【ポッドキャスト #18】広報は重要な経営機能! 単なる情報発信の手段ではない
日本広報学会は2023年に新たな広報概念を定義。この定義に関して、上場企業経営者がどう捉えているのか。
近頃、その意識と現状の課題が発表されました。発表内容を荒木が広報オタク目線でさらに深掘りし、問題提起します。
広報は「目的達成と課題解決のため」にあると断言したことは、非常に画期的なこと
荒木: 皆さん、おはようございます。
濱口: おはようございます。
荒木: 今週も『広報オタ倶楽部』を始めていきますので、よろしくお願いします。
濱口: よろしくお願いします。
荒木: 『広報オタ倶楽部』は、本来の広報、企業広報の在り方を広めるべく、28年にわたって企業広報活動を支援してきた私、荒木洋二による「オタク」目線で語る広報の哲学ラジオです。聞き手は・・・
濱口: 「まな弟子」の濱口ちあきです。よろしくお願いします。
荒木: 今週もよろしくお願いします。
濱口: 「まな弟子」って、言い続けますからね!
荒木: いいと思う。いいと思う。
濱口: ありがとうございます。
荒木: 先週は「フジテレビに関する第三者委員会の調査結果」についてお話しました。「広報と何の関係があるの」と思われたかもしれませんが、実はとても重要な関係がある放送回だったんです。
では、今週は話題をガラッと変えて進めていきたいと思います。
この広報やPRの業界には、いわゆる「業界団体」と呼ばれる主な団体が二つあるんだよね。一つは「日本広報学会」。もう一つは「公益社団法人 日本パブリックリレーションズ協会」。このうち、「日本パブリックリレーションズ協会」は、「PRプランナー」という資格を発行している。主に、大企業で広報を担当しているかたや、広告代理店、PR会社のかたなどが所属している。
もう一方の「日本広報学会」は、私も所属してから、おそらく20年近くになると思う。この学会は、1995年3月24日に設立されたので、ちょうど今年で設立から30年を迎えたところだね。
そんな「日本広報学会」が、2年前(2023年6月20日)に「新たな広報概念の定義」を発表した。これは、約2年間かけて研究メンバーが集まり、「広報の概念を新しく定義しよう」ということで、まとめられたもの。
この「新たな広報概念の定義」が発表された後、昨年(2024年10月~)に「広報の経営機能に対する経営者の意識と現状の課題」というテーマで調査が行われた。
対象は、上場企業約4,000社の経営者。この調査に対しては、5%台の回答があり、回答率としては決して高くはなく、「どれほどの信用性があるのか」といえば、多少なりともバイアスのかかった見方も含まれているだろう。回答した企業というのは、おそらく広報に対してある程度関心のある、熱心な(意識の高い)経営者だと思う。だから、多少、実際の数字とは異なるかもしれない。
でも、5%台の(一定の)企業が回答しており、傾向を読み取るには意味のある結果だったと思う。また、回答した企業の業種分布を見ても、全体の業種分布と変わらなかった。そのことから、おそらく全体の傾向を表しているだろうといわれている。
濱口: なるほど。
荒木: そこで、「新たな広報概念の定義」を紹介するね。
濱口: 荒木さん、うれしそうですね。オタクですからね。「(広報)オタク・ラブ」。
荒木: そうなんだよ。
定義文では、「組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である」と発表された。
つまり、広報は経営機能なんだよ。私自身もこれまで広報に関するeラーニング講座を開講し、その中でも「広報は経営にとって非常に重要な機能の一つ」であると伝えてきた。そして、今回の新たな定義においても「広報は経営機能である」と断言している。
これまでは「ステークホルダーとの良好な関係構築」という概念だったけれど、今回の定義では、まず「組織や個人」と、「個人」が含まれた点が大きな変化。さらに、「目的達成や課題解決のために」という文言が加わったことも、非常に重要だと感じている。つまり、広報は、多様なステークホルダーとの双方向のコミュニケーションによって成り立つということ。それは(そもそも)目的達成や課題解決のためのものなんだ。
広報が(目的達成や課題解決のための)重要な経営機能である、と断言したところを、(偉そうに聞こえるかもしれないけど)私は非常に評価しているんだよね。
上場企業・経営者の9割以上が、広報が経営機能であることに賛同
濱口: うん、素晴らしい。
