中級講座 Ⅰ.理論・基礎知識 経営と広報 リスクマネジメントの基礎 〜リスクマネジメントとは(1)〜
こんにちは、荒木洋二です。
今回の講座も前回同様、「経営と広報」の「1.リスクマネジメントの基礎」です。前回は「②損失発生のメカニズム」を解説しました。今回から2回にわたり、「③リスクマネジメントとは」を解説します。
「③リスクマネジメントとは」では、次のスライドのとおり3項目に分けて解説します。
③リスクマネジメントとは
・リスクマネジメントとは
まず、「リスクマネジメントとは」から解説します。もう一度、リスクの定義を振り返ります。ISO31000ではリスクの定義があります。「目的に対する不確かさの影響」 がリスクでした。ISOとは国際標準化機構のことです。「International Organization Standardization」を略です。アイエスオーと読みます。
では、ISO31000ではリスクマネジメントをどう説明しているのでしょうか。次のスライドに記載のとおりです。
リスクはそのまま日本語で訳すと「危険」です。この危険という言葉をキーワードにしてリスクマネジメントを考えてみましょう。「失敗学」で有名な畑村洋太郎氏をご存じでしょうか。非常に有名な人なのでご存じの人たちも多いと思います。
畑村氏の著書『危険学のススメ』(講談社刊)は非常に示唆に富んでいます。内容はまさしくリスクマネジメントについて述べられています。関心のある人はぜひ購入してみてください。前回紹介した六本木ヒルズの回転ドア事故など、さまざまな実際の事故を分析して書かれている書籍です。
畑村氏は「①危険地図・失敗地図」を作成しています。その地図上に「②危険の旗・失敗の旗」を立てます。そして、「③ゴールへの道」を明らかにしています。次のスライドは、ゴルフを例にリスクマネジメントについて解説しています。
このスライドを用いて補足説明します。
危険地図とは何か。どう失敗したのか。どうして失敗したのか。どうすれば避けられるのか。これらのことが書いてあるのが全体の危険地図です。
地図上にある楕円が個別の危険地図・失敗地図です。失敗知識集のことです。
そして、どこに危険があるのかを示すために旗を立てています。これが2番目の危険の旗・失敗の旗です。旗が立っているので遠くからでもはっきりと分かります。
するとどうなるか。遠くから見て、どこに危険があるのかがはっきり示してあります。ゴールは分かっているので、全体を俯瞰して、危なくないコースを狙えばいいのです。
そうすることによって、リスクを避けながらゴールに向かうことができます。これがリスクマネジメントと共通する考え方です。
この図も説明も、書籍『危険学のススメ』から引用しています。
ここで「リスクマネジメントとは何か」を大胆に簡潔に分かりやすく表現します。
・想定外の出来事をいかに想定内にできるのか。
想定外という言葉が、一時期、確か10年ほど前、はやりました。東日本大震災の時だったと記憶しています。重大事故が発生した際に、想定外の出来事だったので被害が拡大した。想定できなかった多くの人たちが甚大な被害を受けた、という話です。
では、想定外の出来事をいかに想定内にできるのか。そのためには前回講座の最後に伝えた、リスク感性が養われているかどうかが問われます。同時並行して問われるのが、情報収集力、そして想像力です。この三つが問われます。
・コミュニケーション
続いて、「コミュニケーション」について解説します。
ISO31000では「利害関係者とのコミュニケーションと協議」に言及しています。次の三つの大切さが明記されています。
・利害関係者に情報を提供する
・利害関係者と情報を共有する
・利害関係者から情報を取得する
利害関係者とは企業・組織を取り巻く関係者のことです。利益も損害も共有する、相互に影響を与え合う関係を築いている者たちです。企業でいえば、経営者・社員、顧客、取引先・パートナー、株主、地域社会(住民・行政)です。報道関係者を加えることもあります。
リスクマネジメントにおいて、利害関係者たちと正面から向き合い、情報を取得もするし、提供もするし、共有もすることがどれほど重要でしょうか。利害関係者と向き合うにはどうすればいいのか。初級講座「組織能力編」の「見る・聞く」で解説した次の二つを確認しましょう。
1.事実情報を整える
2.利害関係者と向き合う
同講座を参照してみてください。同講座では一切リスク情報には触れていませんでした。収集する事実情報にリスク情報を加えるのです。同講座ではリスクには言及していませんでした。
しかし、ゼロリスクはあり得ません。リスクが存在する事実をしっかりと捉えることが大切です。情報取得、情報提供、情報共有すべきはリスクに関わる情報も含まれます。
リスクに関わる情報とは、リスクの存在、特質、形態、起こりやすさ、重大性、評価、受容可能性、対応、その他の運用管理側面に関するものであると、ISO31000には記されています。
利害関係者とコミュニケーションし、リスクに関わる情報を共有し、提供し、取得しましょうということです。
ここまで確認して明らかになったことがあります。リスクマネジメントにおいても利害関係者の存在は重要だということです。利害関係者とのコミュニケーションが非常に重要なのです。
講座「リスクマネジメントの基礎」は、今回の「③リスクマネジメントとは」が最後の項目です。今回は「リスクマネジメントとは」と「コミュニケーション」について解説しました。次回は最後の「クライシスマネジメントとBCP」を解説します。次回が「リスクマネジメントの基礎」の最後の講座です。
★参考文献『リスクマネジメント基礎講座テキスト』(発行:NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)