第2回 トヨタ自動車のニュースルームが示す未来の情報発信の在り方(1)

こんにちは、荒木洋二です。
4月1日、「PRコラム」を刷新し、約1年ぶりに再開しました。投稿するカテゴリーも新設した「ニュースルーム・アカデミー」に変え、毎週発信していきます。
国内外の各社が展開するニュースルームの中で、最も注目しているのはトヨタ自動車のグローバルニュースルームです。
筆者は英語が得意ではないため、米国企業のニュースルームを事細かく調べて確認したわけではありません。そのため、バイアスがあることは間違いありません。それでも、トヨタ自動車のグローバルニュースルームは先駆けて始めた米国企業よりも何歩も先を歩んでいる、とみています。
新しい時代、その近未来における情報発信の在り方としては理想的な取り組みをしています。あらゆる企業・組織がお手本とすべき仕組みと取り組みに注目しています。筆者がお手本と断言する理由として、特に次の3点が挙げられます。
(1)重要情報の即時(リアルタイム)配信
(2)ステークホルダーファーストの徹底
(3)透明性の飛躍的な向上
一つ一つ解説します。
(1)重要情報の即時(リアルタイム)配信
ニュースルームに必須の機能の一つが「メールアラート機能」です。トヨタのニュースルームには「メールアラート登録」が設置されています。個人情報に当たらないメールアドレスのみを登録するものです。氏名や会社名など一切不要です。

登録後、ニュースルームに新しい記事が投稿されると、即座にメールアドレス宛に画像1点とともに記事のタイトルがHTMLメールで配信されます。詳しく知りたい場合、メールに記載された「続きを読む」をクリックすると、記事全文がニュースルーム上で閲覧できます。
トヨタは、ニュースリリース、決算情報・人事情報、社内外での各種取り組みなど、あらゆる種類の情報をニュースルームに掲載しています。メールアラート機能は、企業ブランディング、情報公開(透明性)、危機管理において非常に重要な役割を果たしています。
新しい記事をニュースルームにアップ(掲載)しただけでは、誰の目にも触れることはないからです。情報があふれ、多忙な日々を送る人たちの中で、毎日欠かさず企業サイトにアクセスするのはその企業の広報担当者くらいです。相手の日常に割り込むプッシュ機能は欠かせません。
・マスメディアの報道を介さない直接の情報発信が可能
インターネットが登場する以前、企業の新たな取り組みなどが広く社会に知られるためには、マスメディアでの報道が欠かせませんでした。大手企業のニュースであれば、社員だけでなく、顧客、取引先、株主など、影響を及ぼす範囲が広く多岐にわたります。迅速に正確な情報を伝えるには報道が最も適していました。
しかし、今は違います。企業が保有するメールアドレスは膨大です。社員、顧客、取引先、株主などステークホルダー全般に及んでいます。何を伝えたいかというと、報道に頼らずとも直接情報を届けられる環境が整えられているのです。報道を介さなくても、情報を伝えることができてしまいます。
トヨタは、報道関係者にニュースリリースを送るのと同じタイミングで登録者にメール配信しています。もちろんニュースで知る人もいるでしょうが、トヨタに関心を持つあらゆる人たちに公平に情報を提供するという姿勢が表れています。
しかも、(コロナ禍で)工場での陽性者発生、ダイハツのリコール届出、レクサスの不正車検など、ステークホルダーに重大な影響を及ぼす重要情報を迅速にニュースルームに掲載し、なおかつメール配信することによりリアルタイムで届けています。
・プッシュとプルの組み合わせ
企業における情報発信の主な形態として、2種類あります。それはプル(ストック)型とプッシュ(フロー)型です。企業がステークホルダー全体を対象に個々と接点を持ち、迅速かつ確実に情報を届けるためには両者の組み合わせが欠かせません。
現状の各社ニュースルームを見てみると、メールアラート機能を搭載していない企業が大半です。メール配信がセットで提供されていない状態では、即時性が著しく損なわれてしまいます。デジタル化の恩恵を十分に活用できていない残念な状況と言わざるを得ません。
次回は(2)ステークホルダーファーストの徹底について解説します。