場は、人の役割を変える:第4回 役割の変化を、次の人へ渡す

場は、人の役割を変える ――利用者が、地域の担い手になっていく過程
第4回 役割の変化を、次の人へ渡す
人の役割が変わり、関係が生まれれば、それだけで場は長く続くのでしょうか。
むしろ難しいのは、その先です。始めた人がいなくなっても、新しい人が加わっても、場が変化しながら続いていくためには何が必要なのか。
iti SETOUCHIの現在地から考えます。。
これまで3回にわたり、iti SETOUCHIで起きている「人の役割の変化」を見てきました。
買う人から、使う人へ。
使う人から、参加する人へ。
参加する人から、企画する人へ。
そして、場を支える人へ。
その変化を生み出しているのは、自由に使える空間だけではありません。
何かを始められる余白がある。
誰かが声をかける。
最初の一歩を支える。
人と人をつなぐ。
少しずつ本人に任せていく。
空間と、人の働き掛け。その両方が重なって、人の役割が変わり始めます。
では、その循環は、いつまで続くのでしょうか。
iti SETOUCHIは、2022年に本格開業しました。
まだ歴史の長い施設ではありません。
年間約400回のイベントが開かれ、若者や地域の事業者が活動し、全国から視察も訪れる。
一方で、すでに次の課題も見えています。
現行の賃貸借期間は2029年まで。
建物そのものの老朽化も進んでいます。
2階部分の活用も、思うようには進んでいません。
イベントのない平日の集客や、利用する人の偏りも課題として挙げられています。
そして、もう一つ見逃せないことがあります。
人です。
iti SETOUCHIの現在の姿には、運営に関わってきた人たちの判断や働き掛けが色濃く反映されています。
何を収益と考えるのか。
どこまでを公共的な空間として残すのか。
誰に声をかけるのか。
どこまで支え、どこから任せるのか。
こうした判断の積み重ねが、今の場をつくっています。
しかし、同じ人がいつまでも関わり続けるわけではありません。
経営者も代わります。
担当者も代わります。
入居する店も変わります。
利用する若者は成長し、その場所を離れていきます。
地域の場が長く続くということは、同じ人たちが同じことを続けることではありません。
人が入れ替わりながらも、その場らしさが失われないことです。
ここに、次の難しさがあります。
場をつくった人が持っている経験や感覚は、簡単には引き継げません。
「あの人なら声をかけた方がいい」
「今はまだ任せない方がいい」
「ここは利益よりも関係を優先しよう」
こうした判断は、数字だけを見ても分かりません。
なぜ、そうしたのか。
その前に何があったのか。
誰と話し、何に迷い、何を選んだのか。
その背景が分からなければ、次の人は結果だけを引き継ぐことになります。
すると、制度やイベントの形は残っても、なぜそれをするのかという意味が失われていきます。
これは、iti SETOUCHIだけの問題ではありません。
地域で長く続いてきた会社。
商店街。
地域活動。
文化施設。
コミュニティー。
多くの場所で、同じことが起こります。
創業者や中心人物がいる間は、その人が考え、判断し、人をつないでくれる。
しかし、その人がいなくなった途端に、活動が止まる。
仕組みだけでは、引き継げないものがあるからです。
だから、場を長く続けるためには、出来事だけではなく、判断も残していく必要があります。
何をしたかだけではなく、なぜそうしたのか。
成功したことだけではなく、迷ったことや、うまくいかなかったことも。
誰が参加したかだけではなく、どんな関係が生まれ、どう変わったのか。
そうした履歴が積み重なれば、新しく関わる人も、その場がどのように育ってきたのかを知ることができます。
そして、自分たちの時代に合った形へ、変えていくことができます。
残すことは、過去を固定することではありません。
むしろ、変わるために残すのです。
なぜ、この場所は生まれたのか。
何を大切にしてきたのか。
どこで判断を変えたのか。
それを知っているからこそ、次の人は、同じことを繰り返すのではなく、新しい判断ができます。
以前、社会設計ノート「地域という主体」で、地域を行政や企業、住民という一つの主体だけで捉えることはできないと考えました。
今回のiti SETOUCHIの事例から、そこにもう一つ加えられるように思います。
地域という主体は、最初からそこに存在しているわけではありません。
人が場に触れる。
関係が生まれる。
役割が変わる。
その役割が重なり合う。
そうした過程の中から、少しずつ立ち上がってくるものではないでしょうか。
だからこそ、地域の担い手を増やすことは、人を募集することだけではありません。
人の役割が変われる場をつくること。
その変化を支える人をつくること。
そして、その判断と関係の履歴を、次の人へ渡していくことです。
iti SETOUCHIは、まだその途中にあります。
完成された成功事例ではありません。
むしろ、これから人が入れ替わり、環境が変わり、難しい判断を迫られる中で、この場がどのように変化するのか。
そこに、この事例の本当の意味が見えてくるのだと思います。
場は、人の役割を変える。
そして、役割が変わった人たちが、次の人が関われる場を残していく。
その循環が続いたとき、場は初めて、一時的なにぎわいではなく、地域に残るものになっていくのではないでしょうか。
