【広報人材育成のための広報人講座】初級講座 Ⅰ.理論・基礎知識「誰と共に存続するのか 」
こんにちは荒木洋二です。
「そもそも企業・組織とは」について、今回は3番目の「誰と共に存続するのか」をテーマに解説します。
これまでの講座で、企業や組織は社会を構成する主体であり一員である。ゆえに社会に役立つ、何らかの役割を担っていると説明しました。それは、社会にとって役立つ、つまり社会にとって価値を提供することでしか、自ら価値を生み出すことでしか存在できないということを意味します。
今回は、企業は「誰と共に存続するのか」、誰と一緒に存在価値を継続していくことができるのか、これがテーマです。企業も組織も自らだけでは存在することはできません。組織を取り巻く関係者(利害関係者)との関わりの中でしか存在できません。
もう少し突き詰めますと、企業・組織は利害関係者と共同して、協力して価値を生み出しているといえます。つまり価値を共創、共に創り出している関係だということです。ですので、企業・組織と取り巻く関係者(利害関係者)は共に価値を生み出すことで、それぞれが存続できるということです。
皆さん、「CSV」という言葉をご存じでしょうか。
「クリエイティング・シェアード・バリュー」の略です。米国で最も著名な経営学者の一人でマーケティングの大家といわれる、マイケル・ポーター氏が提唱しました。どういう意味かというと「シェアード・バリュー」、つまり「共有価値」の創造です。誰と共有するのでしょうか。組織を取り巻く関係者(利害関係者)です。
言い方を変えれば、より本質的には企業は関係者と共に価値を創造しているということです。これがCSV、クリエイティング・シェアード・バリューのより本質的な意味だという理解しています。
では、利害関係者とは具体的には一体誰なんでしょうか。誰を指しているんでしょうか。
企業を例にとって利害関係者は誰なのか、ということを明らかにします。明確に認識していきましょう。
より直接的に影響を及ぼし合う、利益も損害も共有し合う、そういう関係者は誰なのか。代表的な関係者を四つ挙げます。
まず、経営者・社員です。その組織を構成するスタッフです。次に顧客です。BtoBでもBtoCも変わりません。そして、製造業などであれば取引先です。供給網、サプライチェーンも販売網も入ります。最後に株主あるいは金融機関です。
直接的というより、間接的に少し距離がある中で関わっている利害関係者の代表が二つあります。まずはメディア、報道機関です。そして、もう一つは(本社や支社の所在地の)地域社会あるいは地域住民です。
この六つが企業にとっての利害関係者といえます。社会や環境、時代は常に変化し続けています。一時たりともじっと止まってはいません。
企業・組織が取り巻く関係者たちと共に価値を生み出していく、一緒に価値を生み出していく仲間になってもらえるかどうか、ということです。つまり、「関係者から選ばれるのか」ということが、(経営にとって)非常に重要なテーマにとして挙げられます。
一つ一つ具体的に見ていきましょう。
・社員
社員は会社を選んでいます。会社も社員を選んでいますが、社員も選んでいます。就活もするし転職活動もします。今、若年層の離職率が高まっています。そのことが採用コスト増加につながって、企業や組織の負担になっています。社員は会社を選んでいるのです。
・顧客
顧客は製品やサービスを選んでいます。会社を選んでいるともいえます。はやり廃りで一時的に買ってもらい利用してもらっても、はやりが過ぎ去ってしまったらどうなるでしょう。もう利用してもらえなくなる、選んでもらえなくなるということがよくあります。
よくマーケティングで「LTV」、ライフタイム・バリューという言葉を使います。訳すと「顧客生涯価値」、ずっと長く顧客でいてくれるかどうか、つまりずっと顧客として製品やサービス、あるいはその会社を選び続けてくれるかどうか、ということです。
・取引先
取引先も会社を選んでいます。競争が激しくなっているからです。
価格が安いのか、使い勝手がいいのか、とにかく何らかの理由で取引先も会社を選んでいます。グローバル化が進展すると、競争相手は国内にとどまらず海外にまで広がります。自社単独で価値を提供できない場合は、業務提携をしたりします。このように取引先も会社を選んでいます。
・株主・金融機関
株主も同じです。健全性や将来性を比較して選んでいます。金融機関も貸出相手もそうです。近年、「SRI」(社会的責任投資)が注目されていました。つまり社会課題の解決に貢献している、 「CSR」(企業の社会的責任)活動をしている会社には投資しよう、あるいは有利な金利で貸し出ししよう、という動きが10年以上前からありました。
