#21 企業の魅力って何?(2)

こんにちは、荒木洋二です。

◆「人的魅力」の項目が5年連続1位 トップ5の大半を占める

今回は前回に続いて、「企業の魅力とは何か」について考察します。

魅力とは人の心をひきつける力、人の気持ちをひきつけて夢中にさせる力です。企業はどうやって自らの魅力を把握し、その魅力を利害関係者に伝えることができるのでしょうか。そもそも企業の魅力とは何でしょうか。

企業の魅力を知るうえで示唆に富んでいるのが、電通PRの企業広報戦略研究所が提唱する「魅力度ブランディングモデル」です。「生活者が企業のどのような活動やファクト(事実)に魅力を感じ、その魅力がどのように伝わっているのかを解析することを目的」に生活者1万人を対象とした調査を2016年から毎年実施しています。「魅力度ブランディング調査」といい、調査対象は全国の20~69歳の男女計1万人(各業種ごとに500人ずつ・全20業種/各業種10社・全200社)で、調査手法はインターネットです。

企業の魅力を人的魅力、財務的魅力、商品的魅力の三つに分類し、この3要素の複合体が企業の魅力だとしています。「人的魅力」とは、企業のリーダーや社員・職人など従業員の言動のことです。「財務的魅力」は成長戦略やリスク&ガバナンス対応などから構成されています。「商品的魅力」とは、商品・サービスの独創性やソリューション力のことです。

各要素12項目合計36項目の活動・ファクトがあります。

今回のコラムでは、2020年9月に発表された「第5回 魅力度ブランディング調査」の結果を見ながら、生活者が魅力を感じた活動とファクトを明らかにします。

最も多かった魅力が「人的魅力」で全体の37.1%でした。次いで、「商品的魅力」(34.6%)、最後が「財務的魅力」(28.3%)でした。この順位は、割合のわずかな増減があるものの5年間ずっと変わりません。36項目で見ると、ランキングのトップ5は次のとおりです。

順位活動・ファクト割合(%)
1ビジョンを掲げ、業界を牽引している53.7
2チャレンジスピリットにあふれたリーダー・経営者がいる47.8
3こだわりをもった社員が品質向上にチャレンジしている44.1
4熱心なファンが多い商品・サービスを提供している42.9
5イノベーションにこだわる経営をしている42.39

この順位は第4回(2019年実施)と全く同じです。「ビジョンを掲げ、業界を牽引している」は、調査開始以来5年連続1位です。4位が商品的魅力で、残りの四つは人的魅力です。第1、2回の調査のトップ5には財務的魅力と商品的魅力が一つずつ入っていましたが、第3回では財務的魅力が一つ、第4、5回では前述のとおり、商品的魅力が一つだけでした。

生活者は、企業のリーダーや社員・職人など従業員の言動に魅力を感じているということが明らかになりました。

トップ5入りした4項目は、いずれも前回のコラムで言及した「舞台裏」といえるでしょう。創業ストーリー、開発秘話、失敗談、各現場での社員奮闘記、改革への挑戦などは、4項目につながる、深く関わることばかりです。「舞台裏」とは企業のリーダーや、社員・職人など従業員の言動そのものです。

◆魅力を感じた情報源は「商品・サービスの直接体験」

もう少し掘り下げて紹介します。

「企業の魅力をどのようなところで見聞きしたか」を問うたところ、1位は「商品・サービスを直接体験して」で48.1%。2位「テレビ番組」(19.5%)、3位は「社員・店員などを通して」(16.9%)でした。4位が「テレビCM」(16.2%)、5位「店頭など」(12.0%)と続きました。これも前年とほぼ同様だったそうです。

1~5位、それぞれ、要はどういうことなのか。筆者は次のように捉えています。

企業の魅力をどのようなところで見聞きしたか

1商品・サービスを直接体験して購入・利用した顧客が満たされる体験をした
2テレビ番組プレスリリースなど報道関係者への情報提供などの成果として、報道された
3社員・店員などを通して社員が魅力的だった
4テレビCMテレビCMを打てる財務基盤があった
5店頭など外観やレイアウトに好感が持てた

1位、3位、5位がリアルな経験を通じて感じた魅力の項目だということです。これらを同調査では「リアル系」(全4項目)として分類しています。「社員や店員は自らが会社の顔となり、その魅力を伝える影響力を持っていること」が分かったとしています。特に「商品・サービスの直接体験は、約2人に1人が魅力を感じた情報源」でした。リアル系は全体の66.6%と約7割を占めています。

それ以外の情報源を「メディア系」(全26項目)とし、さらに「メディアの広告」「メディアの番組・記事」「ソーシャルメディア」「オウンドメディア」の4種類に分類しています。メディア系全体だと、54.9%と半数を超えたものの、リアル系の情報源には及びませんでした。

◆魅力はメディアで伝えられるのか?

