中級講座 Ⅰ.理論・基礎知識 広報・PRの歴史 日本の広報・PR業界:業界関連企業・組織
こんにちは。荒木洋二です。
今回は「広報・PRの歴史」最後の講座です。
今回も前回から続き、「3 日本の広報・PR業界」について説明します。前回は、「④PRプランナー資格認定制度」についてでした。今回は、「⑤業界関連企業・組織」について解説します。
広報・PR業界における関連企業と組織を紹介します。
・クリッピング・モニタリング
・ネット風評対策
・リスクマネジメント人材育成
この三つのテーマに分類して紹介します。
皆さんが企業・組織の広報担当者として、外部委託することで自社の広報活動を支援してもらえるであろう、企業や組織を紹介します。ただ、費用がかかることですので、今すぐ使いましょう、という意味ではありません。
自分の組織における経営資源の状態をよく把握した上で、適切な形で利用していきましょう。
やはり広報・PRを組織でしっかり機能させようとすると、「見る・聞く」という能力が備わっているかどうかが問われます。利害関係者と信頼関係を構築するためには、コミュニケーションは欠かせません。その際にまず相手を知ることから、相手の置かれた状況を知ることから始めなければなりません。となると、市場動向やアンケート調査など、マーケティングがどうしても必要です。
・クリッピング・モニタリング
報道されたニュース・記事を調査することをモニタリングといいます。企業名や製品名など、設定したキーワードが記載されたニュース・記事を抽出することをクリッピングといいます。これは業界情報を入手する際にも非常に役立ちます。
代表的な会社として、以下の3社が挙げられます。
いずれも社歴は長い企業です。
全ての会社のURLを載せていますので、関心のある人は上記にアクセスして、詳細を確認してみてください。
ジャパン通信と内外切抜通信社は、印刷(紙)媒体のモニタリングとクリッピングを行う会社です。
利用するには、基本料金がかかります。月額定額で2万円前後です。加えて、クリッピングされた記事単位で従量課金されます。利用方法は基本料金内で決められた数のキーワードを設定します。従量課金については、新聞であれば1記事100円程度、業界紙は同500円前後、雑誌であれば1,000円程度です。
いずれの会社も新聞、業界紙、雑誌など印刷媒体で約2,500媒体を網羅しています。設定したキーワードで毎日モニタリングし、定期的に掲載結果を報告してくれます。2週間に1回、抽出した記事をまとめて郵送してくれます。
「ELNET」というサービスもあります。毎朝該当記事を報告、提供してくれます。ただ、前述のものと比較すると、価格がかなり高いので大企業でないと利用は向かいないでしょう。
近年、前述の2社もクリッピング・モニタリングする範囲は、印刷媒体だけでなく料金をプラスすると、ウェブもカバーするようになりました。テレビや口コミ、海外も対象に幅広くクリッピング・モニタリングしています。
その他オプションとして、追加料金を支払えば、記事を広告費に換算するといくらになるのかも算出してくれます。広告換算がどれほどの意味を持つのかは、評価が分かれるところです。一つの評価を基準として、広告費に換算してみましょう、というのが広報・PR業界では定番となっています。追加料金を支払うことで、記事を台紙に貼り付けしてもらえますし、報道を分析してもらえます。
ニホンモニターは、テレビ番組の報道調査会社です。印刷媒体中心のクリッピング会社は、テレビ番組についてはニホンモニターのような会社と提携している場合もあります。放送日・番組名・ヘッドライン・出稿時間などで報道されたニュースを録画してくれます。
・ネット風評対策
今やネット全盛時代です。誰も疑うことではありません。ネット全盛時代のリスクマネジメントを担っているのが、ネット風評対策の会社たちです。
利害関係者たちのクレームや意見に耳を傾けることはとても重要です。それを「見える化」するためにあるのが、風評対策を事業として営む会社が提供しているツールです。
現在、ネット上ではさまざまな情報が流れています。どんな情報が発信されているのか。これは初級講座の「理論・基礎知識編」の「生活者はどう情報を選ぶのか」の講座(講座番号11018)内でも解説したように、生活者はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)上で発信された、「みんなの意見」を聞きます。確認します。単なるクレームもあるかもしれませんが、中には貴重な意見もあります。自社や自社製品がどう評価されているのか。毎日「見える化」することはとても大切です。
「炎上と口コミ」の実態については、中級講座の「理論・基礎知識編」、次の「メディアとは?」の講座内で詳説します。
ネット苦情対策の会社を3社紹介します。以下のとおり、リンクしていますので、関心のある人は直接アクセスして、詳細を確認してみてください。
ソルナ株式会社
ソルナは「カイシャの病院®️”だからできる、ネット上の風評被害の根治を実現する」をキャッチフレーズに「治療」と「予防(検査)」に関する事業を展開しています。風評被害のコンサルティングも行っています。それ以外には検索エンジンの表示対策や、自社で対策を可能にするノウハウも提供しています。24時間、ネット風評を監視しています。採用時の人材チェックなども実施しています。現在、就活学生がSNSでどんな情報を発信しているかによって、採用するかどうかを判断ましょう、という風潮があります。「ネットの履歴書」という名称でサービスを提供しています。ネットリテラシー研修なども行っています。
