【ポッドキャスト #14】経営の本質を読み解くカギ! 「ステークホルダー」って何なの?
社員、顧客、取引先、株主、社会などのことをステークホルダーといいます。運命共同体ともいえる存在です。
難解な経営用語を読み解くカギともなります。近江商人の「三方よし」や、近年注目を浴びる「六方よし」にも通じています。
「ステークホルダー=利害関係者」とは、利益も損害も影響し合う、共有する相手のこと
荒木: 皆さん、おはようございます。
濱口: おはようございます。
荒木: 今週も『広報オタ倶楽部』をお届けしていきたいと思います。
『広報オタ倶楽部』は、本来の広報、企業広報の在り方を広めるべく、28年にわたって企業広報活動を支援してきた私、荒木洋二による「オタク」目線で語る広報の哲学ラジオです。聞き手は・・・
濱口: まな弟子の濱口ちあきです。
荒木: 今週もよろしくお願いします。
濱口: 荒木さんが毎回止めないから、調子に乗って自分で「まな弟子」って言っています。でも、荒木さんの「まな弟子」って言えるのはめちゃくちゃ気分がいいです。
荒木: 「(自ら)言い続ける」といった感じだね。
濱口: そうそう。続けることが大事なので。
荒木: いつの間にか刷り込まれてしまうからね。先週は、濱口さんからの「広報って、広聴(広く聞く)という側面もありますよね」というお題から始まり、あっという間に放送時間が過ぎ去りました。今日は、そこで言い足りなかった部分を、前回の話の流れとは異なる視点で話をしようかな。
先週(#12の放送回で)も聞きましたが、「PR」は何の略でしょうか。
濱口: 「パブリックリレーションズ」です。良かった! スッと言えました。
荒木: われわれの広報・PR業界では、「パブリックリレーションズ」とは、企業や組織にとってのパブリック、つまり利害関係者(ステークホルダー)を指す。そのため、「ステークホルダーとの良好な関係構築」がパブリックリレーションズの概念です、と説明するんだよね。
ステークホルダーは、日本語でいうと「利害関係者」となる。そのまま分解すると「利益も損害も相互に影響し合う」あるいは、「互いに共有し合う」そういう関係者のことを利害関係者という。
濱口: 「利害関係者」って、めちゃくちゃいい単語ですよね。すごく分かりやすい。
荒木: だから私は、「運命共同体」と思ってくれたらいいのかなと思っている。利益も損害も両方、互いに共有し合う。
企業において、経営者や社員(一般的に社内と呼ばれる人たち)もステークホルダー。もちろん、パートスタッフや業務委託者も含まれる。また、BtoBであれBtoCであれ、顧客もステークホルダー。
それに加えて、取引先やパートナーと言われる人たちもステークホルダーに含まれる。これらの人たちは直接商品やサービスを購入したり利用したりするわけではなく、社内で働いているわけでもないけれど、自社に関わりのある人たち。
例えば、製造業では、川上から川下というように、サプライチェーン(供給網、販売網)などの言葉が使われる。あるいは、サプライヤーという言い方もよくされる。ほとんどの企業は1社単独で物を作ったり、サービスを提供したりすることはできない。だから、多くの企業はさまざまなサービスを利用したり、製品を調達したりしながら、販売網を活用して(誰かの力を借りて)商品やサービスを届けることができる。そうした関係性を持つ取引先・パートナーがいる。
他にも、主に上場企業の場合は株主がいる。もちろん、上場企業には株主がいるけれど、社長が一人で経営している場合もある。
社会全般で見ると、例えば、地方の小さな企業の場合は、その企業は地域社会に関わっている。そして、そこには行政機関や住民が関わっている。そうした住民の場合はBtoB、BtoCともに社員になることもあるし、お客さんになることもあり得る。地域社会はそういった側面を持っている。
(一般的には、もっと広く社会や環境を含む場合もあるけれど)これまでに上げた企業に関わる人たちが利害関係者に当たる。われわれのように広報PR業界にいると、報道関係者や報道機関もステークホルダーに入る。
そのように、さまざまな利益や損害を共有する人たちのこと「利害関係者=ステークホルダー」という。私は、一般的に何らかの金銭的なやり取りがある人たち、(つまり、お互いに払う方・もらう方、といった立場が異なる場合でも金銭的な関わりがある人たちを)主に「利害関係者」と考えている。
濱口: なるほど。
荒木: その会社に何かが起こると、すぐに影響が及ぶという点では、企業も企業市民といわれるように、当然、法人税を県などにも納めている。つまり、そういう意味では行政にもお金を払っているということになり、関わりがあるから「利害関係者」といっている。