さらに最近では、「ESG」投資が注目を浴びています。Eはenvironment、環境。Sは social、社会。Gがgovernance、統治(ガバナンス)。 株主や金融機関も会社を選んでいます。
・報道機関
報道機関も、製品・サービスあるいは会社を選んで報道します。膨大な情報がさまざまな企業・組織から報道機関にプレスリリースなどで発信されています。社会にとって必要な製品・サービスがあれば、それを選んで報道します。選ばれるかどうかが大事だということです。報道機関も会社の存在を意識して選んで報道しています。当然、彼らには「報道しない」という選択肢もあります。
・地域社会
地域社会、地域住民、行政はどうでしょうか。企業市民としての会社を選んでいます。社会に対して害を及ぼす、不利益をもたらすような企業であれば、不買運動が起こったり、住民訴訟などが起こったりします。行政も問題があれば、指導します。
このように報道機関や地域社会などから選ばれるかどうかは非常に重要な視点です。
ここで企業にとっての利害関係者を「現在」と「未来」という視点で分けてみました。
現在は先ほど説明したとおり、直接関わる利害関係者として社員、顧客(BtoB/BtoC)、取引先、株主・金融機関があります。若干距離がある関係者として、メディア・報道機関、地域社会・住民・行政が挙げられます。
「未来の利害関係者」はどうでしょうか。
いずれ社員になるかもしれない学生、中途社員となる求職者たち。今後、顧客として関わる可能性のある個人、法人が存在する市場(BtoB/BtoC)。そして、取引先を含めた業界全体。(業界には)競争相手がいますが、お互いに関わり合っています。今後、株主になってくれるかもしれない投資家たち。
これが「未来の利害関係者」として今現在、企業の周りを取り巻いています。
同じく、メディア・報道機関や地域住民・地域社会というものがあります。
繰り返しなりますが、社会や環境、時代は常に変わり続けています。変わり続けているので、企業・組織自らも影響受けますし、利害関係者も影響を受けるのです。そういう変わり続ける環境で、彼らから「選ばれ続ける」ことで企業・組織は存続できるのです。選ばれなかったら、選ばれ続けなかったら存続ができなくなります。
実際に成長し存続している企業を見てみましょう。
非常に長い間、ずっと第一線で価値を生み出し続けるような、大企業・有名企業です。実に彼らは本当にさまざまな関係者から選ばれ続けてるのです。(利害関係者が)入れ変わることもありますが、いまだに選ばれ続けているからこそ、成長し続けていられるのです。
日本は老舗企業大国だといわれています。100年、200年、1000年続く企業がたくさんあります。その老舗企業はどうでしょうか。彼らは長い間、関係者から選ばれ続けています。選び続けてくれる働く人がいる、買う人がいる、社会の役に立っているからこそ、100年、200年、1000年続くのです。その間、さまざまな変化がたくさんありました。それでも選ばれ続けているから、今もなお老舗企業として多くの人から愛されているのです。
企業社会で日常的に使われる言葉で「ブランド」があります。あるいは「うちもブランディングしたい」という言葉が飛び交っています。
ここでふと考えてみると、そもそもブランドとは一体何だろう、ブランディングとは何だろうとの疑問が湧きます。具体的に何をすることなのか。皆さん、考えたことあるでしょうか。答えられるでしょうか。
私たちは一つの答えを出しています。いろいろ賛否両論あるかもしれません。
一般的にブランドという場合、多くの関係者から長く選ばれ続けている企業や商品のことをブランドと言っています。これをブランドとするならば選ばれ続けるための活動こそブランディングというのではないでしょうか。
社員から、学生から、BtoBかBtoCに限らず顧客から、取引先から、投資家から、メディアから選ばれ続けるための活動がブランディングです。
企業・組織は誰と共に存続するのか。最後にもう一度振り返りましょう。
・企業も組織も取り巻く関係者全てと共同して価値を生み出している。
価値を共創、共に作り出している。
・関係者と共に価値を生み出すことで、初めて企業・組織は存続できる。
・企業・組織の利害関係者とは誰なのかを明らかする。
・社会や環境、時代は常に変わり続ける中で、どうすれば関係者から選ばれるのか。どうすれば、価値を共に生み出す、彼らに仲間として選ばれるのか。
・取り巻くさまざまな関係者から選ばれ続けることで、初めて存続できる。
選ばれ続けるからこそ、価値を生み出し続けることができる。
それが存続につながっていく。