広報PRコラム#57 SECIモデル体験(3)

こんにちは、荒木洋二です。

SECI(セキ)モデルは世界唯一の、知の創造理論である、とは入山章栄氏の弁です。前回は、その出発点である「共同化」を筆者の体験を交えながら、解説しました。知の変遷を加えて、同モデルの4段階を再掲します。

①S:共同化(socialization)   :暗黙知→暗黙知

②E:表出化(externalization) :暗黙知→形式知

③C:連結化(combination)     :形式知→形式知

④I:内面化(internalization) :形式知→暗黙知

今回は、「表出化」について体験と照らし合わせながら、解説します。

■比喩、たとえ、ハッとした気付き・ひらめき

②E:表出化(externalization):暗黙知→形式知

全人格を懸けた一対一の徹底した対話、知的コンバットを繰り返すことで共感が生まれます。これが知の創造における起点です。ここから知の創造は始まります。ただ、この段階ではまだお互いに暗黙知のまま、自らの内に秘めているわけですから、お互いの暗黙知が増大した状態です。これでは他者に伝わりません。現場で使うこともできません。

次の段階は、共感した暗黙知を形式知に変えることです。「見える化」することです。その代表的なものが言語化です。そして、概念としてまとめることです。図像にすること、仮説を立てることも形式知化に当たります。

暗黙知を形式知とする際、重要なことは三つあります。比喩、たとえ、ハッとした気づき・ひらめきです。

筆者の経験は前回述べたとおりです。「そもそも広報とは何か」という問いに対して、一対一で徹底した対話を繰り返すことで、「それは『企業の人格』」である、という言語が生まれました。そして、これを当社の企業理念としました。現在も名刺の裏面に記載するなど、掲げています。

どういう意味があるのか。一つには、代表者個人と、企業などの法人は別人格であることを示しています。企業は法的に人格を認められた存在です。ともすると、強烈な個性を持った創業者やカリスマ的な経営者は、企業と同一のように扱われます。しかし、企業は、代表者個人とは別に納税しています。つまり法的には別人格です。経営者も、企業の前では一人の利害関係者に過ぎません。もちろん責任は重大ですし、さまざまな役割も担っています。企業経営において、このことは重要な意味を持ちます。

もう一つは、広報PRを実践することで「企業の人格」は形成される、という意味です。これは概念ともいえます。「企業の人格」を形成するために広報PRは欠かせない、ということです。

「企業の人格」とほぼ同時に言語化したのが、「みる、きく、考える、はなす」という言葉です。広報PRを実践するとは、どういうことか。小学生にも要点が理解できるためにはどう表現すればいいのか。そこで、「企業の人格」同様に、企業を「人」で比喩すればいい、たとえればいい、と気付きました。それが「みる、きく、考える、はなす」という言葉です。目の前の利害関係者と向き合い、「みる、きく、考える、はなす」という、双方向のコミュニケーションを行うこと。これが広報PRを実践するということです。今回は詳述しませんが、平仮名の言葉はあえてそうしました。

■その瞬間、その場で共感できる言語が生まれる

筆者の経験で言えば、「共同化」と「表出化」は同時に進行しています。営業に同行したり、同じ空間で仕事したりする、という身体による共同体験が「共同化」の要点の一つです。この共同体験を土台にしつつ、知的コンバットを繰り返すうちに、ハッとした気付きやひらめきがあるのです。その瞬間、その場で共感できる言語が生まれます。

どちらが言葉を発したのか、お互いにほとんど覚えていません。対話の中から、「これだ!」と腹落ちする言葉が生まれるのです。この気付きやひらめきから今も新しい言語や概念が生まれる、という現象が続いています。

14年にわたる知的コンバットで生まれた言語や概念の一部(前述の二つ以外)は、次のとおりです。

・「知らない」ということは、「存在していない」と同じである

 だから、「知らせる」ことから全ては始まる

・広報PRの目的は、(利害関係者から)「選ばれ続ける」ことである

・ブランディングとは、「選ばれ続ける」ための全ての行為である

・企業が発信する公式情報は、「表舞台」と「舞台裏」の2種類である

・広報基本4媒体とは、ファクトブック、プレスリリース、ニュースレター、アニュアルレポートである

・広報PRとは、表裏を見える化し、自ら内外に伝えることである

言語や概念だけではなく、図像にすることにも努めました。図像とするのは、主に筆者と14年間にわたり、共に歩んでいる「相棒」の役割でした。
その代表的なものを一つ挙げます。企業の業績と価値を面積で表しました。さらにこの図像から着想を得て進化させた「PFEC(ピーエフイーシー)サイクル」です。これらは2015年9月、日本広報学会の研究発表大会で筆者が発表しました(※本研究発表のPDFデータがページ最下部よりダウンロード可)。
PFECサイクルは、SECIモデル同様に四象限で表します。

①P:潜在的価値(Potential Value)   

②F:機能的価値(Functional Value) 

③E:情緒的価値(Emotional Value)     

④C:継続的価値(Continuous Value) 

業績を面積で表示する際には、機能的価値を縦軸、情緒的価値を横軸にします。機能的価値の値と、情緒的価値の値で囲まれる四角形の面積こそが、業績であると説明しました。この業績の図像は、2カ月前から変化を遂げて、現在は別の表現で用いています。

「共同化」の三つの要点は、共同体験、一対一の徹底した対話、共感です。「表出化」の三つの要点は、比喩、たとえ、ハッとした気付き・ひらめきです。

「共同化」と「表出化」を何度も繰り返す過程で、3段階目の「連結化」がなされます。当社の場合、「連結化」は主に筆者の役割でした。前述した言語や概念、図像をもとに、一つの理論として体系立てることに没頭した時期がありました。

次回は「③連結化」を体験と照らし合わせて、解説します。

★参考文献

『世界標準の経営理論』(ダイヤモンド社刊、著者:入山章栄)

『企業経営における新しい価値創造フレームワーク「PFECサイクル」 〜中小企業経営にパブリック・リレーションズとリスクマネジメントを定着させるために〜』(執筆者:荒木洋二/日本広報学会20周年記念大会・第21回研究発表全国大会「統一論題 リスクマネジメントと組織コミュニケーション」)

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