも、オンラインの場でもあらゆる機会を生かして、適切な形で伝えていきましょう。

経営戦略に基づいた広報戦略のもと、広報活動に落とし込んでいき、それを全部署に徹底していく。この全社的な取り組みが肝要です。

ここで声を大にして伝えたいこととして、中小・中堅企業やスタートアップにとっての落とし穴があります。案外、経営者は「魔法の杖」を探しがちです。何か目新しい、はやっていることに取り組めば、劇的に業績が上がるのではないか、と期待しているふしがあります。例えば、優良顧客が一気に集まったり、優秀な社員が集まったりするのではないか、と夢を見ている経営者が少なからず存在します。

しかし、そんな奇跡は起きるはずがありません。「魔法の杖」はありません。そんな都合のいい話があるはずがありません。だから、短期や単発で判断してはなりません。長期かつ全体を俯瞰した上での判断や評価が必要です。部分を細かく見ても、適切な評価はできませんし、間違えてしまいます。全体最適を長期で実現させるのです。短絡的な判断からは何も生まれません。短期かつ部分だけでは正当な成果を測れません。せめて3年間を区切りとしましょう。その位の期間を設けなければ、何も見えてきません。

地道に「組み合わせの妙」を駆使しながら、一つ一つ丁寧に取り組むのです。環境が変化すれば、その変化に適応できるように変えるべきところは変えればいいのです。適切に組み合わせを変え、最適なものにするのです。それを1年、2年と積み重ねます。このような過程を経て、ビジョン、目指す姿に向かって企業は成長していきます。そういう長期、全体で見ていくということが広報においてもとても大切です。

広報媒体に魅力ある情報を掲載し、利害関係者に発信することが広報活動の根幹だといえます。広報活動をどう計画するのか、ということはつまり「情報発信」をどう計画するのかに等しいといえます。ここでは「情報発信」について深掘りします。情報発信には重視すべき3要素があります。3要素とは、質・量・間(ま)です。

・質

対象、つまり利害関係者の状況に応じた適切な選択により、広報活動を計画しましょう。広報媒体をどうするのか、という戦略の話は、広報媒体戦略の講座で言及しました。

広報媒体おいて重要なのは品質です。適当な文章ではいけないし、事実から外れたことを書いてはなりません。コンテンツの品質をどう守るのか、向上させるのか。品質が問われます。

・量

次に量とは数量のことです。どれだけの人たちに広報媒体を配れるのか、ということです。身近な社員、取引先、顧客はもちろんのこと、過去の取引先や新しくつながったばかりでまだ顧客でも取引先でもない候補者を対象としてもいいでしょう。配布数や配信数のことです。量というのは文章や動画など、コンテンツのボリュームということです。

・間:時間・空間

広報媒体を、個々のコンテンツをいつどこで配布、配信するのかも重要です。伝わるかどうかを左右することがあります。「いつ」とは時間であり、「どこ」とは空間のことです。「いつ」とは、発行頻度や配信日時のことです。例えば、展示会に出展し、そこで見込み客たちに広報媒体を配布する、とします。そうなるとその展示会の開催時期や期間も「いつ」に含まれます。いつ情報を発信するのか、いつ広報媒体を配布するのか、しっかりと計画に組み入れましょう。

「どこ」とは、リアルなのか、オンラインなのか、リアルならどんな場所なのか、という接触する機会のことです。地方でセミナーや展示会を行うのであれば、その地域も「どこ」に含まれます。

オンラインであれば、近年、日本でも注目を浴びつつある、「ニュースルーム」を開設するのか、という判断です。ニュースルームとは、広報専用のウェブサイトのことです。米国や日本の先進的な企業は、自社の広報専用サイトのニュースルームをコーポレートサイトと併設しています。ストック型メディアとして、情報発信基地として運用しています。SNSはフロー型メディアです。「どこ」で情報を発信するのか。広報活動を計画する際に、抜けてはならない要素です。

コンテンツの質と数量、そして時間と空間をどう組み合わせるのか。利害関係者の状態や状況に応じて適切な選択をしつつ、計画します。

3年計画で誰にどのようなコンテンツをどう伝えるのか、いつどこで配布するのかを決めます。

採用や営業の展示会、説明会など、自社が利害関係者と接点を持てる場面があります。そういう情報をくまなく調べ、把握した上で機会を逃さずに広報媒体を配布することを続けます。経営資源には限りがありますから、全ての機会を生かせるわけではありません。優先順位を決めて、選び、計画に組み入れます。何を選ぶのか、これも組み合わせです。

そして、3年経過してみて、その組み合わせをどう変えるのか、組み合わせを見直しながら最適な組み合わせを考えるのです。A展示会は反響があったが、B展示会は空振りが多かった、と反省し改善すべきところを明らかにします。

反省と改善を繰り返し、創意工夫しつつ最適な組み合わせを探しながら活動を続けます。

これが「弾み車効果」を発揮します。「弾み車効果」とは、『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(ジム・コリンズ著、日経BP社刊)に出てくる言葉です。

円形の大きな弾み車があるとします。この弾み車を回す際、大きくて重ければ重いほど簡単には回せません。長い時間をかけて、全力で同じ方向にずっと回し続けるしかありません。そうすると、最初はゆっくりしか回っていなかったのが、だんだん遠心力により勢いが増して、回り始めます。さらに回し続けると、もっともっと遠心力が加わり、高速で回り始めます。

そうなった段階で周囲の人たちは気付きます。そして、驚きつつ、こう質問するでしょう。何回目の回し方が良かったのですか、100回目ですか、それとも1万回目ですか。どのひと押しが効いたのでしょうか。

どれかのひと押しだけが効いたのではありません。ずっと押し続けたから、100回、1,000回、1万回、10万回と回し続けたからこそ、周囲に注目を浴びるまでの状態になったのです。大きなうねりとなり、エネルギーが満ちあふれ、周囲に影響を与えられるのです。

これが「弾み車効果」です。

賢明な経営者たちは、どんな激しい変化にさらされても、事業そのものを諦めずに営み続けています。広報も同じです。価値を伝える、魅力を伝えることも同じです。どんなに激しい変化にさらされても、諦めないで魅力や価値を伝え続けていく。選ばれ続けるために伝え続けていくのです。時には組み合わせの見直しをしながら、利害関係者が置かれた状態や状況を見ながら、伝え続けていくことが重要です。そうすると、「弾み車効果」が発揮されます。「魔法の杖」はありません。長期的視点を失わず、全体最適を目指し、広報活動を計画し、実行していきましょう。

今回は、「戦略設計と活動計画」の最後の講座「3.広報活動を計画する」についての解説でした。

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