株式会社リリーフサイン
ソーシャルモニタリングツール「e-mining」(イー・マイニング)を提供しています。「e-mining」ツールは提供を開始してから10数年と、長期間にわたって利用されています。風評対策ツールとしては「老舗」です。ただ、提供会社は転々と移ってきました。ツールだけを買収されたり、譲渡されたりするなど変遷がありましたが、「e-mining」という名称で長く、多くの企業などで愛用されているシステムです。現在、初期費用10万円(税別)、月額16万円(税別)〜、という料金体系です。
「e-mining」はソーシャルメディアをモニタリングするツール、システムです。会社名や商品名をキーワード設定すると、テクノロジーで該当する情報を拾い上げてきます。それ以外に、有人監視(目視)による炎上リスクモニタリングも行っています。炎上早期発見の「炎上アラート」、トレーニング、運営体制支援なども提供しています。
株式会社エルテス
他の2社と同様、ウェブでのリスクモニタリングをしています。「Internal Risk Intelligence」という内部脅威を検知するためのシステムを有しています。「MIHALU」という小売店向けの不正検知なども行っています。
以上の3社が、私の知る限り代表的なネット風評対策の会社です。ご関心のある人、ぜひ各企業のウェブサイトを閲覧してみてください。
・リスクマネジメント人材育成
最後に、リスクマネジメントの人材育成です。現代は不確実性の時代と言われています。そもそも未来に何が起こるかは分かりません。予想することは非常に難しい。2020年でいえば、新型コロナウイルス感染症があっという間に世界中に広がりました。パンデミックが起こりました。この事態を見ても明らかなように、将来に何が起こるかは予測できません。ですから、組織全体にとってリスクマネジメントが必要です。
「リスクマネジメント」という言葉を使っていますが、そもそもリスクマネジメントとは何でしょうか。同じ中級講座「理論・基礎知識編」の中で「経営と広報」という講座があります。その講座で、「そもそもリスクマネジメントとな何か」という基礎について詳しく説明しています。
リスクマネジメントも広報・PRと同様に人材育成が欠かせません。「見る・聞く」という観点でいえば、リスク感性を養わなければなりません。重大な事故・事件などの危機が発生する兆しを敏感に迅速に察知できる能力です。
自分たちが現在どういう環境に置かれているのか。その環境にはどういうマイナスな要素が潜んでいるのかということを正しく認識できなければなりません。
初級講座で学んだ「見る・聞く」では、プラスの情報を中心に話をしていました。そうではないマイナスの情報もしっかりと把握しましょう、ということです。
リスクマネジメント全般を扱うコンサルタント会社です。大企業や官公庁、外資系まで幅広く手掛ける、おそらく日本一の実績を誇る会社です。
コンサルティングの料金は中小・中堅企業にとっては高額と感じるかもしれません。教育機関として「ニュートンアカデミー」を開設、運営しています。
教育内容はBCP(事業継続計画)、サイバーセキュリティなどテーマも多岐にわたります。新任者研修から管理職向けの研修まであり、幅広く網羅しています。
詳しくは同社ウェブサイトにアクセスしてご確認ください。さまざまな講座が準備されています。講座時間は短いもので2時間、長いもので1日コースがあります。各コースの価格は1人3万円(短時間)から10万円(長時間)で提供しています。
自分の会社にはリスクマネジメントの専門人材が必要である、あるいは広報担当者がリスクマネジメントの専門的な内容を身に付けよう、知識を身に付けようということであれば、「ニュートンアカデミー」を受講してみてもいいかもしれません。
もう一つ、NPO法人を紹介します。手前みそで大変恐縮なのですが、私自身が理事長を務めています。リスクマネジメントの専門人材を育成しています。私自身が関わったのは2004年、事務局長に就任しました。同団体は1993年12月の設立です。現在(2021年10月)、28年目の団体です。リスクマネジメントに関する独自の専門資格を発行しています。リスクマネジメントに関する講座も提供しています。主な講座は次のとおりです。
「リスクマネジメント基礎講座」
「リスク診断士対策講座」
「リスク診断士実践・実務講座」
「外見リスクマネジメント講座」
それ以外に、先ほど風評対策で紹介したソルナさんと協力して、「ブランドドクター」という資格も発行しています。
BCP領域ですと、「RMCA BCPアドバイザー」という資格も発行しています。
ご関心のある人はウェブサイトにアクセスしてみてください。個人会員と法人会員の制度があります。会員以外でも(有料ですが)参加できるセミナーも行っていますので、勉強してみるのもいいかもしれません。
広報・PRとリスクマネジメント、CSR(企業の社会的責任)は関わりが深いです。考え方を整理しなければならない部分もありますので、中級講座「経営と広報」の講座で詳しく説明します。
企業・組織が成長していく過程では、さまざまな不確実なことに直面します。リスクは顕在化します。リスクマネジメントを学習する、あるいは専門事業者を活用することも必要です。
これで「3 日本の広報・PR業界」の「⑤業界関連企業・組織」についての解説を終わります。
ぜひ、企業の成長レベルに応じて、自らの必要性や関心の度合いに応じて、今回紹介した会社と連携してみるのもいいかもしいません。
以上で「広報・PRの歴史」の全講座を終了します。