場は、人の役割を変える:第2回 利益だけでは測れない事業

場は、人の役割を変える ――利用者が、地域の担い手になっていく過程

第2回 利益だけでは測れない事業

事業を長く続けるには、収益が必要です。
けれど、目の前の利益だけを最大化しようとすれば、人が自由に使い、出会い、何かを始める余白は小さくなります。
iti SETOUCHIの運営から見えてくるのは、何を事業の成果として捉えるかという問いです。


「稼がない施設」

iti SETOUCHIを紹介した東洋経済オンラインの記事には、印象的な言葉が使われていました。

けれど、この言葉だけを切り取ると、少し誤解が生じます。

事業である以上、収益は必要です。
赤字を出し続けても構わないという話ではありません。

iti SETOUCHIには、周辺駐車場からの収入があります。オフィスやコワーキングスペース、飲食・物販のテナント、レンタルスペースなどからも収入を得ています。

東洋経済オンラインの記事によると、駐車場の収入は月約800万円。オフィスも満室となっています。

一方で、施設全体では年間約1,000万円の損失が生じ、それを運営する福山電業は「広告宣伝費」と捉えていると紹介されています。

ここで見たいのは、赤字を許容していることではありません。

福山電業が、何を事業の成果として捉えているかです。

施設から直接得られる収入だけを見るのではない。

地域で会社を知ってもらう。
新しい人や企業と出会う。
社員が、これまで接点のなかった人たちと関わる。
地域で働きたいと思う人に、会社の姿勢を伝える。
社員自身が、施設の運営を通じて成長する。

こうした変化まで含めて、事業が会社にもたらす価値として見ています。

もちろん、認知、採用、人材育成、地域との関係は、駐車場料金や賃料のように毎月数字で表れるものではありません。

どれだけ採用につながったのか。
地域との関係が、どれだけ本業に寄与したのか。
社員が、どのように成長したのか。

簡単に金額へ置き換えることはできません。

それでも、数字で表しにくいからといって、価値がないわけではありません。

むしろ、地域で長く事業を続ける企業にとっては、目の前の売り上げ以上に、時間をかけて効いてくるものがあります。

困ったときに相談できる人がいる。
新しいことを始めるとき、一緒に考えてくれる人がいる。
会社の姿勢を理解してくれる人がいる。
そこで働きたいと思う人が現れる。

そうした関係は、一度の広告やイベントだけでは生まれません。

場を開き、人と出会い、関わり続ける中で少しずつ育っていきます。

iti SETOUCHIでは、施設の約半分がパブリックスペースとして確保されています。

商業施設として考えれば、できるだけ多くの面積を店舗やオフィスとして貸し、賃料を得るという判断もあり得たでしょう。

しかし、それをしなかった。

誰かが座る。
中高生が勉強する。
イベントが開かれる。
立ち話が生まれる。
何をするか決めずに、しばらく過ごす。

直接お金を生まないように見える空間を、施設の中心に残しました。

この余白が、人の役割を変える入口になります。

何かを買わなくても入れる。
用事がなくても過ごせる。
誰かの活動を眺められる。
少し興味を持てば、参加できる。

初めから出店者や企画者になる必要はありません。

まず、そこにいることができる。
次に、誰かと知り合う。
誘われて参加する。
やがて、自分でも何かを始めてみる。

利用者が、場を使う人へ変わっていくには、このような段階が必要です。

施設のすべてに、すぐ収益を求めれば、その段階を受け止める場所はなくなります。

見るだけの人。
迷っている人。
まだ何をしたいか言葉にできない人。

そうした人たちは、事業の対象から外れてしまいます。

iti SETOUCHIが示しているのは、直接収益を生む部分と、関係を育てる部分を組み合わせる考え方です。

収益を否定するのではない。
収益だけを事業の成果にしない。

この違いは重要です。

ただし、この仕組みを、そのまま他の企業がまねできるわけではありません。

福山電業には、電気設備工事という本業があります。駐車場やオフィスからの安定した収入もあります。年間約1,000万円の負担を受け止めるという経営判断もあります。

本業の状況が変われば、施設にかけられる費用も変わるかもしれません。
経営者が代われば、同じ判断が続くとは限りません。
駐車場収入への依存や、2029年までとされる賃貸借期間など、不確定な要素も残っています。

だから、この事例から学ぶべきことは、「赤字でも地域のために続ける」という精神論ではありません。

自社は、何を事業の成果として捉えるのか。
直接の収益と、将来につながる関係をどう組み合わせるのか。
人の役割が変わるまでの時間を、どのように事業の中に確保するのか。

その設計です。

関係を育てることは、事業の外側にある社会貢献ではありません。

ある一定の条件の下では、企業が地域で長く事業を続けるための基盤になり得ます。

ただし、その価値は短期間では見えにくく、数字だけでは判断しにくいものです。

だからこそ、経営者には、何を残すために、何に時間と費用を使うのかという判断が求められます。

場が人の役割を変えるためには、空間を用意するだけでは足りません。

誰かに声をかける人。
初めの一歩を支える人。
人と人をつなぐ人。
少しずつ任せていく人。

そうした働き掛けが必要です。

次回は、iti SETOUCHIで、利用者が参加者になり、出店者や企画者へと変わっていく具体的な過程を見ていきます。

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