広報PRコラム#96 「情報発信」をひもとく(11)

こんにちは、荒木洋二です。

前回は「採用」において、何が「表舞台」の情報で、何が「舞台裏」の情報なのかを明らかにしました。その上で現在、企業社会で普及しつつある採用LP(ランディングページ)が抱える課題についても言及しました。

採用LPにおける重要な課題は、発信している情報がありのままの姿、等身大ではなく、着飾り過ぎていることだと指摘しました。しかも更新頻度があまりにも少なく、情報の質も量も十分ではありません。
更新が少ないということは、情報の鮮度に関わります。リアルさに欠けることにもつながります。情報の質や量が十分でないとは、どういうことで、どんな影響があるのか。要は幅も奥行きも狭くて浅いということです。表面ばかりでその実態、つまり「らしさ」も魅力もよく分からないので、信頼に値せず、結局選ばれません。

◾️テレビCMの大量投下と着飾る採用広報に終始したビッグモーター

見た目を着飾り、よそ行きの姿だけしか見せないと、せっかく採用できたとしても結果的に離職率が高くなるだけです。働く人の立場でいえば、ありのままの姿を確認しないまま、就職を決めてしまった結果、相当後悔し、日々苦しんでいる人も少なくないのではないでしょうか。退職を決断するまで悩み続け時間を要したり、ある日突然退職に追い込まれたりした人もいるに違いありません。

最近のことでいえば、中古車販売大手のビッグモーターがその象徴といえるでしょう。同社は有名な俳優を起用し、テレビCMを大量に投下していました。誠実でさわやかな印象が強いタレントを起用することで、同社があたかも同じ社風であるかのように装っていました。
今回の一連の不祥事で明らかになったとおり、同社には広報部がありませんでした。では採用はどうしていたのか。どんな情報を発信していたのでしょうか。実は採用専用ページを企業サイト内に設けていました。騒動直後からしばらくは採用ページを確認できたのですが、新規採用をやめたのか、現在ページは削除されています。
削除される前の採用ページでは、テレビCMの印象そのままに誠実な雰囲気の若手社員13人のインタビュー記事が掲載されていました。虚偽とまでは言えないかもしれませんが、今となっては着飾った、よそ行きの姿だったと断言されても弁解の余地はありません。明らかにリアルさを欠いた情報だけを発信していたのです。

◾️働きたいと思う理由を固定観念や思い込みで決めつけない

現在の採用LPは、決まりきった型(テンプレート)があるためか、当社が言うところの「舞台裏」の情報としては経営者のメッセージと数人の社員(主に若手)の声を掲載するにとどまっているものがほとんどです。この現状は、学生や転職活動する人たちが、経営者のメッセージと働く人たちの声という情報があれば、就職を前向きに希望する、と判断しているからでしょう。

しかし、果たしてそうでしょうか。もし本気でそう考えているのであれば、あまりにも短絡的な思考ですし、思考停止と言わざるを得ません。今や企業の現場では行動心理学、神経経済学などが流行しています。最先端の科学を企業実務に導入しようとしています。しかし、現場はその流れに逆行するかのようにステレオタイプが幅を利かせています。固定観念や思い込みがはびこっています。
人が働きたいと思う理由はさまざまです。その会社に応募しようと行動を起こし、そして選考過程を経て、やはりこの会社で働きたいと決断するまでに必要な情報とは何でしょうか。たった一つではないでしょうし、複数の理由があり、その組み合わせはそれこそ千差万別でしょう。その企業で働こうと真剣に考えれば、関心はつきません。

いくつか例を挙げてみましょう。

・経営者がどんな人柄で、日頃からどんな考えで事業を営んでいるのか。
・経営陣は、社員や自社を取り巻く関係者たちとどう向き合っているのか。
・若手に限らず、どんな人たちがどんな思いで働いているのか。
 日々、現場ではどんなことが行われ、どんな働き方をしているのか。
・どんな顧客や取引先と関わっているのか。彼らからどう評価され、どう思われているのか。
・地域社会での評判はどうなのか。地域に溶け込んでいるのか。
・SDGs(持続可能な開発目標)に対してどんな向き合い方をしているのか。

このように多面的に光を当てることで初めて、その企業の魅力や「らしさ」が浮かび上がってくるのです。

多様性が叫ばれる現代、性別や年代・世代別などで単純に分類できないくらい価値観や生活様式(ライフスタイル)も実にさまざまです。誰がどんな出来事に興味を持ち、どんな姿勢や言葉に心が魅了され、共感するのか。特にまだ相手と深く関わっていない採用の現場では分かりようもありません。だからこそ決めつけで判断しないで、普段のありのままの姿を多面的に見せることが非常に重要なのです。

◾️エン・ジャパンのウェブ社内報

ここで皆さんに紹介したいサイトがあります。転職支援大手エン・ジャパンのウェブ社内報『en soku!』(エンソク)です。社内報なのに見れるのか、と思った人も少ないないでしょう。社内報なのですが、誰でも閲覧できるように一般公開しているのです。

「en soku!」は、「社内報アワード2018」(主催:ウィズワークス株式会社)において、ウェブ社内報部門でゴールド賞を受賞した実績があります。広報部の発案で、広報部以外の他部署社員、約200人を「レポーター」として任命しました。レポーターたちが社内外のさまざまな出来事を取材し、そのエピソードを毎日アップしています。ウェブサイトには200人の写真などが「レポーター一覧」として掲載されています。

これぞ「舞台裏」の見える化の極みと言えるのでないでしょうか。ぜひアクセスして閲覧してみてください。エン・ジャパンがどんな社風、組織風土・組織文化なのかを垣間見ることができます。

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