荒木: それからね、「広報」「パブリックリレーションズ(PR)」「コーポレートコミュニケーション」は、同じ意味を持つ言葉だと定義された。これまで学んできたことからも、この三つが同じ意味も持つことは理解できるし、私自身も状況に応じて、「パブリックリレーションズ」と言ったり「コーポレートコミュニケーション」と言ったり(使い分けを)する。実際、大企業の部署名にも「パブリックリレーションズ」や「コーポレートコミュニケーション」という名前の部署がある。
このように、日本広報学会が初めて「この三つの言葉は同じ意味である」として定義したことは、また一つ大きな意味を持つことだね。
濱口: 大きいですね。
荒木: ただ、経営者の中には少し疑問を感じている人もいたようなんだよね。それは、「社会的に望ましい関係を構築」と示されても、その「社会的に望ましい関係」とは、どんな関係なのか。その部分が曖昧だったから、そこに関して突っ込んでいる経営者もいた。私も、正直「それって、何だろう」と感じたね。その点については一つの懸念があった。
ただ、この「新たな広報概念の定義」に関しては、すごいことに、「大いに賛同する」「賛同する」との回答が9割を超えていた。
濱口: それは素晴らしいですね。
荒木: 「(広報は)経営機能である」という点について、ほぼ全ての経営者が賛同していることが明らかになった。そして、それが実際にはどうなのか(期待と現実のギャップ)。つまり、「期待通りにその経営機能が働いているか」ということについては、約8割の経営者が「期待通りにできている」と感じている。そのことから、上場企業の経営者は、広報を重要な経営機能であると認識し、その意識で取り組んでいることが分かった。
さらに、広報の組織(パブリックリレーションズ、コーポレートコミュニケーションなど名前は何であれ)についても調査が行われた。具体的には、「広報専門の部署があるかどうか」について質問している。この専門の部署を設けている企業が、上場企業の中でどれくらい(の割合を占めている)いるでしょう。これは、広報担当者が他の部署の一員ではなく、広報専任の部署を持っている企業を指す。濱口さん、何割いると思う?
上場企業の75%が広報専門部署を設置
濱口: 8割?
荒木: さすが! 惜しい・・・。答えは、75パーセント(7.5割)。残りの25パーセントは、広報の担当者はいるけれど、他の部署の中の一員として「兼任している」ような形になっているという。
さらに、その75パーセントのうちの約半分、つまり全体の約3割の企業では、広報の部署の責任者が取締役として経営に関わっているという実態も明らかになったこと。
濱口: なるほど。荒木さん、めちゃくちゃ、うれしそうですね。
荒木: そうですね。そう考えると、やっぱり中小企業や中堅企業は、広報の部署がないところが多いよね。「広報は大企業がやるもの」と思い込んでしまっているように感じる。
「大企業だから、しっかり取り組んでいる」けれど、それは「大企業だから」やっているのではなく、広報が本来、経営の機能(として必要なものだから)やっているんだよね。
(経営の)機能が欠けている、ということは良くないからね。中小企業でも当然取り組むべきだよね。
濱口: (広報の部署が)あったとしても、広報(が持つ本来)の大きな役割のうちの、ほんの一部にだけ躍起になっているケースもあります。
荒木: 例えば、IRだけに力を入れている場合があるよね。
濱口: 他にも、Instagramなどへの投稿も広報活動の一つですよね。それを広報として認識せず、他の業務と兼任で担当させてしまい、戦略になっていないこともありますね。
広報における六つの主要な役割とは
荒木: 経営というスタンスではないよね。それから、(自社の広報機能に対する「期待」と「現実」について)広報における六つの主要な役割を対象に回答を求めた。この六つの役割を掲載順に紹介するね。まず1番目は「メディアコミュニケーション(トップ広報を含む)」。2番目は「適正な株価形成」、3番目は「社内コミュニケーション(社員の一体感の醸成や理念・パーパスの浸透を含む)」、4番目は「認知度・ブランド力・信頼性の向上」、5番目は「危機管理」、6番目は「サステナビリティ(SDGsの推進)」。これらを主要な役割として、「期待」と「現実」がどうであるのかを問いている。
ここで私が正直に思ったのは(ネガティブな意味ではなく)、この六つの役割の並び順に違和感を覚えたね。特に「なぜ最初にメディアコミュニケーションがくるのか」という点が気になった。
濱口: それは、私も今の話を聞きながら、「(最初にくるのは)やっぱりメディアなんだな」と思いましたね。
荒木: なぜこの二つが先にくるのか。順番の問題とはいえ、私としてはどこか不服で、不満にも似た思いがあるかな。
濱口: 荒木さんにとって、一番(大事なのは)はどの役割ですか。
荒木: それは「社員」だと思っている。その次に本来入るべきなのは、「取引先やパートナー」さらに、「サプライヤー(もっとも、製造業じゃなければサプライヤーはいないけど)」だと思う。だけど、(広報学会が示したものには)取引先とかサプライヤーという言葉が全く出てこない。
