第7回 ニュースルーム導入による企業価値向上

こんにちは、荒木洋二です。
ニュースルームは、ステーホルダー間を遮っていた壁をも取り払うことができます。従来の情報発信では、ステークホルダーそれぞれに伝える内容も偏った部分的、一面的なものに終始していました。そうならざるを得ない状況や環境だったことも事実です。
しかし、今やデジタル時代を迎えて、企業はニュースルームを導入することであらゆる障壁を軽々と超えていくことができます。迅速かつ正確にステークホルダーにありのままの情報を伝えることができます。
■直接的かつ濃密なコミュニケーションがもたらす成果とは
つまり何が起こるのか。かつてないスピードで、かつてない範囲(=全てのステークホルダー)での直接的かつ濃密なコミュニケーションが実現できることで、企業価値の向上を強烈に推進できるのです。
そのことでどんな成果がもたらされるのか、いくつか例示します。
・離職率の低下、生産性の向上
・採用コスト、マーケティングコストの抑制・減少
・顧客満足度の向上、顧客生涯価値(LTV)の増加
・取引先との連携強化による開発力向上、相乗効果の向上
・株主との信頼関係深化、安定株主の増加
・一般社会からの好意的な評判獲得
・報道関係者との良好な関係構築、報道数の増加
筆者は、リスクマネジメントの専門人材を育成するNPOの理事長を務めてから13年目を迎えています。
そんな専門家の視点からすると、大多数の企業不祥事、トラブルや事故の発生は、ステークホルダーとのコミュニケーション不全に起因しています。このことは前述の成果を逆説的に証明しているといえます。
透明性が不十分な企業は、ステークホルダーから信頼されません。企業価値を形成できないまま経営している、ということです。売らんかなという姿勢を全面に出して、CMなどの広告ばかり発信している企業では危機が常に隣り合わせだと知るべきです。中古車販売大手だった旧ビッグモーターがその典型です。
■ステークホルダーを対象とした統合報告書の登場
企業価値とは何か。長らく金融資本主義が市場と社会を席巻していました。その時代においては、もっぱら財務的視点での価値評価に終始していたことは言うまでもありません。
しかし、今や時代がステークホルダー資本主義の時代へと変遷していることは何度も繰り返し、述べているとおりです。
かつて投資家・株主への情報発信は、アニュアルリポート(年次報告書)を軸に内容は財務情報で占められていました。目を通すのは、投資家・株主、アナリストしかいないのは当然のことです。それが転換点を迎えたのが、2010年頃です。投資家・株主・アナリスト以外も対象とした「統合報告書」の発行が普及し始めたのです。
統合報告書の対象は全てのステークホルダーです。そのため、重要視されるのは非財務情報です。中身にしっかりと目を通してもらうためには視覚的にも工夫が必要です。テキストに加えて写真、グラフ、図解などがふんだんに使われています。
なぜ統合報告書と呼ぶのかといえば、財務情報中心のアニュアルリポートと、ESG(環境・社会・ガバナンス)情報中心のCSR報告書を統合したからです。大企業の中には200ページ前後にも及ぶ報告書を発行している企業もあります。
ただ、年1回発行のため、現状の企業価値を理性・左脳で理解する段階にとどまります。
■企業価値はステークホルダーとの信頼関係を深めることで向上
ステークホルダー資本主義時代では、投資家や株主も非財務情報を重視しています。米国市場(S&P500)では、無形資産の割合が著しく高く、2020年時点で時価総額の90%を占めているほどです。企業価値評価において非財務情報に基づく評価が大部分を占めていることを示しています。
財務情報から一旦離れると、企業価値はどう評価できるでしょうか。近年、経営者や大学教授などの研究者たちの見解として、企業価値とはステークホルダーとの信頼の総和と捉えています。
一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄氏(元一橋大学副学長)の提唱する「ゴールデン・トライアングル」モデルは、企業ブランドを中心に据え、主要なステークホルダー(社員、顧客、株主)の価値向上を図ることで、利益の連鎖を生み出すことを示しています。
同モデルは、ステークホルダーとの信頼関係が企業価値の核心であることを裏付けているといえます。つまり企業価値は、ステークホルダーとの信頼関係を深めることによって、向上するということです。
■ニュースルームを情報共有・発信の中軸に据えることで、企業価値は高まる
ここまでの解説で明らかになったこととして、ニュースルームを起点にあらゆるステークホルダーはその壁や垣根を超えて、密度の濃いコミュニケーションをすることができます。その濃密なコミュニケーションにより、かつてないスピードで相互の信頼関係を築くことが可能です。
トヨタは、この核心部分を深く理解しているからこそ、未来における情報発信の在り方を先取りして、ニュースルームを情報共有・発信の中軸に据えているのでしょう。