広報PRコラム#77 未来のパブリシティ(1) 〜パブリシティの未来(番外編)〜
こんにちは、荒木洋二です。
前回まで「パブリシティの未来」と題し、10回にわたり連載しました。パブリシティの意味に始まり、その成果を明らかにしつつも憂うべき現状と課題を浮き彫りにしました。そして、パブリシティを本来の位置に回復させるためにどうすべきなのか。その処方箋の一つを示してみました。
今回は「パブリシティの未来」番外編です。
■マスメディア側に焦点を当てる
改めてパブリシティとは何かを振り返りましょう。
企業・組織が、プレスリリースなどの報道資料を報道機関に提供します。その資料、情報をもとに報道関係者が発信主体である企業・組織を取材します。その結果としてマスメディアに記事が掲載されたり、ニュースとして報道されたりします。
この一連の流れを「パブリシティ」と言います。
連載「パブリシティの未来」では、企業・組織の立場からパブリシティの現状を考察しました。今回は視点を変えます。マスメディア(報道機関)側に焦点を当てて、その現状を概観します。そして、メディアが今後どのような変化をたどるのか。メディアの変化を見据えつつ、「未来のパブリシティ」を展望してみたいと思います。
マスメディアとはテレビ、新聞、ラジオ、雑誌の四媒体のことを指します。いわゆるマスコミ四媒体です。インターネットが登場し、社会全体に普及することでマスコミ五媒体ということもあります。もちろんマスコミ四媒体自体もウェブサイトやスマホ用アプリを運営していますので、重なり合う部分があります。
■インターネット専業の報道機関が台頭
近年、ニューズピックスのようにインターネットのみで情報発信しているメディア(報道機関)も登場しています。日本上陸時における筆者の見立ては、独自の報道機能を持たない、広告主体のニュースアプリ、キュレーションメディアの一つに過ぎない、とかなり低く見ていました。しかしながら、大手全国紙の記者たちが次から次へと転職し、編集長など重要ポストに就くことで、いまや独自の報道機能を搭載した押しも押されもせぬ報道機関の一つといえます。視覚表現では、マスコミ四媒体をしのぐほどと評価しています。
ちなみにキュレーションメディアとは分かりやすくいえば、「ニュースのまとめサイト」のことです。ヤフーニュースは、キュレーションメディアの最たるものでしたが、ここ数年で独自記事を発信する報道機能を強化しています。インターネット専業の報道機関が台頭してきています。
とはいえ、皆さんもご存じのとおり、マスコミ四媒体の影響力は低下の一途をたどっています。広告費の推移を見ると、メディアの隆盛が一目瞭然です。広告費については、最大手広告代理店の電通が毎年発表している「日本の広告費」が詳しい。同サイトに掲載されている最も古いデータは「2010年 日本の広告費」です。「媒体別広告費」で詳細を確認すると、2008年のデータまで確認できます。同年の時点ですでに雑誌(4,078億円)とラジオ(1,549億円)は、インターネット(6,983億円)に抜かれています。新聞(6,739億円)は翌年(インターネット7,069億円)に、そして、マスコミ四媒体最後のとりでのテレビ(1兆8,612億円)も2019年(同2兆1,048億円)に抜かれました。
■マスコミ四媒体が束になってもインターネットにはかなわない
最新の広告費からメディアの現状を確認してみましょう。「2021年 日本の広告費」から要点を抜粋すると、次の通りです。
・日本の総広告費は二桁増の6兆7,998億円(前年比110.4%)。
・「インターネット広告費」が「マスコミ四媒体広告費」を初めて上回る。
・インターネット広告費は2兆7,052億円、マスコミ四媒体広告費は2兆4,538億円。
・「マスコミ四媒体由来のデジタル広告費」は初めて1,000億円を超えた。
・「マスコミ四媒体由来のデジタル広告費」を差し引いても「インターネット広告費」が上回る。
とうとうマスコミ四媒体が束になってもインターネットにはかなわない、それほどメディア環境は様変わりしたのです。この差はさらに開くでしょう。今後、マスコミ四媒体それぞれがどこまでインターネットと融合できるのか。デジタルに大幅に比重を移すなど、経営陣が英断できるかどうかが将来を左右するでしょう。
■注目すべきはローカルメディアとニュースルーム
連載「パブリシティの未来」で明らかになったことがあります。中小・中堅企業、スタートアップの広報やパブリシティは、大企業と比較して何周も周回遅れしています。周回遅れともいえるし、軌道から外れているともいえるかもしれません。前述したマスメディアの現状も合わせて考察すると、これら企業における広報、パブリシティの主戦場はインターネットであることは間違いなさそうです。
未来のパブリシティを読み解くキーワードは何か。ここで筆者から二つ挙げます。
・ローカルメディア
・ニュースルーム
一つ一つ、解説します。
ローカルメディアには2種類あります。一つは新聞などに代表される地方紙、地方メディアです。日本は世界に類を見ない新聞王国です。もっといえば、地方紙王国です。首都圏と関西大都市圏を抜かせば、世帯普及率は群を抜いて地方紙がシェア1位です。もう一つは業界紙です。ローカルには「局地的・局所的な」という意味もありますから、「業界地図」全体から見れば、各業界は局地的・局所的です。つまり、業界紙もローカルメディアといえます。
日本の報道界には長年にわたり、「記者クラブ」という特殊な制度があります。他国にはほとんど見られない制度です。実はこの制度、中小・中堅企業、スタートアップのパブリシティにとっては大変ありがたい制度なのです。中央省庁、業界団体、都道府県庁、市役所、商工会議所の建物内に記者室と呼ばれる部屋が設けられています。ローカルメディアと接点を持つためには、記者クラブを活用するのが最も有効なのです。記者クラブに関する詳しい説明は別の機会に譲ります。
■みんなの経済新聞ネットワークは新たな可能性を切り開けるか
記者クラブを活用することで、映像メディアではテレビの地方ニュース、紙媒体でいえば全国紙の地域面や地方紙、地元ラジオ局など、既存のマスコミ四媒体でもパブリシティの成果を生み出すことができるでしょう。とはいえ、パブリシティの主戦場はインターネットへと加速度的に移行することは避けられません。
筆者が注目する地方メディア、地域メディアは『みんなの経済新聞』です。同ネットワークは、地域のビジネスや文化などのニュースを配信する、全国各地の143に及ぶ情報サイトから構成されるメディアネットワークです。国内の編集プロダクションやPR会社が運営しているといいます。海外でも11サイトあります。ヤフーニュースと連動していることも強みです。各編集部の連絡先も明記され、プレスリリースや情報提供の窓口も設けられています。このネットワークがどこまで広がり、どんな発展を遂げるのか。ローカルメディアとして、新たな可能性を切り開けるのか。動向を注視したいと思います。
次回は業界紙に対する考察を深めます。そして、自社の広報専用ウェブサイトである「ニュースルーム」に光を当てます。その普及とともに「未来のパブリシティ」のありさまを描き出します。