2023年12月に『愛される企業 社員も顧客も投資家も幸せにして、成長し続ける組織の条件』(日経BP社刊、著者:ラジェンドラ・S・シソーディア、ジャグディッシュ・N・シース、デイビッド・B・ウルフ)という本が翻訳出版された。この本には、星野リゾート代表の星野佳路氏が(日本語版の序文)推薦の言葉を寄せている。本書は、(著者である)アメリカの研究者3人が調査してまとめたものなんだ。彼らは、過去15年間にわたり、同じ業界・環境下で平均の10倍の成果(利益)を上げている企業の共通点を調査していて、この内容が面白い。
同じようなテーマで、『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』(日経BP社刊、著者:ジム・コリンズ)が2001年12月に日本語訳が出版されている。著者のジム・コリンズ氏とその研究チームは、約5年間をかけて、上場企業を対象に「良い企業」から「偉大な企業」へと飛躍した企業の調査(分析)を行った。そして、15年間、同じ環境下でありながらも、市場を3倍以上上回る業績を上げることができた企業に共通する要因を調べ上げた。(要因の)仮説を立てるわけではなく、徹底して調べ抜いたことによって発見した共通項の内容(結果)がとても興味深い。
『ビジョナリー・カンパニー』で取り上げられた企業たちよりも、さらに大きく成長を遂げている企業たち(※いずれの書籍でも取り上げられている企業が数社ある)に共通するものがあることが『愛される企業〜』で述べられている。
その中で特に私が注目したのが、「ステークホルダー関係管理ビジネスモデル」だ。つまり、「株主だけ」(特定の人)を特別扱いするのではなく、全てのステークホルダーを等しく(平等に)愛して、愛されている。そんな企業こそが生き残っているのだという。
重要なステークホルダーである取引先(サプライヤー)が抜け落ちている
荒木: ここでは「ステークホルダー」のことを「SPICE(スパイス)」という略語で表している。それぞれの頭文字からS:Social(社会)、
P:Partner(取引先・サプライヤー)、I:Investor(株主)、
C:Customer(顧客)、E:Employee(社員)。これら全てのステークホルダーは等しく大事なのだということ。
そして、この(分類の)中には「報道関係者」は含まれていない。
そう思うと、前述した六つの主要な役割において、サプライヤーや取引先、パートナーといった存在が切り出されていないところが、どうなのかと思う。また、「顧客」についても触れていない。そこには何か意味があるのか。そう考えると、おそらく、(4番目に挙げられている)「認知度・ブランド力・信頼性の向上」は、対顧客を意識しているのかもしれない。取引先(サプライヤーなども含めて)も意識して(捉えて)いるのかもしれない。(5番目に挙げられている)「危機管理」においても、同様に意識されているのかもしれない。
それでも、この六つの主要な役割の切り分けはどうなのだろう(と疑問が残る)。私は、「サプライヤーなどの取引先をここに含めていないこと」、これが日本企業における課題なのではないかと感じた。
濱口: そうですね。分かっているようで、分かっていない。その辺りはまだ、浸透していない部分なのかなと思います。
荒木: そうだね。(日本企業は)サプライヤーなどの取引先を大事にしていないのかな、と思われても仕方ないようなところがある。どこか「下請け」という意識があって、「自分たちの方が偉い」(立場が上)という感覚が残っているように感じる。
一方で、先ほど触れた『愛される企業』の調査の中には日本企業も含まれている。調査対象は、アメリカの上場企業が28社、非上場企業が29社、アメリカ以外の企業が15社で、合計72社。その中に、日本企業からはトヨタやホンダが選ばれている。
特にホンダについては、サプライヤー、つまり部品などを作っている(供給する)取引先と、同じ目線で意見を出し合いながら、一緒になって価値をつくる文化があるところを高く評価していたんだよね。
もう一つ気になるのは、六つの主要な役割の一つとして挙げられている「6.サステナビリティ(SDGsの推進)」について。この表現だと、SDGsは2030年で終わるものだから、かっこ内の表記であっても、わざわざ入れるべきなのか、と思った(定義とは、これから長い期間にわたり定着させるものだから)。
「新たな広報概念の定義」は中堅企業・中小企業、スタートアップにも浸透するのか
濱口: それについては、私も同様に思いましたね。(SDGsの推進を)入れてしまったんだなと思いました。
