第37回 「蓄える」場と「流す」場(11)

こんにちは、荒木洋二です。

インターネットの普及、それに伴う多様なコミュニケーション手段の出現により、広報領域におけるDX(デジタル・トランスフォーメーション)は進展を続けています。大企業においてはニュースルーム、オウンドメディア、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)という三つのデジタルメディアをどう組み合わせるか、各社が苦心しています。

企業が自社の魅力(情報)を「蓄える」場をニュースルームといいます。その最適な組み合わせとしての「流す」場の代表がSNSなのです。今回は、「『蓄える』場と『流す』場」と題した連載の第11回です。

情報発信の4要素とは目的・対象・手段・内容です。当カテゴリー「ニュースルーム・アカデミー」(全38回)の締めくくりとして、前回まで3回にわたり、「内容とはそもそも何か」を筆者独自の視点で深掘りしてきました。今回を入れて残すところ、あと2回です。

3回にわたる内容を要約すると、ステークホルダーの体験(ストーリー)を可視化した内容(=記事)が価値を生み出す力を持っている、ということです。ストーリーをつづった記事は必ず「事実+感情+文脈(意味付け)」で構成されているのです。

今回は「内容」に関する核心として「蓄える内容」と「流す内容」の二層構造を解説します。

◆SNSやニュースリリースは情報が流れて終わる

近年、大企業はもちろんのこと、それ以外の多くの企業も積極的に公式SNSを開設し、日々投稿しています。SNS運用代行事業者が急増している実態を見ても、その隆盛ぶりは明らかです。大勢のフォロワーを獲得することが成功の証だ。そんな風潮があります。そして、「バズる」ことが唯一の正義である。現場ではそんなことがまことしやかに語られています。
SNS投稿を担当する社員は、どんな気持ちや姿勢で業務に臨んでいるでしょうか。社員、顧客、パートナーが、その投稿に接したとして、企業への信頼はどれほど増しているでしょうか。
現実は、ステークホルダー個々の目の前を通り過ぎて終わってしまうことが大半です。ただ、流れていくだけです。投稿内容に惹かれて「いいね」を押したとして、それで終わります。これが偽らざる実態です。

他方、ニュースリリースを発信する企業も急増しています。その証左として、PR TIMESや@Pressなどのニュースリリース一斉配信サービス事業者が成長を遂げています。1回の配信で20〜50のサイトにそのリリースがそのまま転載されます。
多くの場合、転載数を成果指標にしているようです。百歩譲って、SEO対策にはなるかもしれませんが、社内の担当部署の人以外で誰の目に留まっているでしょうか。配信して終わっています。SNSと同様に流すだけで終わっています。
このような取り組みを一定期間継続すると、経営者も担当者も気付きます。「一生懸命やっているのに、何も残らない」という事実に愕然としまう企業は少なくないでしょう。何も生み出さないまま、膨大な情報の中に埋もれ、消えてしまいます。

デジタルメディア空間でいえば、インターネット広告も同様です。流すだけで何も残らない、つながらないと悩む担当者は少なくないでしょう。

◆価値を生み出すための二層構造

情報発信の目的は、ステークホルダーから「選ばれ続ける」ことです。つまり、企業が個々のステークホルダーとの間に確固たる信頼関係を築くことです。関係資本を生成することが目的なのです。
当連載のテーマで掲げているとおり、蓄える場と流す場を循環させないと価値を生み出すことはできません。「場」をデザインするとは、関係資本生成の設計図を描く、ということです。

すでにお気付きの読者もいると思います。「場」だけではなく、「内容」自体も二層構造で成り立っています。「蓄える内容」と「流す内容」の二層構造です。いずれも必要です。それぞれの詳細は次のとおりです。

・蓄える内容:長期の企業価値の骨格

長尺コンテンツ:「事実+感情+文脈」(ストーリー)を描き切る。
主にステークホルダーと関わる姿と声を可視化する。
理念策定の理由・背景、顧客の声、社員の成長ストーリー、株主対談、
 取引先(パートナー)との開発秘話、地域交流イベントのリポートなど。

