第18回 ニュースルームとオウンドメディア(4)

こんにちは、荒木洋二です。
大企業が展開する広報は、ニュースルーム、オウンドメディア、SNSが主流の手段として定着しつつある、と筆者は見ています。これらをいかに組み合わせて情報を発信するのか、日夜試行錯誤しているようです。「情報」を扱っているという点で、前述の三つは共通しています。
「ニュースルームとオウンドメディア」と題した連載をお届けしています。
前回は、オウンドメディアが日本の企業社会にどのように浸透していったのか。報道状況などから確認しつつ、紙媒体からデジタルへの変遷も概観しました。オウンドメディアはデジタルマーケティングの文脈から生まれた言葉です。
今回は、「デジタル広報」の概念やその始まり、経緯について解説します。
◆「情報戦略=情報発信の設計図」を描く
他方、インターネットの普及により情報量が爆発的に増えることで、その情報の洪水が私たちの生活、および企業経営に小さくない混乱をもたらす事態もたびたび発生しています。
その混乱の原因を一つ挙げます。それが先述したソーシャルメディアです。これらは国産のサービスではなく、外国企業が開発・提供するものです。発信の障壁が低くなった反面、発信ツール(道具)の利用が先行し、目的があいまいで内容も定まらないまま振り回されている、というのが実情でしょう。
この混乱に拍車をかけたのが、外来語(カタカナ・ビジネス用語)です。ソーシャル、パーパス、デジタル、ウェブなどはさまざまな単語と組み合わせて使われます。例えば、デジタルマーケティング、パーパスブランディングといった具合です。
これら用語がネット上を席巻しています。企業の現場、実務を行う人たちに小さくない混乱を生じさせ、実務に支障を来している、と筆者はみています。
最も重要なことは、これらは全て「情報」を扱っている、という事実です。このことを再認識しなければなりません。マーケティングもブランディングも要は「情報戦略」の一環です。情報発信の全体設計図を描く、という認識が決定的に重要なのです。
◆デジタル広報の始まりは企業ウェブサイト
情報発信にはマーケティング(≒広告≒認知獲得)の文脈とは異なった、もう一つの流れがあります。それが広報です。先述した社内報、広報誌などを総称して「広報媒体」といいます。
広報に関しては別の機会にその本質や歴史などを詳しく解説します。情報発信全体の設計図を描くためには、広報に対する深い理解が欠かせません。
ここまで「情報のデジタル化」に関して、マーケティング領域のことを「デジタルマーケティング」として解説しました。これと対照させ、広報領域のことを一旦「デジタル広報」として、これから話を進めます。デジタル広報の口火を切ったのが、今やコーポレートサイトとも呼ばれる、自社のウェブサイトだったわけです。
1995年以降、ウェブサイトを開設する企業が急増します。企業情報、事業内容(商品・サービス情報)、採用情報が主に掲載されます。メールマガジンも「マガジン=雑誌」ですから、デジタル広報誌といえます。その後、2000年代に入り、ブログが流行すると、企業で「社長ブログ」などに取り組む企業も現れます。
他方、大企業・上場企業であれば、IR(株主向け広報)情報も掲載されています。現状を数字で示し、成果や計画を事実(ファクト)として公開しています。もう1点、注目すべき点は「ニュースリリース」というカテゴリーが必ず設置されていることです。実はこの文脈から現れたのが、「ニュースルーム」なのです。
◆ニュースリリースと企業の社会的責任
まず、基本となるところを整理すると、ニュースリリースとは、自社の「新たな取り組み=ニュース」を発表する資料のことです。もともとは報道関係者を対象に配布していたこともあり、プレスリリースともいわれています。企業の公式発表資料のことです。
インターネット普及以前、大企業はもっぱらプレスリリースを記者クラブに投函していました。記者クラブとは、日本特有の制度です。中央省庁、都道府県・市町村自治体、業界団体、商工会議所などの施設内に記者が集まる部屋を設けています。情報公開を迫る最前線といわれています。
大企業とマスメディアの報道関係者は、記者クラブを拠点にコミュニケーションしてきた歴史があるのです。この制度は現在も変わっていません。ネットが普及することで、誰もが見られるウェブサイトに公式発表資料(ニュースリリース)を掲載することが当たり前になった、というわけです。
現在、SDGs(持続可能な開発目標)が企業社会で流行しています。2015年、国際連合が2030年までの目標として掲げました。SDGsのそもそもの前提となる概念が「企業の社会的責任」です。その責任の「一丁目一番地」が情報開示と説明責任です。広報は、この責任と深く結びついています。
次回は、「ニュースルーム」に焦点を当てます。
