中級講座 Ⅰ.理論・基礎知識 戦略設計と活動計画 広報戦略を設計する
こんにちは、荒木洋二です。
「戦略設計と活動計画」の講座は、今回を含め、あと2回です。最後までしっかりと学んでいきましょう。
前々回、前回と同様に「広報戦略を設計する」を解説します。前々回は、「①広報戦略設計と広報活動計画」、前回は「②コンテンツを企画する」を解説しました。今回は、最後の「③広報媒体戦略を設計する」です。どんな媒体を企画し、どうやれば伝わるのか。企業側が主体となり、どんな媒体にするのかを描きます。
まず、前々回の講座内容を次のスライドを参照しながら、もう一度、簡単に振り返ってみましょう。
今、誰が利害関係者なのか。これから誰に利害関係者になってほしいのか。どんな人、どんな会社に利害関係者になってほしいのか。これらを明らかにします。その彼らからどんな会社・組織と理解されたいのか。このことも明らかにしなければなりません。そして、自分の会社・組織の中に、どんな事実(ファクト)があるのか。事実を全て洗い出します。
その上で広報戦略を設計するのです。誰に向けて、どんな広報媒体を作り、どのように伝えるのか。これが広報戦略を設計する、ということです。戦略を設計できたら、実行に移す、つまり活動に落とし込みます。誰にいつどこで、どんな方法で伝えるのか。これが広報活動計画です。
戦略も活動も、コンテンツが要となります。どんなコンテンツを企画し、どうやって伝えるのか、これが決定的に重要です。前回の「②コンテンツを企画する」では、(利害関係者を含む)組織に横たわる事実を全て洗い出し、そして棚卸ししましょう、と述べました。その事実を「表舞台」と「舞台裏」に分けます。「表舞台」はプレスリリースとして発信します。「舞台裏」はニュースレターとして発信します。
プレスリリースとは、組織における新たな取り組み(打ち手)を報道関係者に発表する資料です。ニュースレターとは、組織における日々の営みや息遣いまでを取材・編集したうえで掲載する広報媒体のことを指します。
「舞台裏」について、少し説明を加えます。(利害関係者を含む)組織に横たわる事実を深掘りします。それが「舞台裏」に光を当てることにつながります。企業経営の「舞台裏」は魅力の宝庫です。価値の源泉といえます。「舞台裏」の中には、あるいは奥には価値が潜んでいます。そこに光を当てます。光を当てるとは直接現場、現地に赴き取材する、ということです。事実の底にある本質を知ろう、引き出そうとする営みです。そして、それをニュースレターとして発信するのです。
日本の企業社会では、大企業を中心にニュースレターは定着しています。かつては全て印刷(紙)媒体として発行されていました。ニュースレターと言っても、さまざまです。社員向けの社内報、株主向けの株主通信、社会全体に向けた広報誌、顧客向けのPR誌、という具合です。日本の広報PRの歴史を扱った講座でも、社内報や広報誌については触れました。もちろん、これらニュースレターを報道関係者にも送付して構いません。報道関係者にはプレスリリースだけという、決まりはありません。
コンテンツが相手(利害関係者)に伝わるためにはどうしたらいいでしょうか。次の三つの要素を組み合わせなければなりません。
1.表現方法:表し方
2.媒 体 :まとめ方
3.伝達手段:伝え方
コンテンツの表し方、まとめ方、伝え方をどう組み合わせるのか。ここに創意工夫が必要です。利害関係者の置かれた状況、利害関係者の状態をよく知ったうえで、3要素の最適な組み合わせを探り、決めていくのです。これが「広報媒体戦略を設計する」ことの核、中心です。伝わるように伝えるためにどれだけ創意工夫できるかが問われます。
それぞれを具体的に説明します。
1.表現方法:表し方
表し方では、文字・言葉による表現があります。文章ですね。視覚表現で言えば、映像・写真、動画があります。他にも図像、図解、イラスト、漫画と多種多様な表現があります。音楽もそうですね。ラジオのように音声のみもあります。動画にテロップを入れたり、文章と写真、図解を組み合わせたりするなど、多様な表現が可能です。
2.媒 体 :まとめ方
まとめ方では印刷(紙)媒体にするのか、電子データにするのか。オンラインでもウェブサイト、SNS、動画配信とさまざまです。
3.伝達手段:伝え方
媒体としてまとめたうえで、どう伝えていくのか。伝達手段ですね。直接なのか、間接なのか。直接でもリアルでの対面なのか。オンラインなのか。間接ということは、誰かを通じて伝えるということです。例えば、社員が社内報を家族に渡したり、顧客が広報誌を知り合いに見せたりすることです。オンラインでいえば、ニュースサイトで掲載されたり、他社のサイトで紹介されたりすることです。
広報媒体戦略として、ここで媒体のまとめ方をもう少し詳しく見ていきましょう。利害関係者が置かれている状態、そして状況に合った形で媒体を編集します。次のスライドにあるように、「HOW MANY」と「HOW MUCH」を相手に合わせて工夫する、ということです。「HOW MANY=数」、「HOW MUCH=量」なので数量を指しています。
◆HOW MANY
頻度・回数とは、日刊、週刊、月刊、週3回など、印刷か電子媒体かは問わず、発行形態に関することです。部数・人数とは、印刷媒体であれば何部発行するのか、メール配信であれば何人に配信するのか、ということです。
◆HOW MUCH
これは量、ボリュームですから、文章であれば、文字数のことです。動画であれば、視聴時間のことです。まだ関心が薄い状態、仕事で多忙な状況であれば、短い文章がいいでしょう。動画であれば、1〜3分と短めがいいでしょう。関心が高く、時間にも余裕がある状況であれば、文字数が多く、視聴時間が長くても問題ありません。短いとかえって物足りなく感じるものです。相手の状態や置かれた状況に合わせて媒体を編集することが大切だ、ということです。
表し方、伝え方も同様に組み合わせが重要です。経営資源が許す限り、あらゆる表現、あらゆる媒体、あらゆる伝達手段を駆使すべきです。伝える相手の状況や状態に合わせて、組み合わせます。そうすることで接点も増え、伝わる内容も深まることにつながります。つまり、組み合わせの妙です。広報媒体を設計する上で決定的に重要なことです。
しかし、実際の現場では、人員、予算、時間(期間)の制限、制約があります。全てを実行できるわけではありません。経営資源の範囲内で、優先順位を決め、より良い組み合わせを模索し続けなければなりません。最適な組み合わせで相手にコンテンツを提供できるよう工夫しましょう。
広報媒体には、広報基本4媒体があります。ファクトブック、ニュースレター、アニュアルレポート、プレスリリースです。これらを印刷媒体、電子データ、オンラインという三つの形式で伝えます。伝える相手は、顧客、社員、取引先、供給・販売網、株主・金融機関です。地域社会や報道機関にも伝えます。
表し方、まとめ方、伝え方という3要素を相手に合わせて最適に組み合わせる。広報媒体戦略の要諦はここにあります。
「戦略設計と活動計画」の講座、今回は「広報戦略を設計する」における最後の講座として、「③広報媒体戦略を設計する」を解説しました。