中級講座 Ⅰ.理論・基礎知識 経営と広報 リスクマネジメントの基礎 〜リスクマネジメントとは(2)〜
こんにちは、荒木洋二です。
今回の講座も「経営と広報」の「1.リスクマネジメントの基礎」です。今回が「1.リスクマネジメントの基礎」の最後の講座です。次回からは「2.CSRの基礎」を解説します。
「1.リスクマネジメントの基礎」では、次のスライドに記載している三つの項目について分けて説明してきました。
今回は、前回同様に「③リスクマネジメントとは」で、最後の「クライシスマネジメントとBCP」です。
③リスクマネジメントとは
・クライシスマネジメントとBCP
【クライシス】
クライシスとは何でしょうか。クライシスの定義は次のスライドのとおりです。
クライシスの意味が明らかになったところで、クライシスマネジメントの定義を紹介します。
・クライシスが発生した際にマイナスの影響とその拡大を
最小限に押さえ回復できるようにするための諸活動
いずれも日本リスクマネジャー&コンサルタント協会における定義で、『リスクマネジメント基礎講座』にも記載されています。日本語でいえば、「危機管理」です。
「リスクとは」の講座で説明したようにゼロリスクは絶対にあり得ません。つまり、危機はいずれ発生する可能性があるのです。危機が起こったとき、どう対応するか、行動するかという危機管理は必要です。危機管理を行う目的は、具体的には次の三つです。
①被害拡大防止(ダメージ極小化)
②迅速に復旧(回復)
③再発防止
だから危機管理は必要なのです。ゼロリスクはあり得ないからです。
【BCP】
BCPは「ビジネス・コンティニュティ・プラン」の略です。日本語では「事業継続計画」といいます。
日本では主として災害対策などを行う際に使われます。近年のコロナ禍を踏まえれば、疫病対策、感染症対策もBCPです。日本の中小企業では、あるいは経済産業省やその中にある中小企業庁ではBCPという用語が日常的に飛び交っています。
リスクマネジメントやクライシスマネジメントはあまり日常的には使われていないでしょう。危機管理の方が定着しています。それでもサッカーではリスクマネジメントはよく使われますし、大企業では確かに定着しています。リスクマネジメント委員会が設置されていたり、リスクマネジャーがいたりします。
BCPでは、リスクマネジメントと同様に平時における利害関係者とのコミュニケーションが重要である、と常々強調されています。ISO(国際標準化機構)にはBCM(事業継続マネジメント)を基準としたものも制定されています。ISO22301といいます。
次にリスクマネジメントとクライシスマネジメントとの関係を表したのが、次のスライドの図です。
リスクマネジメントの守備範囲は、平時から緊急時、さらに回復時までの全体を包含しています。平時というのは何らかの危機が発生する前、つまり事前ですね。平時でもリスクはあらゆるところに潜在しています。そのリスクが顕在化して危機が発生します。つまり緊急事態が起こるということです。それを乗り越え、元どおりに回復させるまでがリスクマネジメントです。
クライシスマネジメントの守備範囲は危機管理です。危機発生後、その緊急時を乗り越え、どう回復させるのかがクライシスマネジメントです。
この図を個人の健康と地域社会の安全に当てはめてみます。次のスライドのとおりです。
こうして落とし込んでみると、分かりやすくなるのではないでしょうか。
【個人の健康】
まず、個人の健康でいえば、健康維持のためにちゃんと予防しましょう、ということです。予防医学ですね。健康に留意して生活していたとしても、何らかのリスクが顕在化して病気になったり、事故などでけがをしたりすることもあるでしょう。その時には薬を処方されたり、適切な治療や手術を施されたりしなければなりません。その結果、緊急時を乗り越えて健康な状態を回復していくわけです。
【地域社会の安全】
地域社会の安全に当てはまるとどうなるでしょう。例えば、地震などの災害で考えてみましょう。予防に当たるのが訓練や備蓄です。学校や町全体で避難訓練を定期的に行っていますよね。災害時のためにちゃんと食糧品や飲料水、懐中電灯、軍手、ヘルメットなどを備蓄しておかなければなりません。
実際にリスクが顕在化して、地震や火災が発生します。緊急時の対応として避難や消火活動があります。被災地の回復とは復興のことです。復興が簡単でないことは、東日本大震災など、日本各地の被災地のことを知れば明らかです。
これがリスクマネジメントとクライシスマネジメントの違いです。
コース「経営と広報」の「はじめに」でも述べました。もう一度、リスクマネジメントと何かをひもときましょう。「利害関係者」は、パブリック・リレーションズ、リスクマネジメント、CSR(企業の社会的責任)の全てに共通しています。経営戦略も企業価値も利害関係者で説明できます。
利害関係者に焦点を当てて、リスクマネジメントを分かりやく説明すると次のとおりです。
・利害関係者とリスクを共有し未来をつくり、危機を乗り超える
・利害関係者から選ばれ続けるため、組織の価値を自ら守り続ける
これがリスクマネジメントです。
今回の講座で「リスクマネジメントの基礎」は終了です。
★参考文献『リスクマネジメント基礎講座テキスト』(発行:NPO法人日本リスクマネジャー&コンサルタント協会)