広報PRコラム#48 広報人とは(1)
こんにちは、荒木洋二です。
当社は、10月1日、実践型の広報PR人材育成プログラム「広報人倶楽部」を開設しました。「広報人」は「こうほうじん」と読みます。開設に先立ち、9月28日にはプレスリリース(報道関係者向け発表資料)を記者クラブに投函、配信事業者による一斉配信も行いました。当社ニュースルームでも同日公表しました。
◆企業理念とビジネスモデルが一致
当社は「広報人倶楽部」の運営を事業の柱に据えました。会員制度を設け、会員向けのサービスを提供します。現在のサービス内容は、245講座(約34時間)のeラーニング、広報専用ウェブサイト「ニュースルーム」を運営できるシステムの提供、経営者向け勉強会開催、実務担当者向け広報媒体作成のオンライン・ワークショップ開催、オンライン相談などで構成しています。会員企業の要望を的確に捉え、サービス内容は今後も拡充します。
「ニュースルーム」とは、企業・組織の公式情報を全て集約したストック型メディアです。関わる全ての関係者(利害関係者と言います)に迅速に情報を共有する役割を担っています。GAFAなど、米国企業が数年前から導入、国内ではトヨタ自動車を筆頭に先進的な大手企業の導入が相次いでいます。コーポレートサイトの一環として、「ニュースルーム」を設け、公式情報を毎日のように発信しています。
公式情報とは、プレスリリースや業績報告だけでなく、社内報や顧客向け情報誌など印刷媒体に掲載していた情報も含まれます。当社でいうところの「表舞台」と「舞台裏」の情報です。最近では、金融機関のりそなホールディングスが7月12日、ニュースルームを開設しています。同日のプレスリリースでは、「りそなグループの最新情報や取り組みをステークホルダーのみなさまに幅広くお届けすることを目的に、情報発信メディア『ニュースルーム』を開設」したとしています。それまではオウンドメディア(自らが所有するメディアの意/一般的には「顧客向け情報メディア」を指す)など、さまざまな形態で分散されていた情報を一元化させ、見やすさや分かりやすさにこだわって情報発信するとしています。今後、ニュースルームを開設する企業が増えていくことは間違いありません。
ところで、筆者は2021年1月4日、当ニュースルームで新年のあいさつを述べました。その中で、「当社はニュースルームのCMS(コンテンツ・マネジメントシステム)の提供を事業の柱に据えました。企業理念を掲げて14年。ようやく企業理念とビジネスモデルが一致」したと明言しました。恥を忍んで、前言撤回します。事業の柱は「広報人倶楽部」です。いや、撤回というより少々軌道修正した、あるいは拡充したと言うべきでしょうか。サービスの一環として、ニュースルームのCMSを提供することに変わりはないのですから。
◆広報人育成により広報文化を醸成
創業して間もない頃、現在も二人三脚で歩む「相棒」と出会いました。彼との出会いをきっかけに、当社の企業理念とビジョンは決定しました。
当社のバイブルといえる書籍の一つが『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』(ジェームス・C・コリンズ著、日経BP社刊、2001年)です。詳しい説明は省きますが、同書では企業経営をバスの運転に例えています。「どこに行くのかを先に決めるでのはなく、バスに誰を乗せるのかによって行く先は決まる」という意味合いのことが書かれています。「相棒」と呼べる存在をバスに乗せたことで、当時、それまでの自分自身が想像さえしていなかった、企業理念とビジョンが生まれたのです。日々の実践と激論から、紡ぎ出されたのです。
・企業理念:それは「企業の人格」 調和による安心な社会を創る主体たれ
・ビジョン:広報文化の普及・定着
今年の8月、わが社も創業16年目に突入しました。日本社会に広報文化を定着・普及させるため、ここ2、3年をかけながら、大胆にビジネスモデルの変革に挑戦しました。ビジョンの実現に本気で取り組むことを覚悟してからも、試行錯誤を繰り返しました。そして、ようやくたどり着いたのが「広報人倶楽部」です。理念とビジョンとビジネスモデルが一直線でつながりました。ビジョンもより明確にしました。
・広報人育成により広報文化を醸成する
日本社会に広報文化を広げ、定着させるためには「広報人」の育成が欠かせません。「広報人」の存在なくして、広報文化を日本社会に醸成することはできません。学生たち、90数%を占めるといわれる中小企業の経営者たち、その下で働く社員たち、行政・NPO・各種法人などあらゆる組織で働く人たち。多くの「広報人」を育成したい。そのプラットフォームとなる役割を果たしたい。そんな熱い思いでサービスを始めました。
◆価値を共に創造する仲間たち
では、「広報人」とはどんな存在でしょうか。どんな思いでどんなことをする人でしょうか。どんな能力を備えればいいのでしょうか。
