第30回 「蓄える」場と「流す」場(4)

こんにちは、荒木洋二です。
インターネットの普及、それに伴う多様なコミュニケーション手段の出現により、広報領域におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)は進展を続けています。大企業においてはニュースルーム、オウンドメディア、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という三つのデジタルメディアをどう組み合わせるか、各社が苦心しています。
企業が自社の魅力(情報)を「蓄える」場をニュースルームといいます。その最適な組み合わせとしての「流す」場がSNSなのです。今回は、「『蓄える』場と『流す』場」と題した連載の第4回です。
前回は、情報発信を構成する4つの要素を示しました。その4つとは、目的・対象・内容・手段です。SNSはその中の「手段」に当たります。ニュースルームもオウンドメディアも「手段」です。
経営者が何よりも優先すべきは、まず情報戦略を設計することです。周りに流され、思考を止めたまま、やみくもに手段先行でオウンドメディアやSNSを利用することは避けなければなりません。
◆目的なくして、戦略は設計できない
戦略を設計するに際して、4つの要素の中で最も重要なのが「目的」です。
何のために情報を発信するのかーー
残念ながら、経営者がこの問いを発しないまま、突き詰めないまま、現場に情報を発信させています。すると担当者は、目先の分かりやすい目標数字だけを追いかけます。それが仕事になってしまいます。
目的にどれほど達しのたかを測るのが成果です。成果は数字として表せます。企業社会の現場において、「KPI」という用語が日常的に飛び交っています。「Key Performance Indicator=重要成果指標」のことです。目的があやふやなまま、掲げられた目標数字を達成することに意味があると思いますか。
SNSの運用において、フォロワー数をKPIに設定している企業は少なくありません。何のためにSNSを利用し、情報を発信しているのか。いつの間にかフォロワーを増やすこと自体が目的となっているのです。
そもそも目的が定かでない、成果に直結しない数字だけを追いかける仕事では、やがて担当者が疲弊することは明らかです。手段先行、数字ありきの取り組みでは実を結ぶことはできません。
◆掘り下げて、真の目的を明らかにする
目的を明らかにしましょう。情報を発信する目的を突き詰めて考えることが非常に大切です。
企業は永続を目指す生き物といえます。人格も備えています。現代社会は持続可能な社会の実現を目指しています。企業が持続可能、つまり存続してこそ社会は成立します。その逆も同じことがいえます。そんな重要な役割を企業は担っています。
「それは何のため、それは何のため」と一つ一つ掘り下げていくことで真の目的を明らかにできます。筆者は、情報発信の目的を3段階に分けています。次のとおりです。
・第1段階:知らせるため
・第2段階:選ばれるため
・第3段階:選ばれ続けるため
この3段階に関して、簡潔に解説します。
「知らない」ということは「存在していない」に等しいといえます。知らせなければ、何も始まりません。選択肢にも挙がりません。「知らせる」ことが第1の目的です。しかし、いくら選択肢に挙がったとしても、選ばれなければ、意味がありません。第2の目的は「選ばれる」ためです。
◆選ばれ続けるために情報を発信する
さらにもう1段階掘り下げてみましょう。
社員から選ばれ、採用できたとしましょう。しかし、1年で退職してしまえば、採用コストをかけて新しい人材を探さなければなりません。人材が定着しなければ意味がありません。
顧客から選ばれ、自社のサービスを利用し始めたとします。しかし、1カ月も経たないうちに止めてしまえば、意味がありません。継続して利用してもらうことで、LTV(顧客生涯価値)が高まることが知られています。続かなければ、意味がないのです。
つまり、企業は選ばれ続けるために情報を発信する、ということです。これが最終段階の目的です。
企業はそれ自身だけで生きていくことはできません。重要なステークホルダー(利害関係者)の存在こそが生きる礎です。ステークホルダー(個人・法人)から選ばれなければ、成長は止まります。選ばれ続けることで持続可能な社会で生き続けることができます。
前回も述べたとおり、「魔法の杖」など存在しません。たった一つの手段で目的を果たすことはほぼ不可能といえます。いくつかの手段を組み合わせる必要があります。その最適解を導き出すのです。選ばれ続けるために、どんな手段をどう組み合わせるのか。その最適解を探すことが、経営者や情報発信に携わる者の務めです。
「蓄える」場(ストック型メディア)と、「流す」場(フロー型メディア)の組み合わせに関する最適解が戦略の根幹といえます。
