広報PRコラム#50 広報人とは(3)

こんにちは、荒木洋二です。

「広報人」の使命とは、関わる全ての人の心に、わが社の魅力を焼印することです。ブランドの語源は、家畜を識別するための焼印である、と前々回に述べました。企業ブランドとは、ステークホルダーの心に焼印された「わが社の魅力」のことともいえます。広報人としての使命を遂行するためには、次の四つに取り組まなければなりません。

1)関わる全ての人と正面から向き合う

2)わが社の魅力(「表舞台」と「舞台裏」)を明らかにする

3)表・裏(「表舞台」と「舞台裏」)を見える化する

4)わが社の魅力を内外に伝える

■SIPSって何?

前回は、1番と2番の解説、「3)表・裏を見える化する」の骨子までを解説しました。「裏=舞台裏」を明らかにすることが、魅力の「焼印」には欠かせないということを強調しました。

佐藤尚之氏は電通で30年近く活躍した人です。彼がちょうど10年前に出版したのが、『明日のコミュニケーション 「関与する生活者」に愛される方法』(アスキー新書刊)です。広告の最前線を歩んできた人が、自ら実践し、体験したソーシャルメディアの可能性や、これからの時代のコミュニケーションのあり方を示しています。筆者とは歩んできた道も、立っていた場所も違うのですが、当社で言うところの「舞台裏」の重要性を彼も説いています。

生活者の購買行動プロセスとして有名なのが、「AIDMA(アイドマ)」の法則です。インターネットが普及することによって、同プロセスに変化が現れました。それが電通が提唱した「AISAS」(アイサス)の法則です。それぞれ、何の略で何を示すのかは、次の通りです。

まずはAIDMAです。

・A = Attention = 注意

・I = Interest  = 興味

・D = Desire    = 欲求

・M = Memory    = 記憶

・A = Action    = 行動


次にAISASです。

・A = Attention = 注意

・I = Interest  = 興味

・S = Search    = 検索

・A = Action    = 行動

・S = Share     = 共有

インターネットを日常的に利用していない人の行動プロセスは、今も変わらず、「AIDMA」です。インターネットを利用するが、ソーシャルメディアを普段は積極的に使わない人は、今も変わらず「AISAS」です。佐藤氏はソーシャルメディアが普及することによって、新たに「SIPS」(シップス)という法則を提示しました。ソーシャルメディア時代、これら三つの組み合わせで企業のコミュニケーションは構成されます。誰に伝えるのかによって変わるだけで、三つは並存していると佐藤氏はいいます。

SIPSの詳細は次の通りです。

・S = Sympathize     = 共感する

・I = Identify       = 確認する

・P = Participate    = 参加する

・S = Share & Spread = 共有&拡散する

■発信元への共感が問われる

佐藤氏は、購買行動に強い影響を及ぼす人たちを「関与する生活者」と名付けました。ソーシャルメディア時代の生活者は、それぞれが複層的にさまざまなコミュニティに属しています。会社の同僚、仕事仲間、(居住)地域の知人、出身地域(地元)の友人、趣味(スポーツ・音楽など)の仲間など、複層的につながっています。このつながりがソーシャルメディアを介して、次のつながりを生み出します。特に社会課題などに問題意識や当事者意識を強く抱く人たちが「関与する生活者」です。彼らはさまざまなつながりを持ち、いずれに対しても影響力を及ぼせる人たちです。以前のマーケティングではイノベーター(革新者)と呼ばれたし、インターネット時代にはアルファブロガー、インフルエンサーと呼ばれている人たちと重なります。

SIPSの起点は共感です。ソーシャルメディアで発信される情報に共感がまとっているのか。ここが全ての始まりです。彼が言うところの共感とは、「『笑えた』『泣けた』『心が震えた』などの情緒的な感動」だけでなく、「『これ好きかも』『面白いね!』『新しい!』『かわいい!』などの好感・興味・関心、『有益だ』『役に立つね』などの情報的価値」なども含まれています。情報そのものへ共感できるのかが、問われます。

広報・PR業界や、近隣の広告やマーケティング業界では「バズる」や「バズらせる」という言葉が、今も日常的に飛び交っています。当社が交流する多くのスタートアップ、中小・中堅企業では、経営者やビジネスパーソンたちがソーシャルメディアに対し過剰な期待を抱いているように見受けられます。魔法の杖や飛び道具のように認識し、一瞬にして、日常の景色が変わる、大きな変化が訪れることを期待しているかのような発言がたびたび聞かれます。

佐藤氏の洞察は示唆に富んでいます。まず、ソーシャルメディアで発せられる情報自体に何らかの共感がまとっていなければ、何も始まりません。しかし、情報に共感がまとうだけでは、最後のプロセスである「共有&拡散する」までには到達しません。「関与する生活者」は、その情報の発信元が信頼できるのか、共感できる存在なのかを「確認する」のです。もちろん信頼関係がすでに築かれている友人・知人などの情報に共感がまとっていれば、SIPSの流れはスムーズでしょう。