同調査結果は非常に示唆に富んでいますが、留意すべき点があります。

同調査は大企業200社の社名を挙げて、調査を行っています。あくまでも対象は、社名を聞けば、誰でも分かるような業界を代表する大企業ばかりです。中小・中堅企業やスタートアップなどにそのまま当てはまるわけでありません。

例えば、前述の「企業の魅力を感じた情報源」を見てみましょう。

「メディアの広告」では大企業と違い、中小企業などではインターネットで広告を実施している企業数は一定数いますが、その規模は極めて小さいのが現状でしょう。生活者が「見聞き」するほど出稿できる企業は多くありません。広告は、長期にわたって繰り返し行うことでしか成果は現れません。テレビCMなど、到底手が出ません。

次に「メディアの番組・記事」はどうでしょうか。熱心にプレスリリースなどの情報発信を行っていれば、業界紙や産業経済紙では記事が掲載されることはあります。しかし、テレビやメジャーな新聞・雑誌では報道されることはまれです。短期間で何回もニュースや記事にはなりませんから、一過性で終わり、情報の渦にのまれ、忘れられることの方が多いのが現実です。

つまり、大企業の場合と大きく異なり、「メディアの広告」「メディアの番組・記事」で魅力を見聞きすることはほとんどないということです。

◆人的魅力は伝わっているのか?

では、リアルな体験の場合は、どうでしょうか。メディア系と違って、大企業も中小・中堅企業なども大差がないように思うかもしれません。しかし、よくよく考察してみると楽観視できるものではないことが分かります。

人的魅力でトップ5入りをした4項目を以下に改めて記載します。

1位:ビジョンを掲げ、業界を牽引している
2位:チャレンジスピリットにあふれたリーダー・経営者がいる
3位:こだわりをもった社員が品質向上にチャレンジしている
5位:イノベーションにこだわる経営をしている

中小・中堅企業の場合、1位の項目に関しては「業界を牽引」は言い過ぎですし、現実的ではありません。等身大の表現として言いかえれば、「ビジョンを掲げ、常に挑戦している」となるかもしれません。

この4項目(わが社の人的魅力)が、取り巻く関係者たちにちゃんと伝わっているのか。大企業の場合、容易に想像できるのが、この4項目のほとんどはメディアでの記事が大きく影響しているだろうということです。報道関係者もこれらを兼ね備えた企業は非常に魅力的ですし、われ先にと進んで取材します。結果として、さまざまなメディアで見聞きすることになります。

社員・スタッフであれば、日々の営みでわが社の人的魅力を感じているでしょう。ただ、自社の規模が大きくなればなるほど、経営トップとの距離が離れ、交流も減り、体感は薄れていきがちです。顧客や取引先の企業規模が大きければ、魅力を感じていたとしても窓口担当のレベルにとどまることになりかねません。

魅力を感じる情報源である、顧客のリアルな体験はどうでしょうか。顧客自身が魅力を感じたという事実が顧客窓口にしか伝わってない、という状況がよく見受けられます。大企業と比較すると、明らかに顧客基盤は狭い。魅力が伝わりにくい状況に置かれています。社員に十分に伝わっていない、顧客にも、そのほかの関係者にも十分に伝わっていない。そんな情景が目に浮かびます。

◆自ら魅力を伝える

では、中小・中堅企業などはどうすればいいのでしょうか。自らの魅力をどうやって見聞きしてもらえばいいのでしょうか。

答えは、自ら伝えることです。

文字や写真、音声、動画など、あらゆる表現方法を駆使して、広報媒体として「見える化」し、あるいは広報PR専用ウェブサイト「ニュースルーム」に記事を投稿、迅速に関係者たちに共有し、かつ蓄積していくしかありません。地道に続けていくことで、「ニュースルーム 」は魅力の宝庫へと成長していきます。

・経営者がどんなビジョンを掲げ、どんな挑戦をしているのか。
・どんな社員がどんな気持ちで働いているのか。
・どんな技術者や職人がどれほどのこだわりを持って、開発に取り組んでいるのか。
・どんな顧客がわが社の商品・サービスにどんな魅力を感じているのか。

一つ一つを丁寧に「見える化」していきましょう。わが社の「人的魅力」を始め、36項目の一つ一つを確認し、現状と照らし合わせ、改善すべき点があれば、迷わず改善しましょう。

日々、広報PRの歩みを止めず、魅力があふれる企業となれるよう、前進しようではありませんか。

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