成功報酬型のシステム開発により、エンジニアに正当な成果と顧客にとって真の価値を提供

株式会社VERVE 代表取締役 久保田一氏(前編)

Q1:これまでの「挑戦」で印象に残っているものを教えてください。

私は現在、2社を経営しています。特に印象に残っている挑戦は、2005年、最初に起業した会社で成功報酬型のシステム開発を始めたことです。通常のシステム開発は、納品して請求するという流れが一般的です。そのため、成功報酬型でのシステム開発が、いかにチャレンジングであるかは、同業者たちと話す中で、ひしひしと感じました。多くの人に驚かれる挑戦でしたね。当時は若気の至りもあったかもしれません。若いなりに一生懸命挑戦したことを覚えています。

 私は、もともとシステムエンジニアとして働いていました。その過程で、エンジニアの仕事に対する評価が正当にされていない、と感じたのです。システム開発は、エンジニアがどれだけ良いものを作っても、納品して請求した時点で完了とみなされます。ですが、システムの本当の価値は、実際に使われて初めて生まれるものです。業界の仕組みとしても、成果を正しく評価できない環境だと思いました。

エンジニアも他の職種と同じように対価を頂いている以上、プロフェッショナルとして、仕事を遂行しています。私は、プロフェッショナルの仕事は結果が全てであって、結果で評価されるべきだと思っています。その成果が正しく評価されないことは、エンジニアのモチベーションの低下につながります。

良いものを作り、お客さまに喜んでいただくことが価値を生み出します。その価値に見合った報酬を得るために、エンジニアを正しく評価するために成功報酬型のビジネスモデルを立ち上げました。結果として、クライアント側にとっても利点が生まれたのです。システム開発は、企業にとって先行投資です。成功報酬で伴走することで、無駄な投資となるリスクが軽減しました。立ち上げ当初は、とにかくエンジニアを評価してあげたいという思いから、成功報酬型にするしかないとの思いでしたね。

成功報酬は、相手に合わせて設定しています。事業投資と同じ考え方で、事業の立ち上げにおいてシステム以外にもコストがかかることを考慮します。また、リスクを出している割合に応じて利益を分配し、システムが占める割合なども考慮した上で成功報酬を決め、スタートします。

Q2:「挑戦」の先に見えたもの、その先に見たいものはどのようなものですか?

「エンジニアの正当な評価」という目的が果たせたことは、本当に喜ばしいです。さらに、クライアントにとっても先行投資リスクの軽減につながったことも大きな変革です。

サービスの立ち上げやシステム開発は、完成したから終了ということはありません。クライアントに使用してもらいながら、システムを改善します。これまでのビジネスモデルは、システム改善のための追加開発や修正に対して、1件ずつ見積もりや承認の手続きを要しました。ですが、成功報酬型は、その過程が省けます。また、当社は、売り上げの一部を成功報酬として設定しています。そのため、クライアントと追加・修正などの具体的な金額について相談する必要がありません。

修正や新機能の提案があれば、その改善が売り上げにどう寄与するかを数値で示し、合意を得ることで、即座に作業を進めることができます。これにより、決断のタイミングが早まり、改善スピードも上がります。

クライアントとはパートナーのような関係を築くことができ、社内の内製化された一つの開発チームのような感覚で仕事が進みます。

当社へ依頼される仕事の内容は、社外に向けたサービスの開発や強化に関するものと、業務改善やDX(デジタルトランスフォーメーション)化など社内システムに関するものがあります。成功報酬を適応するのは、売り上げ拡大だけでなく、業務改善やDX化についても同様です。

例えば、業務改善の場合、外部コストの削減や事務員・営業担当者の手作業の自動化による作業効率の向上を基にします。この改善が実現できると判断し、費用対効果が見合う場合にだけ、自動化や改善を提案しています。

費用対効果が見合わない場合は、お客さまに開発を勧めません。削減効果が薄いのに多額の投資を行っても相手企業にとって真の効果的な改善策とならないからです。当社は、そのような成功報酬の定義に沿った仕事だけを意思を持って取り組んでいます。

VERVE創業者の言葉に救われ、励まされて、今がある

Q3:今だから話せる・笑える「起業家としての失敗」(大変だったこと)はありますか?

