#20 企業の魅力って何?(1)
こんにちは、荒木洋二です。
◆魅力とは?
「企業の魅力とは何か」について、2回にわたって考察します。
「魅力」を辞書で引くと、「人の心をひきつける力」「人の気持ちをひきつけて夢中にさせる力」と記されています。
わが社、わが組織は魅力的な会社、組織になっているでしょうか。経営者・社員(スタッフ)に始まり、顧客、取引先、パートナー、株主・金融機関、地域社会など、関わる人々は魅力を感じているでしょうか。それぞれの心をひきつけ、夢中にさせることができているでしょうか。もし、心をひきつけているなら、何に、どこに魅力を感じているのでしょうか。
魅力がない、あるいは魅力が薄いということであれば、組織の土台そのものが確立できていない、揺らいでいる状態だということです。
魅力がない会社には、魅力に溢れたリーダーがいません。いないから魅力がないのです。働く人たちもあまり魅力的ではないかもしれません。
ここで皆さんに問いたいことがあります。
・魅力的な人材が所属していない会社に入社したい、共に仕事をしたいという人、そんな同志が集まるでしょうか。
・魅力のない会社に、魅力的な人がいない会社に魅力ある商品が作れるでしょうか。魅力あるサービスを生み出せるでしょうか。
・共に価値を生み出したいという熱い気持ちを抱いた取引先やパートナーと出会えるでしょうか。そんな仲間が見つかるでしょうか。
・魅力のない会社の将来に期待して投資する株主がいるでしょうか。融資する金融機関があるでしょうか。
・地域社会の住民たちから、ずっとこの地で事業を営んでほしいと願われるでしょうか。
・報道関係者から日々の歩みを追いかけたい、取材したい、と注目されるでしょうか。
筆者の答えはこうです。
何も生み出せないし、仲間となる同志は集まらないし、そもそも出会えません。何も期待されないし、望まれないし、注目もされません。何らかの魅力がなければ、誰からも選ばれません。一時的、一過性、個人的な理由で選ばれたとしても長くは続きません。
◆選ばれ続けるためには?
企業・組織は社員や顧客、取引先などの関係者から選ばれ続けることで、持続的な成長を手にすることができます。
私たちを取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。変化が止まったことは一度もありません。人々の意識や価値観、生活様式(ライフスタイル)も経済や社会の変化に影響を受けて、変わっていきます。
企業・組織は、ぶれない確かな軸、つまり企業理念やビジョンを掲げつつ、同時に変化に適応しながら事業を営んでいます。取り巻く関係者たちも、それぞれが変化の波にさらされながら、選択に迫られる場面に何度も遭遇します。そんな状況であっても変わらず、「選ばれ続ける」ことは決して簡単ではありません。
選ばれ続けるために日頃から何をすればいいのでしょうか。どんな関係を築けばいいのでしょうか。
企業同士の関係に焦点を当ててみます。もちろん直に接点を持つ個人、担当者同士の人間関係は重要です。お互いに一人の人間として信頼し合える関係を築けていなければなりません。しかし、馴れあいで付き合うような関係、健全な緊張感を失った関係、打算で成り立つ関係はよろしくありません。組織全体にとって成長や存続を阻むリスクをはらむことになります。必要以上に近づき過ぎて癒着すれば、不正の温床となるでしょう。不祥事が明るみになれば、組織全体の信頼を損なう重大な局面、危機に立たされます。
担当者個人だけの関係に終わらせないためには、何が必要なのか。
魅力あふれる企業・組織となっていること、あるいはそこを目指していることが大前提です。そして、その魅力が相手にちゃんと伝わっていることです。その魅力ゆえに関係をずっと続けたいと相手から思われていることです。どんな関係者からもです。自らの魅力を正確に把握し、その魅力が伝わるような活動をしているのかが問われます。
では、企業の魅力とは何でしょうか。人々は企業の何に魅力を感じるのでしょうか。
◆生活者とは?
