広報PRコラム#49 広報人とは(2)

こんにちは、荒木洋二です。

前回のコラムで当社のミッションを示しました。

「広報人」を育成することにより、日本社会に広報文化を醸成する

これは、筆者自身が生涯をかけて成すべき仕事でもあります。「仕事」とは、「事」に仕えることです。その始まりが「広報人倶楽部」の開設です。「広報人倶楽部」の成長と発展に心血を注いで取り組む所存です。

■「広報人」の使命

前回述べたことをここで再び記します。まず、「広報人」の使命とは何か。

・関わる全ての人の心に、わが社(わが組織)の「魅力」を焼印する

これが「広報人」の使命、役割です。次に「広報人」は自らの使命、ミッションを果たすために何をすべきか。

1)関わる全ての人と正面から向き合う

2)わが社の魅力(「表舞台」と「舞台裏」)を明らかにする

3)表・裏(「表舞台」と「舞台裏」)を見える化する

4)わが社の魅力を内外に伝える

上記四つに集約されます。一つ一つを確認しましょう。

1)関わる全ての人と正面から向き合う

企業は、大勢の人たちと関わることで初めて存立できます。取り巻く関係者たちの存在なくして、成長も持続的発展もあり得ません。取り巻く関係者のことを「利害関係者=ステークホルダー」といいます。主体ごとに分解しますと、経営者・社員、顧客、取引先・パートナー、株主・金融機関、地域社会(住民・行政)などに分けられます。本質的には彼らは個人・法人を問わず、価値を創造する仲間たちです。それぞれがどういう人なのか。向き合わなければ、何も見えてきません。

・どんな人(属性)なのか。

・現在、どんな状態なのか。

・どんな状況に置かれているのか。

・どんなことに関心があり、どんな課題を抱えているのか。

・なぜ、当社を選んだのか。

・これからも関係を続ける意思があるのか。

・何を期待しているのか。

・他者に薦めたいのか。

・当社に対してどう思っているのか。

「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という有名な故事をご存じでしょう。まず、真正面から向き合い、相手を「知る」ことから始めなければなりません。彼を知ることは己を知ることにもつながります。もっと言えば、彼を知ることは己を知ることに他なりません。ステークホルダーが身内であるということは、つまりその会社自身であるとも言えるからです。

知るために必要なことは二つです。「見る」ことと、「聞く」ことです。何を見るのか。その姿であり、行動そのものです。行動を観察し、洞察するのです。何を聞くのか。その生の声に耳を傾けるのです。傾聴するのです。そして、声にならない声までも聞き分けるのです。

コミュニケーションの基本は「見る・聞く・考える・話す」の四つで構成されます。まず、目の前にいる人のことを「知る」ことから始めます。遠くの誰か、これから出会い、共に歩むかもしれない誰かも重要です。しかし、「広報人」はすでに目の前にいる人と真正面から向き合うことが本分といえます。目の前にいるのが、ステークホルダーたちです。

「広報」というと、とかく伝える、発信することだけが注目されがちです。伝わるような文章を書く能力、シナリオを作る能力、動画などで表現する能力はもちろん重要であることに違いはありません。しかし、報道関係者がそうであるように、現場・現地・現物をつぶさに見ること、人の話をじっくり聞くこと、その事実から本質を見抜く力も同様に重要なのです。取材力や分析力も問われます。

2)わが社の魅力(「表舞台」と「舞台裏」)を明らかにする

それぞれのステークホルダーと向き合うことで、初めて見えてくること、分かることがあります。

「広報人」の使命とは、わが社の魅力を関わった全ての人たちの心に「焼印」することです。では、わが社の魅力とは何でしょうか。結論から言えば、わが社の「表舞台」と「舞台裏」に魅力は現れます。「表舞台」とは、それぞれのステークホルダーの属性であり、彼らと生み出した結果であり、事実です。

・表舞台

企業の基本情報(社名・設立・所在地・代表者・事業内容・拠点・沿革)

理念・ビジョン/事業領域/事業・製品・サービスの詳細情報/業績・実績/経営戦略/各種経営施策/経営陣・社員のプロフィール・構成/顧客・取引先・株主の構成・地域社会の実態 など

「舞台裏」とは、それぞれのステークホルダーたちとの関わりや営みそのものです。結果に至る過程であり、体験そのものです。それぞれが日々紡いでいる「小さな物語」です。「表舞台」に現れた一つ一つの事実に潜む「理由」が「舞台裏」で見えてきます。

・舞台裏

創業物語/製品などの開発秘話・苦労話/調達・販売・総務など各部門の現場レポート/社員(スタッフ)の失敗談・成長物語/理念・ビジョンを体現したエピソード/顧客体験/取引先やパートナー、株主の声/地域住民の声 など

