#26 リスクマネジメントと危機管理の定義

こんにちは、荒木洋二です。

筆者はリスクマネジメントの専門人材を育成するNPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会の理事長も務めています。

前回は「リスクとクライシスの違い」について解説しました。今回は「リスクマネジメントと危機管理の定義」について紹介します。筆者が同協会が主催する認定講師養成講座の模擬動画用に解説した内容をお届けします。

◆定義

「リスクとクライシスの違い」で説明したとおり、「勇気を持って試みる」という語源から分かるように、リスクとは何かを目指し、挑戦する、その先の危険に遭う可能性を指しています。期待する、目指していることにとって、プラスの方向にいくのか、マイナスの方向にいくのか、いずれの可能性もある状態です。クライシスとは危機であり、リスクのマイナス面が顕在化した重大な局面のことです。

このことを踏まえ、リスクマネジメントと危機管理の定義を解説します。

まず、定義を紹介します。

国際標準化機構(ISO/アイエスオー)が示したガイドラインとして、リスクマネジメントの国際規格「ISO31000」があります。「ISO31000」ではリスクを「目的に対する不確かさの影響」と定義しています。リスクマネジメントの定義は「リスクについて、組織を指揮統制するための調整された活動」としています。

クライシスマネジメントの定義は、当協会では「クライシスが発生した際に、マイナスの影響とその拡大を最小限に抑え、回復できるようにするための諸活動」としています。これでは何のことか、今一つ分かりづらいので、分かりやすい例を挙げましょう。

◆リスクマネジメントとは

リスクマネジメントから説明します。

人は健康をしっかり管理して、生活すべきです。多くの人々が長く幸せな人生を過ごすために、QOL(生活の質)を高めようと努力しています。病気にかからないように、食事でバランスよく栄養を摂ったり、適度に運動したりして、健康を維持します。しかし、どんなに気を付けて健康的な生活を送っていても、不慮の事故や事件、あるいは災害に遭って、けがをすることも起こり得ます。

未来に何が起こるのか、いつどんなことに直面するのか。誰も明確には予測できません。ですから、日頃から予防、防犯、防災などに必要な備えを十分にして、生活しなければなりません。

これがリスクマネジメントです。

◆危機管理とは

次に危機管理を説明します。

どんなに心掛けていても、病気にかかることもあるし、運動の最中にけがをすることもあるでしょう。どんなに備えがあっても不慮の事故に遭うことも考えられます。被災して、けがを負うこともあるかもしれません。そんな万が一の、不測の事態に直面した際にどうすべきでしょうか。重要なことは、被害を最小限に抑え、どうやって速く確実に原状、つまり元の状態へと回復できるのか、健康な状態に回復できるのか、ということです。病院で薬を処方してもらうのか、入院して手術などの治療をしてもらうのか。重症であれば、その後、リハビリも必要となるでしょう。非常時には平常時とは異なる取り組みが求められます。

これが危機管理、クライシスマネジメントです。

リスクマネジメントができていないと、病気になりやすいし、けがもしやすくなります。日頃から心構えや備えがなければ、不測の事態に直面した際に、避けることができず、うまく対処できずに大きな痛手を負う確率は格段に高まります。回復も遅いでしょう。危機管理がしっかりとできないのです。リスクマネジメントをしていないからです。

このようにリスクマネジメントと危機管理は不可分一体な関係なのです。

前の記事へ 次の記事へ