第6回 DXと情報発信の関係性

こんにちは、荒木洋二です。
第2回、第3回、第4回のコラムで、トヨタのニュースルームについてかなり理解が深まったのではないでしょうか。ニュースルームこそがデジタル時代の情報発信革命を牽引することが腹落ちできたと思います。
■DXとは何か
筆者は、「情報のデジタル化」だけを伝えたいわけではありません。ニュースルームも単なる「情報のデジタル化」にとどまるものではありません。DX(デジタルトランスフォーメーション)と情報発信の関わりを正しく理解することが重要です。
そこでDXとは、そもそもどんな意味で何をすることなのかをまず明らかにします。コロンビア・ビジネススクールのデビッド・ロジャース教授はDXの第一人者として、世界中で知られています。
グーグル、マイクロソフト、トヨタ、カルティエなど多くの大企業に対してデジタルによるビジネス変革を支援しています。今まで5冊の書籍を出版しています。4冊目は『DX戦略立案書』(白桃書房、2021年刊)と邦訳され、世界中でもベストセラーになったほどです。
ロジャース教授は、5冊目の著書(『THE DIGITAL TRANSFORMATION ROADMAP 絶え間なく変化する世界で成功するための新しいアプローチ』東洋経済新報社、2024年7月刊』)の中でDXを次のように解説しています。
DX=Digital Strategy(デジタル戦略)+ Organizational Change(組織変革)
デジタル戦略と組織変革を組み合わせることが真のDXだ、ということです。
■デジタル戦略のカギを握る感情面の情報
デジタル戦略といった場合、次のような施策を思い浮かべる人も多いでしょう。
・情報システムの刷新
・ビッグデータの活用
・ブロックチェーン導入による信頼性担保
・RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)導入による業務効率化
・AI(人工知能)導入による生産性の向上
いずれも重要な施策であることに異論はありません。ただ、「デジタル」は、ともすれば、データ重視を通り越してデータ偏重、論理思考のみを重視した判断などにつながるリスクをはらんでいます。左脳ばかりを働かせても組織変革にはつながらないでしょう。数値データなど定量情報も大切です。しかし、それ以上に定性情報がもっと大切だと筆者は考えています。
今や機能面での差別化が困難な時代にあって、デジタル戦略のカギを握るのは感性や感情(情緒)面であることがよく知られています。デジタル化があらゆる領域で進んでいますが、その中でより重要な情報は感情面の情報であり、それこそが組織を変革するエネルギーを秘めているのです。
■組織変革における情報共有・発信の重要性
発信される情報の質や情報量が、組織変革の質やスピードに影響を与えます。質と量に並び重要なのが、情報共有や情報発信の「間(ま)」です。「間」とは時間と空間(場所)です。ステークホルダーの状態や置かれた状況を可能な限り把握したうえで、適切なタイミングと場所で情報を伝えるのです。
これら観点からもトヨタのニュースルームは、情報の質も情報量も「間」もかなり練られた仕組みとなっています。ニュースルームを起点とすることでメールアラート機能、リアルタイム視聴、情報の集約・蓄積が実現できています。
組織変革の手法として「組織開発」が知られています。その専門家の知見・体験によれば、最も重要なことは本音のコミュニケーションだといいます。表面だけ、上辺だけのコミュニケーションでは組織変革は起こせません。
トヨタが示したとおり、ニュースルームはありのままを伝えること、全てを晒すことを可能とします。労使関係をはじめ、顧客、取引先、株主、報道関係者との関係もニュースルーム上でその姿勢が貫かれています。ニュースルームによる情報共有・発信が、デジタル戦略と組織変革というDXの肝となることは明らかです。