近年、日本の企業社会では最先端のマーケティング用語として「カスタマー・ジャーニー」がよく聞かれます。それ以前は「CX=カスタマー・エクスペリエンス」や「UX=ユーザー・エクスペリエンス」でした。要は顧客体験、利用者体験のことです。しかし、体験しているのは顧客だけではありません。経営者・社員も取引先も日々、さまざまなことを体験しています。

なぜ、「ジャーニー」と呼ぶのか。それは購買決定から利用、さらには廃棄に至るまでの時系列が組み込まれているからです。細かく見ると確かに違いはあるのでしょう。しかし、本質は何ら変わりません。カタカナ用語は何となく格好がいいし、使うことで専門能力を備えているかのような「錯覚」に陥りがちです。

「広報人」は、外来語、カタカナ用語に惑わされ、踊らされることなく、本質を見極めなければなりません。

・そもそも何なのか。

常にこの問いを発し続けていくことが、自らの成長へとつながることを肝に銘じるべきです。

3)表・裏(「表舞台」と「舞台裏」)を見える化する

それぞれのステークホルダーと真正面から向き合うことで、わが社の魅力が浮かび上がります。「表舞台」も「舞台裏」も明らかになります。表と裏は両輪です。どちらかが欠けていれば、それは人を惹きつける魅力とはなり得ません。そのことは社会心理学からも明らかです。

わが社の魅力をステークホルダーの心に「焼印」するためには何が必要なのか。「表舞台」も「舞台裏」も明らかにしたら、次はそれら情報を「見える化」することです。

対話やさまざまな体験は「焼印」する上で欠かせません。魅力的な経営者の熱のこもったメッセージや、彼との対話は社員や取引先、株主、顧客に「焼印」するきっかけとはなるでしょう。社員の成功体験や、顧客が商品やサービスを利用することで体験したことは、彼らの心に「焼印」されるでしょう。ただ、課題として挙げられることとして、対話も体験もその場で消化され、消費されてしまうことです。個人の世界に閉じられたままで終わってしまうのです。法人でもともすれば、一人の担当者の体験にとどまり、広がらないこともあり得ます。定着しづらいし、時の経過とともにせっかくの「焼印」が薄れてしまうこともあるでしょう。そうならないために「見える化」が必要です。熱い思いも対話も体験も、全て可視化するのです。どうやって可視化するのでしょうか。音声、文字、写真、動画で記録します。伝わるように、分かるように編集します。印刷媒体で、電子媒体で表します。

大勢のステークホルダーたちの心に「焼印」された魅力を、可視化し、集約させるのです。魅力の集合体、魅力の総和を「見える化」することです。「見える化」した一つ一つのコンテンツを蓄積し続ける「場」も必要です。魅力を増幅させるための基地をつくるのです。

中小・中堅企業やスタートアップの企業サイトを閲覧すると、「表舞台」の情報ばかりを「見える化」しています。蓄積ではなく、今の瞬間を切り取った情報だけが目立ちます。中には社員や顧客の体験など、さまざまな「舞台裏」の情報を「見える化」している企業もあります。ただ、ほとんどが製品・サービスの機能などに偏りがちなのが現実です。企業に売上高をもたらすのは直接的には顧客です。ですから無理もないことだともいえます。体験などの「舞台裏」の情報はどうしてもSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という飛び道具を使って、見える化したり、伝えたりすることに追われてしまいます。

しかし、これだけでは顧客からも選ばれません。選ばれるためには、企業の「舞台裏」の情報が重要な一端を担っています。

例えば、顧客が商品・サービスに対して、価格が安いからという理由で購入・利用したとします。商品・サービスだけを接点としたつながりは、もっと安価なものが現れれば、早晩乗り換えられてしまいます。金銭や損得だけでつながる関係はあまりにも希薄です。あるいはSNSで「バズっていた」という理由で購入・利用したとします。はたして、その関係は長続きするでしょうか。実際に使ってみて期待外れだったり、社員の接客が快くなかったりしたら、関係はすぐに切れてしまうでしょう。商品の背後にある企業や人が見えていないし、意識もされていないまま購入・利用すれば、関係が続かないのも無理はありません。何らかの環境変化などに直面すれば、いとも簡単に関係は崩れてしまうでしょう。そもそもその程度の関係しか結べていないのですから。

先に述べた顧客体験を確かなものにするためには、商品・サービスだけではどうにもなりません。そこに人が、さらには会社が深く関わってこそ、体験が信頼関係の構築へとつながります。

電通で30年近く活躍した佐藤尚之氏の『明日のコミュニケーション 「関与する生活者」に愛される方法』(アスキー新書刊、2011年10月)が非常に興味深い分析をしています。SNSの最前線を扱った書籍でありながら、実は「舞台裏」の重要性を説いています。

次回は、佐藤氏の書籍から、企業そのものの「舞台裏」の見える化の意義をひもときます。そして、
「広報人」がすべきことの四つ目、「わが社の魅力を内外に伝える」ことについて解説します。

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