1番印象に残っている失敗は、システムが完成し、納品まで完了したものの、成功報酬型で請求していたため、実際に販売が始まるまでの半年間、全く請求が発生しなかったことです。

具体的な依頼内容は、海外向け向けECストアの構築を日本の企業から受けました。当社が納品したシステムは、すぐに稼働可能な状態だったのですが、お客さま側の商品登録なされていなかったため、販売できなかったのです。そのため、実際の販売が始まるまでは請求が発生せず、半年間ほど放置されていましたね。

依頼主に確認したところ、単に忙しいという理由でシステムが稼働されず、3カ月ほど様子を見て、契約は終了しました。そこからは、このシステムを使ってくれる人を必死で探しました。

メーカーや商品を持っている人たちに、中国向けにストアとして販売できるシステムがすぐに稼働できます、と提案しました。「初期費用と売り上げの一部をいただければ良いので使ってもらえませんか」と。半年ほどしたころ、使いたいと希望される人と出会うことができ、事なきを得ました。

他にも、大変だった話があります。転職サイトの開発プロジェクトを進行中に担当者が交代(転職)し、新担当者から突然の批判を受け、システム開発の途中(8割ほど完了)で中止となったことです。成功報酬型で契約を交わしていたため、請求もできない状況でした。

どうやってシステム開発資金を回収しようかと困っていたところ、元担当者からシステムのリリースを祝う連絡をもらったのです。そこで、彼に現状を話したところ、類似企業に従事していることもあり、新たなシステム利用者を紹介してもらうことができたました。

その紹介がご縁で、私が現在、代表を務める株式会社VERVE(ヴァーヴ)の創業者である社長と出会いました。当社のように成功報酬型での取引経験がなく、期日を厳守した納品やプロジェクトに取り組む姿勢などが社長にとって、初めてのことだったようです。そのことが信頼につながり、関係が深まっていきました。さらに、当社への期待も高まることで、VERVE関連の案件は、全て当社が引き受けるようになったわけです。そのころ、私はCTO的な立ち位置となっていました。

さらに、1年ほどしたころ(2008年~2009年)、社長が海外へ移住することを契機に、日本の法人VERVEを引き継ぎ、代表に就任しました。

私がその当時経営していた会社は休眠状態に移行し、社員(8人)全てVERVEに移籍しました。

VERVE創業者は現在も海外で経営コンサルティングの事業を行っています。そのコンサルティング先の案件も当社が担当しており、今も継続してお付き合いをしています。

Q4:経営者として出会った「人」と印象に残っている人はいますか?

印象に残っている人は、先ほど話題に上がったVERVEの創業者です。彼に出会った当時は、会社を畳むことを考えるほどの状況に陥っていました。その時、彼から「システム開発を成功報酬でやるなんて気が狂っている。けれど、そんな人がやっている会社を潰すのはもったいない。僕が仕事を紹介するから畳む決断は待ってくれ」と言われたのです。その言葉に救われ、励まされ、多くの紹介を頂き、今があります。

面白かったことは、製造業のお客さまから「賢者」と呼ばれたことです。IT関連に携わる私にとっては簡単な依頼内容で、具体的にはGoogleドライブの使い方を教えただけで解決しました。

1カ月後に再訪問した際、受付の女性から「賢者さんがいらっしゃいました」と言われ、社長に確認したところ、「社内で魔法使いのようだと言われている」とのことでした。困っていた問題を10分で解決したことが魔法のように思われたようです。私が行ったのはGoogleアカウントの作成とドライブの導入、スキャンして検索できるようにしただけです。

その会社では、システム開発の必要はなく、10分の作業だけで作業効率が劇的に改善しました。成功報酬の定義からすれば請求も可能でしたが、簡単な作業だったので、報酬を受け取るのは遠慮しました。その代わりに、交通費とお寿司をごちそうになりました。

売り上げに関係なく、役立つことや、便利さを感じてもらうことで業績が改善した、この体験を提供することが、結果として信頼のある紹介につながります。このような紹介はとてもありがたく、こうして育まれる関係を大事にしていきたいですね。

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