「利害関係者とどのような関係を築くか」ということが、パブリックリレーションズにおいて、とても重要なテーマになっている。そして、「ステークホルダー」は、さまざまな経営に関する用語に登場する。だから、パブリックリレーションズの領域とは異なる専門的な分野で、ステークホルダーという言葉を中心に見ていくと、やはりステークホルダーという言葉が出てくる。(前述した)ステークホルダーの概念を理解すると、経営の枠組みがかなり見えてくると思う。
濱口: 変わりますよね。
リスクマネジメント、CSRでも登場する「ステークホルダー」という用語
荒木: 私は、リスクマネジメントの専門人材を育成する団体(名前が長いけれど)日本リスクマネジャー&コンサルタント協会(NPO法人)の理事長を務めて13年目になる。
リスクマネジメントにも国際規格があって、「国際標準化機構:ISO(アイエスオー、イソ、アイソ)」と呼ばれている。国際標準化機構は、さまざまな国際規格を定めており、その中には審査を経て認証される場合もあれば、ガイドラインとして示される場合もある。リスクマネジメントに関する規格としては「ISO 31000」があり、これはガイドラインの形で示されている。
その中(ガイドライン)には「ステークホルダーとのコミュニケーションおよび協議」と示されており、ステークホルダーに対して情報の提供や収集、情報の共有などが記されている。つまり、ここでも「ステークホルダー」という言葉が出てくる。
さらに、「CSR」(企業の社会的責任)という言葉があるけれど、濱口さんは聞いたことがあるかな。
濱口: 単語だけは聞いたことがあります。
荒木: 日本語では何というか知っているかな。
濱口: いえ、分からないですね。
荒木: 最近流行りのSDGs(持続可能な開発目標)。これは分かるかな。コマーシャルで流れたり、都心では電車の中刷りにも出てきたりする。SDGsでは、(国連が)2030年までに達成すべき目標がある。
そのため、「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」と呼ばれている。
SDGsは、17の目標を定めているから「Goals」と複数形になっているんだよね。そして、Sustainable(持続可能な)のS、
Development(開発)のD、Goals(目標)のGをとって「SDGs」と呼ばれている。
そして、17の目標はCSR(Corporate Social
Responsibility:コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ)の考え方からきていて、日本語では、「企業の社会的責任」と訳される。CSRも前述した国際標準化機構で決まった規格があり、それが「ISO 26000」。そこに記載されていたのが「ステークホルダーエンゲージメント」。最近、「エンゲージメント」という言葉はよく使われ、はやっているよね。
濱口: はやっていますね。
荒木: 特に「従業員エンゲージメント」は、ちゃんと関与して、関わって、向き合って、信頼関係結びましょう、ということ。「エンゲージメント」という言葉は、「人的資本経営」の流れの中でよく使われる(他に、「エンゲージ」だと「婚約する」という意味合いもあるね)。
「ステークホルダーエンゲージメント」は、ちゃんとステークホルダーと向き合うことを意味する。長年、金融資本主義や株主至上主義が続く中で、株主は「ストックホルダー」と呼ばれてきた。それに対抗して「ステークホルダー」という言葉が生まれたといわれている。
これは、株主だけでなく従業員や地域社会、顧客など、企業に関わる全ての人々と向き合い、彼らの意見をしっかりと聞きましょう、ということ(それは、放送回#13回の「見る、聞く」の話と同じ)。つまり、CSRは「パブリックリレーションズ」と近い概念で、「向き合いましょう」という姿勢を重視して、「見る」「聞く」「受け止める」というところをメインにした言葉。
そのため、CSRでは「ステークホルダー」という言葉が多く使われている。だから、そこを深く見ていくと、案外多くの共通項が見つかる。
濱口: そうですね。
荒木: 複雑に見えるものもだんだん輪郭が見えてくる。(手前味噌の話で申し訳ないけれど)私は、昨年(2024年、9月)『図解入門ビジネス 最新ブランディングの基本と動向がよ~くわかる本』(秀和システム刊)を出版させてもらった。同書の中に「経営の8つの軸」について示しているところがある。それは結局、全部「ステークホルダー」という言葉を経営用語で全て分解している。そうすることで、パブリックリレーションズがどれほど意味のある取り組みなのかも見えてくる。
