Weekly Essay ANAのSNS広報

先週の当エッセイでは、採用と広報という視点でスタートアップ企業の取り組みを紹介しました。採用において広告や求人メディアに頼らず、企業自らが伝える時代の到来を予感させるものでした。情報発信(コミュニケーション)手段としてのSNS(交流サイト)の活用方法も、「売らんかな」文脈や「バズる」話題づくりといったマーケティングやプロモーションではなく、企業の本質的な価値を伝える広報やブランディングへと軸足を移していく可能性が垣間見えました。

私は『月刊 経済広報』(経済広報センター)を定期購読しています。その最新号の3月号で、全日本空輸(ANA)の広報責任者へのインタビュー記事が目に留まりました。見出しに「SNS広報」という表現があったからです。ANAは2022年4月に、SNSの運営をマーケティングを担う部署から広報・コーポレートブランド推進部へと移管したそうです。グループ全体における取り組みのさまざまなストーリーを伝える必要があると判断したからです。
私は、企業の魅力は経営の「舞台裏」にある、とコラムで何度も繰り返し述べてきました。ANAはウェブサイトでさまざまなストーリーを伝える「LIVE ANA GROUP」というコーナーを設けています。人物にスポットライトを当てたストーリーの数々は、まさに「舞台裏」の情報そのものであり、魅力あふれるコンテンツです。私は10年近く前から、ANAがフェイスブックで「舞台裏」の情報を発信していたことに注目していました。整備士の仕事ぶりや、キャビン・アテンダントが搭乗までに入念に準備する様子など、働く人たちに光を当てていました。われわれが普段知ることができない情報、つまり「舞台裏」の情報です。

ANAの広報は、SNSを多様なステークホルダーとの接点や、コミュニケーション手段として活用しています。将来、ANAのファンになってほしい若年層たちの接点としてティックトックを運用しています。社員のモチベーション向上のためにはインスタグラム、社内の活発な交流のためには社内版SNSを、といった具合に目的によって手段を使い分けています。
それだけではありません。社内報『ANA TIMES』、機内誌『翼の王国』とも連携しています。前述したストーリーを掲載するサイトとSNSも連動させています。フェイスブックで記事の出だしや触りを紹介し、関心を抱いた人が全文を読めるようサイト内の記事にリンクさせています。紙とデジタル、ウェブサイトとSNSなど、縦横無尽に組み合わせて発信しています。

何のために、誰に何をどうやって伝えるのか。ANAは、ちゃんと考えて、そして考え抜いた上で当たり前のことを丁寧に行っています。これこそ広報の王道だ、と得心できました。企業規模は関係ありません。中小企業やスタートアップだったとしても、(経営資源が許す範囲内で)広報の王道を歩みたいものです。


3月6日(月) 荒木洋二のPRコラム
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3月9日(木) 広報人インタビュー
「食事は心の健康をつくる」特定保健指導の経験とコーチング技術を組み合わせ、かかりつけの管理栄養士として食生活を改善 


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