電通PRの企業広報戦略研究所は、「生活者が企業のどのような活動やファクト(事実)に魅力を感じ、その魅力がどのように伝わっているのかを解析することを目的」に生活者1万人を対象とした調査を定期的に実施しています。同研究所が提唱しているモデルは、非常に示唆に富んでいます。同モデルと同調査結果から、何が企業の魅力なのかを一つ一つ確認し、明らかにします。
ただ、明らかにする前に、ここで「生活者」とは誰なのかを確認します。
どんな人でもさまざまな顔、側面を持っています。例えば、成人になれば、社会では社会人であり、有権者です。社会人でいうと公務員、会社員、経営者、自営業者など、立場や役割はさまざまでしょう。家庭では子ども、兄弟姉妹、夫や妻、親でもあるでしょう。マーケティングの観点でいえば、商品やサービスの消費者でもあります。
誰もが、さまざまな立場を同時に生きています。個々人がそれぞれの考え方や意識、価値観を持ち、それぞれの職業や立場で生活を営んでいます。そのことから21世紀に入った頃からでしょうか、企業社会では消費者ではなく「生活者」と呼ぶようになりました。
企業広報戦略研究所以外でも、生活者を対象に興味深い調査がいくつか行われています。経済団体連合会の外郭団体である経済広報センターは、「生活者の〝企業観〟に関する調査」を1997年度から毎年実施、今年の2月に第24回の調査結果を発表しています。博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所は、2006年から毎年「メディア定点調査」を実施し、生活者のメディア生活全般を定点観測しています。
この二つの調査結果も非常に興味深いので、当コラムで改めて紹介します。詳細はそのときまでお待ちください。
◆魅力度ブランディングモデルとは?
ここからが本題です。まず、企業広報戦略研究所の「魅力度ブランディングモデル」について紹介します。
同研究所は、近年、「FACTに基づく情報発信・情報拡散が企業ブランドに与える影響が強まっており、ますます重要になって」いることから、「企業のどのような活動・FACTに、生活者や投資家が“魅力”を感じるのかを検証し対策を講じる必要が生じ」たとしています。そのために、同研究所が開発したのが魅力度ブランディングモデルです。
同モデルでは、企業の魅力を人的魅力、財務的魅力、商品的魅力の三つに分類しました。この3要素の複合体が企業の魅力ということです。さらに各魅力で6領域・12項目、全部で18領域・36項目の活動とファクト(事実)を設定しました。
企業の魅力の「3要素×6領域」は次のとおりです。
●人的魅力
1.リーダーシップ
2.職人のこだわり
3.職場風土
4.アイデンティティ
5.誠実さ・信頼
6.社会共生
●財務的魅力
1.成長戦略
2.安定性・収益性
3.リスク&コンプライアンス
4.投資&財務戦略
5.市場対話・適時開示力
6.ソーシャルイシュー対応力
●商品的魅力
1.ソリューション力
2.コストパフォーマンス
3.リコメンド・時流性
4.共感
5.安全性・アフターサービス力・クレーム対応
6.独創性・革新性
◆表舞台と舞台裏
当コラムや当社のeラーニング講座などで、何度も言及していることですが、企業・組織が発信する情報は2種類に分けられます。それは「表舞台」の情報と「舞台裏」の情報です。表舞台も舞台裏も、いずれも事実であることに変わりはありません。
では、何が違うのか。
同じ事実でも表舞台は結果であり、舞台裏は過程です。点と線、静と動、モノ(粒子)とコト(波)の違いです。さらにいえば、表舞台は存在そのものや能力、実績を伝えるので認知や理解を得ることはできます。しかし、信頼や共感、一体感などの情緒は育まれません。情緒を育めるのは舞台裏です。舞台裏は、人々の情緒に訴えかける、心に響く情報なのです。舞台裏こそ、個々の企業ならではの、その企業らしさが現れる、魅力の宝庫といえます。
例えば、企業の表舞台と舞台裏の情報を挙げると次のとおりです。
●表舞台
・会社属性(概要)
・財務や投資、商品開発などの経営戦略
・人事労務、コンプライアンス、顧客対応などの経営施策
・業績・実績
・独自技術
・商品・サービスの機能・品質
●舞台裏
・創業ストーリー
・開発秘話、失敗談
・各現場での社員奮闘記
・若手社員の成長物語
・改革への挑戦、その内幕
・顧客体験
・取引先やパートナーとの価値共創のエピソード
表舞台と舞台裏。これらを魅力度ブランディングモデルと照らし合わせると、明らかになることがあります。
次回は、同モデルの「3要素×12項目」に触れ、2020年9月に発表された「第5回 魅力度ブランディング調査」の結果を見ていきます。
われわれ企業・組織は、何を伝えていないのか。何を伝えるべきなのか。なぜ、伝わらないのか。
考察をさらに進めていきます。