さらに、全てがつながっていて、言い方や角度は異なるけれど、経営においてやるべきことは(ある面において)シンプルなんだ、と分かってくる。ステークホルダーについて研究していくと、なかなか面白いと思う。
濱口: (前回も言っていますが)日本人は横文字が好きですし、新たな言葉をつくったり、導入したりします。でも、やっていることや考えていることは同じで、シンプルなのかなと思います。
公益資本主義と「三方よし」「六方よし」
荒木: (元首相)岸田文雄氏が首相になったときに注目を浴びた言葉がある。それは、「公益資本主義」。私たち広報の世界にも関係あるけれど、分かるかな。
「公益資本主義」という言葉を日本で唱えた人として、原丈人(はら じょうじ)氏がいる。彼は、アメリカで活躍するベンチャー・キャピタリストなんだけれど、経営として日本型経営はとても優れていると思っている。そして、それは「日本に『公益資本主義』が根付いているからだ」という。そして、公益とは何か、公とは誰か。これに対して、彼は「ステークホルダー」のことを述べているんだよね。
さらに、原丈人氏は「横文字が嫌いだ」と語っている。そこで彼は、「会社」の「社」と「真ん中」の「中」を組み合わせた「社中」という言葉を用いた。かつて坂本龍馬が「亀山社中」という組織を作ったように、彼もこの言葉を用いて、「公益資本主義」とは「社中を大切にしていくこと」だと考えている。つまり、それは「ステークホルダーを大切にしていく経営」という話になるから、とても興味深いと思った。
濱口: それは面白いですね。
荒木: また、日本には昔から「三方よし」という有名な言葉がある。これは近江商人に伝わる考え方。この「三方」とは何を指すでしょうか。
濱口: 「三方」は、人によって(解釈が)違いますよね。(一般的には)経営者、お客さま・・・。
荒木: 「三方よし」という言葉は、江戸時代ごろから合言葉のように使われていた。
濱口: そんなに前からあるんですか。
荒木: 「売り手よし、買い手よし、世間よし」という意味。つまり、「売り手にとっても、買い手にとっても、そして世間にとっても良いものでなければ、商売はうまくいかない」という考え方。これは、当時の全ての近江商人に共通する価値観だった。
日本でCSRの考え方が広まり始めたころ、「日本にはもともと『三方よし』があったよね」と再評価されるようになった。
最近(ここ10年)では、(経営エッセイストの)藻谷ゆかり氏が「里山資本主義」(藻谷浩介氏とNHK広島取材班の共著による著書・造語)という考えについて述べている。さらに、「今は『三方よし』ではなく『六方よし』の時代だ」として、『六方よし経営』(日経BP刊)を執筆している。そして、彼女は日本各地の「六方よし」を実現しているさまざまな企業に取材を行っている。
「六方よし」とは、作り手よし、売り手よし、買い手よし、世間よし、地球よし、未来よし、という考え方(売り手と作り手が異なる場合もあるから、作り手も含める)。作る人、売る人、買う人、それ以外の世間、さらに地球環境や未来にとっても良い、それが今の時代には大切だと考えている。また別の団体でも「六方」という概念を唱えている。
それから、鎌倉投信という投資信託会社は、「安定株主になりましょう」と提唱している。応援したい企業や好きな企業、ファンである企業に投資をしよう、という考え方で、知る人ぞ知る有名な投資会社なんだよね。
その鎌倉投信の創業メンバーである新井和宏氏は、著書『持続可能な資本主義』(ディスカバー携書刊)で「八方よし」を提唱している。これは、前述の原丈人氏の「社中」の考え方にも通じるもので、債権者や国といった要素も含まれている。
とにかく、周りに関わる全ての人々としっかり向き合い、誰かを犠牲にしたり苦しめたりするのではなく、みんながバランスよく良い状態であることがいいのだ。言い方は、それぞれ違っていても、本質的な考え方は共通している。
会社は社長一人では回らないし、社員だけでも成り立たない。関わる全ての人たちと向き合い、運命共同体として一緒に価値をつくっていく。(顧客も含めて)まるで身内のような、仲間あるいは、チームのような存在、という気持ちを持って、みんなが会社(自社)を好きになり、ファンになり、応援したくなる。そうした気持ちの状態まで持っていく(関係性を築く)ことで、企業は成長し、永続する。この考え方が、根底に流れているのだと思う。
表現の仕方はそれぞれだけど、みんな「何が大事か」ということは分かっていて、共通する点がたくさんある。いろいろな本を読んでいくと、「あれ、共通しているな」「根本的につながっているな」と感じることが多いんだよね。
濱口: 「三方よし」は、お客さまと自社と世間ですが、人によっては、取引先や仲介業者が含まれることもあります。そのことがもっと広い意味で「六方よし」や「八方よし」という考え方につながっていくんですね。
