仲間として向き合えるか:第4回 「上も下もない」は、どうすれば根づくのか

仲間として向き合えるか――サプライチェーン再設計論

第4回 「上も下もない」は、どうすれば根づくのか

歴史と制度が、信頼を支えている

第1回では、下請け構造の先に仲間は生まれるのかを問い、第2回では、危機の時代には管理ではなく信頼が問われることを見てきた。第3回では、その信頼の上に提案力が立ち上がり、現場の声が競争力へと変わっていくことを確認した。では最後に、そうした関係はどうすれば一時の美談で終わらず、企業の中に根づいていくのかを考えたい。

私は、その答えは歴史と制度にあると思う。
「上も下もない」という言葉は美しい。だが、言葉だけでは根づかない。苦しい局面になれば、組織はすぐに上下関係へ戻っていく。余裕がなくなれば、対話より命令が優先される。短期の成果が求められれば、信頼より統制が前に出る。だからこそ、この言葉を本当に根づかせるには、過去から受け継がれた思想と、それを繰り返し現場で確かめる仕組みの両方が必要になる。

今回のトヨタの仕入先大会の記事を読んでいて印象的だったのは、近次期社長がこの関係の原点を、創業期にまでさかのぼって語っていたことである。豊田喜一郎は、解体したエンジン部品を部屋に広げ、「この中から、できるものを持って行ってください」と仕入先に声をかけたうえで、「トヨタとともに苦労を分かち合ってください」とお願いしたという。つまり、関係の出発点そのものが、命令ではなく、未知の挑戦をともに引き受ける呼びかけにあった。近次期社長は、そこにトヨタのスタートがあると語っている。

この歴史は重要だと思う。
なぜなら、「上も下もない」という言葉が、最近になって都合よく持ち出された標語ではなく、企業の起点に近い場所にある思想だと分かるからである。創業期に共有された苦労、共に引き受けるという呼びかけ、そして世界中の仕入先も含めて「チーム・トヨタ」だと捉える発想。こうした歴史の層があるからこそ、信頼は単なる気分や雰囲気ではなく、繰り返し立ち返るべき原点として生き続ける。

だが、歴史だけでは足りない。
歴史は、放っておけば語りになり、やがて飾りになる。そこに制度が伴わなければ、信頼は記念碑のような言葉になってしまう。

その意味で、今回の記事でもう一つ重要だったのは、近次期社長が「トヨタと仕入先様の関係は、どこまでも一心同体、血の通ったものでなければならない」という石田退三の考えを引きつつ、同時に「温情と甘えに基づく妥協の産物ではない」とも述べていたことである。さらに、開発や生産の現場においては「上も下もございません」と語り、本気・本音のコミュニケーションと、自らの行動で信頼関係を築いていきたいとしていた。ここには、信頼を甘さではなく、厳しさを引き受ける関係として位置づける明確な意思がある。

私はここに、制度の入り口を見る。
制度というと、多くの人は規程やルールを思い浮かべる。もちろんそれも制度の一部だ。だが本当に重要なのは、何を繰り返し確認し、何を守り、何を変えるのかが、組織の中で明確になっていることだと思う。たとえば、現場に入り、自分の目で見て、声を聴き、彼ら彼女らだけでは変えられないトヨタの仕事のやり方や仕組みを見直す。必要なら「これはやめる」と決断する。近次期社長は、そうした行動まで言葉にしている。信頼は、姿勢だけでなく、行動の反復によって制度になっていく。

ニュースルームにこうした言葉を残すことにも、私は大きな意味があると思う。
社内の会議で語られて終わるなら、それは一過性のメッセージで終わるかもしれない。だが、公開された記事として残れば、その言葉は企業自身に返ってくる。仕入先も、社員も、社会も、その言葉を後から読み返すことができる。つまりニュースルームは、単なる発信の場ではなく、企業がどんな関係を目指すのかを記録し、照合可能にする場になる。信頼は見えにくい。だからこそ、言葉として残し、履歴として積み上げる必要がある。

「上も下もない」が根づくためには、現場の空気だけでは足りない。
経営がそれを言葉にし、行動にし、繰り返し確かめ、歴史と結び直しながら残していくことが必要である。歴史が原点を支え、制度が反復を支える。その両方があって初めて、信頼は気分ではなく、企業の強さになる。

振り返れば、この連載はサプライチェーンの話をしてきたようでいて、実は関係の話をしてきたのだと思う。下請けではなく仲間として向き合えるか。危機の時代に管理ではなく信頼を土台にできるか。その信頼の上に提案力を立ち上げられるか。そして最後に、それをどう持続させるか。答えは簡単ではない。だが少なくとも、「仲間として向き合えるか」という問いは、きれいな理念を掲げることでは終わらない。歴史に学び、制度として残し、行動で確かめ続けることでしか、その関係は根づいていかないのだと思う。

だから私は最後に、こう言ってこの連載を閉じたい。
仲間として向き合えるか。
その問いに本当に「はい」と答えられる企業だけが、強いサプライチェーンをつくることができる。
強いサプライチェーンは、管理でつくられるのではない。
信頼によって育ち、歴史によって支えられ、制度によって持続するのである。

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