これらをご理解いただくために、まず、広報の本来の意味、本質を解説します。「本来」とか、「本質」とか明言すると、他者の考えを真っ向から否定することにつながりかねません。当社が定義した「本来の広報」、「真の広報」であり、「広報の本質」と言ってもいいかもしれません。もちろん何も特別新しいことを述べるわけでもありませんし、言い古されていることでもあります。ただ、企業社会の現場で定着している、「市民権」を得ている「広報」や「PR」とは異なるものであることは間違いがありません。「本来の広報」を解説した上で、「広報人」の使命、役割、身に付けるべき能力などをひもときます。
広報とは何でしょうか。答えは次のとおりです。
・広報 = PR = パブリック・リレーションズ
第二次世界大戦後、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が日本に民主主義を定着させるために、全国の自治体にPRO(PRオフィス)を設置したといいます。その流れで全国の自治体には必ず「広報課」、あるいは「広報広聴課」が設置されています。行政では、「広報」は当たり前になっています。日本ではこの他にもいくつかの流れがあり、PRを「広報」と訳しました。
PRとはパブリック・リレーションズの略で、広報とPRは同意語、同義語です。当コラムで繰り返し、説明してきたことです。では、社会を構成する主体である企業にとって、「パブリック」とは誰を指すのか。それは、企業を取り巻く全ての関係者のことです。利益も損害も影響し合う、共有する関係者ですから、「利害関係者=ステークホルダー」と呼ばれています。相互に自立しながらも、無関係ではいられない存在です。経営者、社員、顧客、取引先、パートナー、株主・金融機関、地域社会(住民・行政・NPO)のことです。すなわちパブリック・リレーションズとは、「利害関係者と良好な関係を構築する」という概念なのです。
さらに突き詰めてみましょう。利害関係者がいなければ、企業は事業を営むことができません。価値を生み出すことも、提供することもできません。経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」は全て利害関係者との関わりから生まれるもの、あるいは利害関係者そのものです。利害関係者こそ経営資源であるといえます。利害関係者は企業にとって、価値を共に創造する仲間たちなのです。
◆関わる全ての人の心に「焼き印」を
では、「広報人」の使命とは何でしょうか。
「広報=パブリック・リレーションズ」の実践により、企業ブランドは構築されます。企業ブランド確立のために広報は欠かせません。企業ブランドを構築するための取り組みこそが「ブランディング」といえます。
ここで「ブランド」の語源を確認しましょう。かつて、畜産家たちは自分の家畜を他と区別するために家畜の額に「焼き印」を押しました。他の家畜と識別するために「焼き印」したのです。ですから、企業社会でブランドといえば、特に「企業ブランド」と言った場合、ロゴを作ることなど、ビジュアル(視覚)表現ばかりが注目されています。もちろん視覚表現は重要です。理念や組織文化を表すロゴは重要な意味を持ちます。
しかし、もっと大切なことがあります。ブランドとは「焼き印」ですが、「企業ブランド」と言った場合、どこに「焼き印」するのでしょうか。モノではありません。ロゴのような目に見えるものではありません。人の心に「焼き印」するのです。
では、何を焼き印するのでしょうか。わが社の魅力を「焼き印」するのです。これこそが企業ブランドの本質といえます。
まとめます。
・関わる全ての人の心に、わが社(わが組織)の「魅力」を焼き印する
関わる全ての人とは、利害関係者のことです。価値を共に創造する仲間たちのことです。彼らの心に「焼き印」するのです。
「広報人」の使命とは何か、どんな役割を担っているのか。その答えでもあります。
では使命、ミッションを果たすために、「広報人」は何をすべきでしょうか。それは次の四つに集約されます。
1)関わる全ての人と正面から向き合う
2)わが社の魅力(「表舞台」と「舞台裏」)を明らかにする
3)表・裏(「表舞台」と「舞台裏」)を見える化する
4)わが社の魅力を内外に伝える
ここで「内外」とは、「身内=仲間内」とそれ以外ということです。「内」とは価値を共に創造する仲間たち、つまり利害関係者たちです。「外」とはそれ以外ですから、もう少し説明しますと「未来の利害関係者」、「明日の利害関係者」たちのことです。まだ利益や損害を影響し合わない、共有していない、関係を結んでいない人(個人・法人)たちのことです。企業として、これから接点を持つことを望んでいる人たちです。仲間になってほしい、仲間にしたい人たちです。彼らとは接点を持つだけにとどまらず、そこから良好な関係、信頼関係を築くことを目指しています。理想は、わが社に起こる全てを、良いことも悪いことも、「自分事」として捉えられる「当事者」として関わってくれる存在になることです。
次回は、「広報人」が取り組むべき四つのことについて解説します。