近江商人が大切にした「他国者意識」と「家の永続」
荒木: 今の時代はそうだね。昔の「三方よし」は、買い手と世間が関わっている、というように単純だったからね。特に近江商人は、全国を行商して回っていたから、地方に行くと、その土地の人たちに嫌われてしまうと商売が成り立たなくなってしまう。だから、彼らには「他国者意識」があって、自分たちはよそ者だからこそ、みんなにとってプラスになることをしなければ、商売ができなくなると考えていた。
さらに、近江商人(の価値観)には、「家の永続=長く商売を続けること」が根付いていた。そのことが日本では江戸時代から存在し、当時は、「売り手よし、買い手よし、世間よし」という言い方だけで成り立っていた。
伊藤忠商事なども、近江商人の流れをくんでいる。
「ステークホルダー」という言葉は、難しく感じるかもしれないけれど、とにかく、目の前で自分と関わって一緒に仕事をしている人たち(つまり、自分の会社に関わってくれている法人でも個人でも)を、しっかりと大切にしようということ。いじめたり、無視したり、ないがしろにしたり、不利益を押しつけたり、そうしたことを「やめよう!」ということ。
濱口: そうですね。
荒木: 「そうしないと『いい会社』にはならない」ということを伝えているのだと思う。
濱口: 面白いですね。
荒木: 皆それぞれ、異なる専門分野から入り込んで研究を始めていくけれど、やはり共通点があるのだと思う。その共通点が見えてくると、新しい言葉の本当の意味を理解せずに表面的に振り回されることなく、冷静に受け止めて、「それって、どういうことなのだろう?」や「一体何を意味するのだろう?」というところが見えてくる。そして、その点をしっかりと見据えていった方がいい。
濱口: 新しい単語や言葉だからといって、必ずしもこれまでのものとは全く違うとは限らないですよね。
荒木: そう、違うものとは限らないと思う。何か意図があって(新しい言葉を)用いる。強調したかったり浸透させたかったり、あるいは、はやらせたい、という意図もどこかにあると思う。
例えば「パーパス経営」や「パーパスブランディング」など。「パーパス」は存在意義という意味。存在意義が大事なことは当然のことだけど、「売上高至上主義」というように売り上げやお金、結果ばかりを追い求めてしまってはいけない。だから、自社の存在意義をしっかり確認する必要があるという意味で「パーパス経営」と言われているのだと思う。
ただし、その言葉の本質を理解せず、海外から来た言葉だからとむやみに使うと、本来の意味から外れてしまうのではないだろうか。
濱口: そうですね。荒木さんの話の中で一番面白いと思ったのは、「時代によっていろいろな言葉が生まれるけれど、どの時代も言っていることは同じだった」というところです。荒木さんは歴史を深く掘り下げていますが、今お話しされたように、考え方はどの時代も変わらなくて、ただその時代に合わせた言葉が使われているということですね。
経営の仕方も江戸と令和の時代では変わってきているはずなのに。そう考えるとすごく面白いなと思いますね。
荒木: (今日は放送時間の関係上、話すことができないけれど)、私が考えるマーケティングは、未来の利害関係者を探して出会っていくことだと思っている。いずれ自分たちと一緒に価値をつくっていってほしい個人や法人(まだ出会っていない人たち)を探し、出会うことがマーケティング。
私は、マーケティングでいう未来の利害関係者を「明日の利害関係者」と捉えている。「今、目の前にいる利害関係者」と「これから出会う、明日の利害関係者」として見ているんだよね。そうした見つめ方をしていくと、マーケティングの概念に対する見方が変わってくる。
相手が誰であるかという異なった見方ができるようになると、マーケティングと広報がより近くつながり、連動して、本当の意味でその関係が見えてくると思う。また、「未来の利害関係者」や「明日の利害関係者」という視点でマーケティングを捉えることで、その見え方も変わってくるのではないかと感じる。
ここから話を広げてしまうと、また長くなってしまうので・・・。
濱口: あっという間のお時間ですね。
荒木: あっという間だね。3月も、あっという間。
濱口: そうか、もう3月終わりなんですね。
荒木: 3月最終週だね。ということは、第一四半期(3カ月間)が終わってしまう。
そして、1年の4分の1が恐るべきスピードで進んでいる。
皆さん、あっという間に3月も終わってしまいますが、今日も朝から元気に仕事を頑張っていきましょう。
今日もありがとうございました。いってらっしゃい。
濱口: いってらっしゃい。
荒木: フォローもお願いします。
濱口: お願いします。