荒木: 要するに、これは経営者たちへのアンケートだから、あえて分かりやすくするために「今でいうSDGs」として書かれたのだと思うけどね。
広報を経営機能として意識している上場企業が多いことを、非常にうれしく感じるね。そして、「本来の広報」を進めていきたい立場としては、この「新たな広報概念の定義」が、もっと中堅企業や中小企業、スタートアップにも浸透していけばいいなと思った。
濱口: そうですね。「広報における六つの主要な役割」でメディアが第1に挙げられることは、これまでの文化の中で築いてきてしまったもの(築かれてきたもの)なので、仕方がないのかもしれません。でも、荒木さんの話にあったように、従業員や取引先こそが、実は一企業にとって「最も近しいパートナー」だと(その考えが浸透し)、これから文化が変わっていけばいいと思います。
荒木: 私も、そう思うね。私も日本広報学会に所属しているから、どうしてもメディアに関する話や研究が多くなりがちなことは分かっていた。だから、このような場合、メディアが最初に挙げられるだろうとは思った。
日本広報学会では、5人集まったら研究会をつくることができる。10年ほど前、私も「レピテーション研究会」の(5人の立ち上げメンバーの)一員として研究を行った。「レピテーション」は評判を意味するんだよね。そこで、評判とブランドの違いなども含め、毎月1回の会合を開き、いろいろな企業の人や専門家を招いて(2年間にわたり)研究した。
同研究会は、メディアに限った研究ではなかったから、良かったと思っているけれど、(他の研究会は)どちらかというとメディアに偏った研究が多いように感じる。
また、よくいわれるインターナルコミュニケーション、つまり社員へのコミュニケーションに関する研究も多い。でも、ステークホルダー全体とのコミュニケーションという切り口(視点から)の研究は、あまり見かけないね。
(日本広報学会では)『広報研究』という会報誌が年に1回発行されている。今回、その第29号(2025年3月発行)に同調査結果が掲載され、それを紹介した、というわけなんだ。
私はその全冊を持っていて、これまでの研究発表をチェックし、その中で気になった点を確認しているんだよね。そうすると、やはり、マスメディア寄りの内容が多かったり、中小企業や中堅企業に落とし込むには少し複雑すぎる内容が多かったりするように感じる。
このように話をしているが、実は私は最近、熱心に日本広報学会の会合などに参加できていないので、偉そうにと自分でも思いますが・・・。
ただ、「広報が経営機能であり、目的達成や課題解決のために行うのだ」というところを新たに定義したところは非常に良かったと思う。
本来の広報が広がるための起爆剤
濱口: すごい改善ですよね。
荒木: 本来の広報の役割について、この新しい定義は後押しになると感じている。一方で、濱口さんが以前(#9)に日本マーケティング協会が(2024年に)定義し直したマーケティングの定義について触れていたね。(その時はマーケティングの定義が、あまりにも広報に寄り過ぎて極めて曖昧だった)今回の日本広報学会が新たに決めた定義は確実に前進しており、広報の役割や本来の位置付けがより明確になった定義だったから、私としては非常にうれしく思うね。
濱口: そうですね。
荒木: 今回は、日本広報学会が2023年に定めた「新たな広報概念の定義」に関して、上場企業の経営者に対して調査した結果の一部を紹介した。「よし! 本来の広報が広がるための起爆剤になるかな」と思っているんだよね。
濱口: 今日の荒木さんが非常に、ニコニコと、ご機嫌で、「あ~、やっぱり(広報)オタクなんだな」と感じました。ものすごく、機嫌いいですよね、荒木さん。
荒木: そうなんだよ。今日のこの話を今後の現場のトークにも入れようと思う。
濱口: 大事ですね。
荒木: 大事だね。「広報=経営機能」である、という認識はやっぱり大事だと思うからね。そうしたことで今回は、その紹介になりました。
濱口: 「広報」は前進しています。
荒木: 皆さん、今週もあっという間に木曜日ですね。今週のお仕事も残りわずか。今日も朝から元気に頑張って仕事をしてまいりましょう! いってらっしゃい。
濱口: いってらっしゃい。もう、ゴールデンウィークに入っているかたもいるんでしょうか。
荒木: ゴールデンウィークには、まだ入っていないね。これからだね。
濱口: これからですね。
荒木: そう、今週末(4月26日)からだね。ゴールデンウィークは十分に楽しんでください。そして、5月1日の『広報オタ俱楽部』は、ゴールデンウィーク期間中のため、1回お休みになります。また、ゴールデンウィーク明けにまたお会いできればと思っております(※注:誤った認識でした。お休みなく配信します)。
濱口: ゴールデンウィーク楽しんでください。