・流す内容:接点と反応を生むもの

短尺コンテンツ:ストーリーを要約してまとめる(ストーリーの断片)。
 画像や動画などの視覚表現を前面に押し出す。
 イベント告知、キャンペーン情報など。

このようにそれぞれ内容に特徴と役割があります。ステークホルダーとの信頼関係を深めていくためには、いずれも欠かせません。相互補完することで、二層構造が成立するのです。

◆蓄える内容の母艦としてのニュースルーム

ニュースルームは蓄える内容の母艦です。

可視化されたステークホルダーの感情を事実とともに一つ一つ蓄えていく場所です。企業のストーリーとつながったエピソード(記事)が時間の経過とともに次から次へと投稿されていきます。ステークホルダーの種別(社員、顧客、取引先・パートナー、株主、地域社会など)を問わず、ニュースルームに集約され、蓄積されていくのです。
同一種別内の記事に触れることで共感が生まれます。社員間、顧客間、パートナー間などで新たな関係が生成されます。企業の紡ぐストーリー全体の流れの中で、自分自身のストーリー(感情)が自分以外のストーリー(感情)とも接続される、ということです。その瞬間、関係資本が生成されるのです。
さらにこのような関係資本の生成が種別を超えて、無数に起こる素地、土壌がニュースルームには備わっています。社員ー顧客、顧客ーパートナー、株主ーパートナー、社員ー地域社会など、多様で多層にわたる関係が生まれるのです。いつしか内側の循環が幾重にもなって、回り続けます。
そして、ニュースルームで生成された関係資本が、外側への循環を生み出す行動を起こさせるのです。

◆流す内容の運用・実践の場としてのSNS

SNSは、流す内容の運用・実践の場です。

当連載「『蓄える』場と『流す』場(2)」でも述べたとおり、SNSでは、視覚的・直感的なコンテンツ(画像・動画)がアルゴリズム上有利です。利用者の関わりの度合い(=エンゲージメント)も高くなりやすいことが各種調査で明らかになっています。短いテキスト(文章)と画像の方が拡散力・反応率ともに高い傾向が強いです。
フォロワーとなることで、プッシュ通知機能が発動します。ステークホルダーは、日常生活の中で自然かつ気軽にコンテンツと接触する機会が増えます。接触頻度が増え、「いいね!」やコメントにより、双方向のコミュニケーションが成立します。投稿ごとの反応の良し悪しもデータで如実に現れます。

SNS上でのこのようなコミュニケーションは、関係資本が生成されるプロセスそのものです。さらに、最も重要なこととして、SNSはニュースルームへの導線として機能します。記事(個々のストーリー)の要点や断片をSNSで共有し、ニュースルームにはリンクで誘導します。
もっと知りたい、もっと関わりたいという感情が湧いた人は自らの意思で母艦であるニュースルームを訪ねます。そこで生まれた共感が、次の行動への起点です。共有だけにとどまらず、自主的な発信へとつながり、外へと拡散されます。ステークホルダーの外側での循環が始まるのです。

◆内循環と外循環

信頼関係こそが価値を生み続ける源泉、能力なのです。これを関係資本といいます。企業が成長し続けるためには、すなわち価値が永続するためには関係資本が増え続ける仕組みが欠かせません。
どんな仕組みなのか、結論を先に述べます。内循環と外循環が相互に連動し駆動し続けるハブが必要です。それがニュースルームという制度資本です。
蓄える内容の母艦としてのニュースルームには、価値が貯蔵されます。感情資産という価値です。流す内容としてのSNSと連携させることで、ステークホルダー内部で感情資本と関係資本の循環が生まれます。ステークホルダーという枠に閉じられた内側での循環です。
そして、個々のステークホルダーが自身の感情蓄積の閾値を超えると、外側への発信が始まります。情報流通が発生するのです。その主要な流通経路がSNSです。そこで感情資産という価値の交換が始まります。さらに、その交換の連鎖が拡散現象を発生させます。この拡散現象こそが代表的な外循環です。ステークホルダーの外側へと感情と関係が広がっていくのです。

次回最終回は、情報戦略の本質と根幹を解説します。

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