しかし、発信元が企業の場合、そう簡単ではありません。いくら共感をまとう情報が発信されていても、そのまま「共有&拡散する」までスムーズに流れるとは限りません。彼らは発信元の企業をかなり厳しく「確認する」のです。企業自身が信頼できるのか、その企業に共感できるのかがその後の流れに大きな影響を及ぼします。確認した際に信頼できるかどうか、共感できるかどうかは、企業の「中身」を見せられるかどうかで決まると、佐藤氏は断言しています。広告におけるコミュニケーションは、きれいに化粧する、外見や表面を着飾ることに似ています。悪いことはではありません。必要なことです。しかし、それだけでは人から信頼されないし、共感もされません。問題は「中身」です。どんなに着飾っても、もし実態と乖離していれば、今の時代、すぐに露わにされてしまいます。ソーシャルメディアで晒されてしまいます。

ここで、同書で佐藤氏が「中身」の重要性について述べている内容を紹介します(引用符内。原文のママ)。

「一方的に口説いていた時代には見せていなかった『中身』を相手にオープンにする。自分に都合がいいところばかりを見せるのではなく、都合の悪いところも見せる。普段の行動もちゃんと見せる。社会に関わる姿も隠さず見せる。そして長くつきあう。ずっとつきあう。そんな関係になるべきなのだ」。

着飾った姿ばかりを見せるのではなく、普段のありのままの姿を、等身大で、包み隠さず見せることが重要だということです。そして、ずっと長く付き合うのです。そうすることで信頼され、共感もされるのです。一朝一夕で信頼関係が築かれるはずがありません。同書では「ロング・エンゲージメント」という表現で長期にわたる関係が重要であることを伝えています。「舞台裏」の情報を常に晒し、見える化することでしか、企業は共感は得られないということです。発信元への共感なしには、次へは進めないのです。佐藤氏が言うところの「中身」とは、すなわち「舞台裏」の情報のことです。結局、問われるのは「舞台裏」の情報を見える化すること、そして、その情報を蓄積することです。

■「舞台裏」を積極的に見える化

近年の企業社会で流行している、採用のためのLP(ランディングページ)、新規顧客候補と接点を持ち関係を築くためのオウンドメディアはどうでしょうか。多くのLPは着飾って、普段とは違う姿を見せています。オウンドメディアは「発信元である企業」を目立たなく、隠すように振舞っています。そうすることが正しいと信じているかのように。

広報・PRに積極的に取り組む先進的な大企業たちは、わが社の魅力を蓄積した「ストック型メディア」(コーポレートサイトやニュースルーム)に、いかに大切なステークホルダーたちに訪ねてもらえるかに腐心しています。普段の行動や社会との関わり方、何を考えどこを目指しているのか、多くの登場人物とともに伝えています。その登場人物自体が企業と深い信頼関係で結ばれている人たちです。ソーシャルメディアは注意を引いたり、興味を持ってもらったり、あるいは共感をまとった情報に触れてもらったりするための「フロー型メディア」という位置付けです。

当コラムでも以前取り上げたこともある、「舞台裏」を積極的に発信する企業を紹介します。企業の中身、普段の行動や社会と関わる姿、ありのままの姿を発信し、蓄積しています。

・トヨタ自動車 ニュースルーム

テレビCMで有名な『トヨタイムズ』もニュースルームページのトップから動線が引かれています。『トヨタイムズ』の内容はほぼ社内報に近く、社会と関わる姿や表からでは見えない事業の舞台裏に迫っています。ありのままの姿を伝えようという意気込みが感じられます。

・エンジャパン ウェブ社内報「en-soku

広報部以外の社員200人がレポーターとして、社内の日々の出来事を毎日発信しています。隠すことなく、普段の行動を視覚表現も豊かに発信しています。企業文化、組織文化が肌身で感じられます。社内報といいながら、来訪した人は誰でも全て閲覧できる、オープンなサイトです。

任天堂(社員の声)

もともとは新卒者向けの採用専用サイトだと聞いています。全部署の60人近い社員たちが写真付きで登場します。デザイナー、エンジニアだけでなく、法務や経理などの社員たちも登場し、誇りを持って仕事に取り組む姿勢が伝わります。

セールスフォースドットコム(顧客事例)

顧客企業へ丁寧に取材しています。顧客企業担当者の写真も掲載され、200社、いやもっとあるでしょうか。非常に多くの企業が掲載されています。顧客体験を追体験できる「顧客事例」は、「舞台裏」情報の最たるものです。

ニュートン・コンサルティング(顧客事例)

コンサルティング事業を生業とする企業において、模範ともいえる情報発信を行っています。営業担当がいなくても、引く手数多のリスクマネジメントのコンサルティング会社です。豊富な顧客層が真摯にインタビューに答える姿がどれも印象的です。信頼が伝わる圧巻のサイトです。

今回挙げた以外にも「舞台裏」を積極的に伝えている企業はいくつもあります。当コラムなどで今後も定期的に紹介します。

「舞台裏」を「見える化」することが、心に「焼印」するための一丁目一番地です。「広報人」たるもの、自社の「舞台裏」をいかに「見える化」するのか、このことを常に念頭に日々の業務に当たりたいものです。

次回は、「広報人とは」の第4回です。「4)わが社の魅力を内外に伝える」について解説します。

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