場は、人の役割を変える:第1回 買う場所から、使う場所へ

場は、人の役割を変える ――利用者が、地域の担い手になっていく過程
第1回 買う場所から、使う場所へ
地域の再生は、施設を新しくすることだけで生まれるわけではありません。
そこに来た人が、ただの利用者にとどまらず、少しずつ関わり方を変えていく。
広島県福山市のiti SETOUCHIには、場が人の役割を変えていく過程が見えてきます。
本文
大型商業施設は、長く「買う場所」として存在してきました。
店があり、商品があり、サービスがあり、人はそこを訪れ、選び、買い、食べ、帰っていく。
運営する人と、出店する人と、利用する人。
その関係は、比較的分かりやすいものでした。
しかし、人口減少、中心市街地の空洞化、消費行動の変化が進む中で、かつて人を集めた大型施設が、そのままの形では成り立ちにくくなっています。
広島県福山市にあるiti SETOUCHIは、そうした流れの中で生まれた場所です。
前身は、旧福山そごう、福山ロッツ、エフピコRiMと名を変えてきた大型商業施設です。
その1階部分を、地元企業である福山電業が再生し、複合施設として運営しています。
ここで注目したいのは、単に「廃れた施設が再生された」という話ではありません。
むしろ重要なのは、そこがもう一度「買う場所」として再生されたわけではない、という点です。
iti SETOUCHIは、商業施設でありながら、商業だけで成り立つ場所ではありません。
コワーキングスペースがあり、イベントスペースがあり、飲食や物販の店があり、若者が過ごせる場所があり、ものづくりの場があり、広いパブリックスペースがあります。
人はそこに、何かを買いに来るだけではありません。
自習をしに来る。
イベントに参加する。
誰かと話す。
仕事をする。
出店する。
企画する。
手伝う。
誰かを連れてくる。
最初は、ただの利用者だった人が、少しずつ場を使う人になっていく。
場を使う人が、場をつくる人になっていく。
場をつくる人が、やがて場を支える人になっていく。
今回の連載で見たいのは、この変化です。
地域の担い手という言葉があります。
けれど、人は最初から「地域の担い手」として存在しているわけではありません。
多くの場合、最初は一人の利用者です。
たまたま訪れた人であり、何かに参加した人であり、誰かに誘われた人です。
そこに、もう一度来たくなる理由が生まれる。
話せる人ができる。
自分にもできるかもしれないと思う。
小さく試す機会がある。
失敗しても受け止められる余白がある。
そうした積み重ねの中で、人の役割は変わっていきます。
これは、地域活性化という言葉だけでは捉えきれません。
地域活性化というと、どうしても人を集めること、にぎわいを生むこと、売り上げを伸ばすことに意識が向きます。
もちろん、それらは大切です。
しかし、もっと深いところで問われるべきことがあります。
その場所に来た人の役割は、変わっているのか。
消費する人が、参加する人になっているのか。
参加する人が、企画する人になっているのか。
企画する人が、支える人になっているのか。
この変化が起きていない場合、にぎわいは一時的なものにとどまります。
イベントがある日は人が集まる。
話題になった時期は注目される。
けれど、そこに関係が残らなければ、場は消費されて終わってしまいます。
一方で、人の役割が変わり始めると、場は少し違う意味を持ちます。
そこは、誰かが用意した施設ではなくなります。
自分も少し関わっている場所になる。
知っている人がいる場所になる。
何かを始められる場所になる。
誰かを応援できる場所になる。
そのとき、地域は抽象的な言葉ではなくなります。
地域とは、行政のことだけではありません。
企業のことだけでもありません。
住民のことだけでもありません。
そこに関わる人たちの役割が、少しずつ重なり合うことで立ち上がってくるものです。
この視点は、以前の社会設計ノート「地域という主体」で考えた問いとも重なります。地域は、行政や企業という単独の主体ではなく、そこに関わる人たちの役割が重なり合うことで立ち上がってくるのではないか。
iti SETOUCHIが興味深いのは、その重なりが見え始めていることです。
もちろん、これは完成された成功事例ではありません。
施設の運営には、収益性、老朽化、契約期間、平日の集客、関係者間の温度差など、今後も向き合うべき課題があります。
むしろ、これからが本当の意味で問われる段階だともいえます。
だからこそ、この事例を「うまくいっている地域再生」としてだけ見るのは、少し早い気がします。
見るべきなのは、成功か失敗かではありません。
場ができたことで、人の役割がどう変わり始めているのか。
その変化を、どうすれば一過性で終わらせず、長く続く関係にしていけるのか。
この問いです。
次回は、iti SETOUCHIがなぜ「稼ぐ施設」だけではなく、関係を育てる事業として捉えられているのかを見ていきます。
そこには、一般的な収益モデルだけでは測れない、地域と企業の関係のつくり方が見えてきます。
