広報PRコラム#72 パブリシティの未来(6)

こんにちは、荒木洋二です。

前回まで3回にわたり、それぞれの利害関係者との関係においてパブリシティがプラスの影響を与えることを事例を交え解説しました。

パブリシティにはどんな成果があるのか。振り返りましょう。
経営者に誇りや自信を与えます。社員・スタッフは働きがい、やる気、会社への帰属意識が高まります。顧客には安心感を与え、継続の意思決定を後押しします。株主に対しては株価を上昇させるほどの影響を与えることもあります。報道機関にとってはお互いの信頼関係が成り立っているため、報道が連鎖する場合もあります。

■業界紙の影響力は大、業界への浸透力では群を抜く

今回は、報道機関の中でもとりわけ業界紙の影響力について言及します。日本の企業社会では各業界に専門の業界紙(誌)が存在しています。その影響力は決して小さくありません。侮れません。その業界での浸透力は、他のメディアと比較しても群を抜いていると言っても過言ではありません。

毎年、発行されている『広報・マスコミハンドブック PR手帳』(企画・編集:日本パブリック・リレーションズ協会、発行:アーク出版)をご存じでしょうか。広報部に一冊は常備しておきたい冊子です。広報PRに関する用語ミニ辞典であり、各メディアの部数・視聴率などの最新データも掲載されています。情報収集に役立つメディア(報道機関)や各種機関の情報まで網羅されていますので、手放せません。ぜひ毎年購入して活用してみてください。
『PR手帳』には報道機関の情報がジャンル別に構成されています。その一つに「業界別専門紙(誌)」という項目があり、連絡先や発行部数が掲載されています。

どんな業界紙があるのか、いくつか紹介しましょう。筆者の体験も交え、その影響力を例示します。

◆金融・証券・保険

生命保険業界で購読率が高いのが『保険毎日新聞』(保険毎日新聞社)です。18,000部発行されています。1945年創刊ですから、まもなく77年を数えます。会社・事業所単位での購読ですから、相当数の業界の人たちに浸透しています。
筆者が現在理事長を務めるリスクマネジメントのNPO法人での経験です。確かまだ事務局長の頃、同紙1面に写真入りで筆者のインタビュー記事が掲載されました。すると、生保業界で長らく働く高校の同級生からすぐに電話が入りました。編集部からいつ掲載されるのかを聞いていませんでしたし、さして意識していなかったこともあり、彼の電話で初めて知りました。掲載当日の電話でしたので、業界への影響力の高さがうかがい知れた体験でした。

・農業

農業分野も業界紙がいくつか発行されています。『日本農業新聞』(日本農業新聞社)、『農業共済新聞』(全国農業共済協会)、『農業協同組合新聞』(農協協会)などです。それぞれ15〜30万部発行されています。

つい最近、今年の2月のことです。当社クライアントの記事が『農業協同組合新聞』に掲載されました。クライアントは「食」に特化した人材総合サービス事業を営む会社です。農家の繁忙期には季節労働者を派遣し、食品加工場にも人員を派遣しています。日本有数のスーパーマーケットの店舗運営を数十店舗請け負うなど、「食」を切り口に1次産業、2次産業、3次産業に携わる仕事をしています。同社が農業・酪農を対象に「特定技能」人材の派遣を開始する、というプレスリリースを農政記者クラブと農林記者会に投函しました。すると投函の翌日、『農業協同組合新聞』のウェブサイトに記事が掲載され、同社には数件問い合わせがあったそうです。同社取締役から喜々としてその反響を伝える連絡が入ったほどです。

ここまでの事例からも明らかなように、各業界におけるそれぞれの業界紙の影響力は無視できないほど大きいのです。

■パブリシティをマーケティングの文脈で扱う危うさ 

パブリシティが企業経営にとって好影響を与えることが、これまでの話で十分理解できたと思います。

だからこそ、名だたる大企業がこぞってプレスリリースを連日のように各記者クラブに投函してきました。大々的な記者発表会を毎月のように開催もしてきました。広報部を設置し、相当数の人員を配置し、取材交渉や編集部訪問などを連日のように行ってきました。取材対応に明け暮れる日々を送ってきました。どれもこれもパブリシティの成果を上げるための活動でした。

その意義を十分理解した上で、筆者が危惧していることがあります。ここではそれを「パブリシティのわな」と「プレスリリースのわな」と名付けます。

何をもって、パブリシティの「わな」というのか。その理由を述べます。

多くのビジネスパーソンが、マーケティングの文脈でパブリシティを扱っているからです。そう感じさせられる場面に何度も出くわしてきたからです。中小・中堅企業の社長や経営陣たち、ベンチャー企業の経営者や起業まもない若手経営者たちが、たびたびそう扱っている発言をしています。マーケッターと呼ばれる人たち、ウェブマーケティングに携わる人たち、そしてPR会社のスタッフたちも同様です。
マーケティングの文脈で広告と同類として扱われています。そう位置付けているビジネス書も少なくありません。

マーケティングの文脈とはどういうことか。

つまりパブリシティをモノやサービスを売るための手段やきっかけと捉えている、ということです。直接的な反響を過剰なまでにパブリシティに求めているのです。それはまるでお門違いの責任や重荷をパブリシティに負わせているかのようです。

パブリシティが成果を上げるためには、報道機関、報道関係者たちの存在を無視することはできません。記者や編集者たちとの人間関係、信頼関係が前提として、その土台のもとにパブリシティは成り立ちます。
その意識が希薄であり報道関係者たちの顔、姿が見えていません。あえて見ようとしていないかのような振る舞いも目立ちます。そんな意識や振る舞いはいや応なく報道関係者に伝わります。前提と土台をおろそかにすることが、企業経営にとってどれほど危ういことなのか。当コラムの場を借りて、警鐘を鳴らしたいのです。

■プレスリリース配信事業者の隆盛がもたらした功罪

インターネットが普及することで、企業社会における情報流通が様変わりしたことはよく知られていることです。読者の皆さまも実感、体験してきたことでしょう。

ここ10年ほどで「プレスリリース」、あるいは「ニュースリリース」という用語が日本の企業社会で市民権を得たと筆者は見ています。プレスリリース配信事業者の企業努力とその成長がもたらした功績であることは間違いないでしょう。

しかし、もたらしたのは功績ばかりではありません。パブリシティをマーケティングの文脈で扱う勢力を増大させることにも、(あえて皮肉な表現をすれば)多大なる貢献をしました。これがプレスリリースの「わな」です。

次回は、この二つの「わな」がもたらす課題をさらに掘り下げます。

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