広報PRコラム#65 企業の魅力を考察する(5)

こんにちは、荒木洋二です。

企業の魅力とは何か。人々は企業のどんな事実や活動に魅力を感じるのか。どうすれば魅力は伝わるのか。魅力をどの程度感じているのかを測る方法はあるのか。そもそも魅力はどうすれば生まれるのか。魅力を生み出す、引き出す源泉とは何か。

そんな問いに対する最適解を考察するコラム。今回は第5回です。

前回のコラムでは、東海大学・河井孝仁教授が提唱する「地域魅力創造サイクル」を紹介しました。地域魅力創造サイクルとは、「発散→共有→編集→研磨→(再)発散」のことです。このサイクルを繰り返すことが重要であり、そのために必要とされるのが「共創エンジン」です。役所だけではこのサイクルは回せません。「まちに住む人たちや、まちのNPO・会社、まちの外からまちに共感する人たち」と共に創り、協力して働くことでサイクルは回るのです。

■推奨意欲、参加意欲、感謝意欲

サイクルを回すためには、関わる者たちがいかに当事者となれるかが鍵を握ります。役所であれば、「まちに住む人たちや、まちのNPO・会社、まちの外からまちに共感する人たち」を当事者にできるか。企業であれば、経営者、社員、顧客、取引先・パートナー、株主、地域社会(役所・住民)を当事者にできるか。つまり「自分事」として取り組める、そこまで深く関与するようになるにはどうすればいいのでしょうか。

東海大学・河井教授はこの関わり度合いを定量化する方法として、「mGAP(エムギャップ・修正地域参画総量指数)」を提唱しています。次の三つの指数を用います。

・推奨意欲指数

町を知人に推奨する気持ちはどの程度か。

・参加意欲指数

町をよりよくする活動に参加したい気持ちはどの程度か。

・感謝意欲指数

町をよりよくするために活動している人に感謝する気持ちはどの程度か。

それぞれ10点から0点の中から選択します。個々人の選択結果を集計し、8点以上のポイントを付けたものの比率から、5点以下のポイントを付けたものの比率を差し引きます。

企業社会では、顧客がどんな気持ちで関わっているのかを測る指標として、NPS(ネット・プロモーター・スコア)がよく知られています。10点から0点で評価し、推奨度を測っています。河井教授はこのNPSをもとに推奨だけでなく、参加、感謝も加えています。三つの指数から判断するのです。しかも調査対象は住民だけでなく、町のNPO・会社、町を応援する人たちまで範囲を広げています。画期的ですし、非常に示唆に富んでいます。

■顧客以外のそれぞれの利害関係者と向き合う

筆者が10数年前、起業して間もない頃に『顧客「不満足度」のつかみ方』(武田哲男著、PHP研究所刊)という書籍を手にしました。著者の武田哲男氏は、企業社会には「顧客不満足度調査」が必要である、と述べていました。当時、筆者の記憶ではNPSはまだ知られていませんでした。武田氏は推奨意欲と継続購入(利用)意欲の二つの指数を測るために、調査項目に必ずこの二つを盛り込む重要性を強調していました。

なぜ、この二つの指標が必要なのか。ともすれば、調査担当者が最初から結果ありきで恣意的な質問を列挙して、調査する例が散見されていたからです。上司に都合のいい情報を報告するためですし、自分の点数稼ぎに過ぎません。経営にとって、全く意味のない調査が横行する傾向があることを、武田氏は危惧していました。

おそらく、今も一定数そういう調査は後を絶たないのではないでしょうか。インターネットが普及することでその傾向に拍車がかかっているようです。2月3日、市場調査会社の業界団体「一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会」(JMRA)が、広告で訴求するためのやらせ調査に対して、抗議状を公表するというニュースが流れました(Yahoo!ニュース掲載のJCASTニュース記事)。

少し脱線しました。本題に戻ります。河井教授が提唱するmGAPと、武田氏の提唱する二つの指標を企業に当てはめるとどうなるでしょうか。次の四つの意欲に分けられます。

・推奨意欲

企業や製品・サービスを知人に推奨する気持ちはどの程度か。

・継続意欲

企業や製品・サービスに継続して関わる気持ちはどの程度か。

・参加意欲

企業をよりよくする活動に参加したい気持ちはどの程度か。

・感謝意欲

企業をよりよくするために活動している人に感謝する気持ちはどの程度か。

推奨意欲の対象が社員であれば、知人や後輩に転職や就職を推奨する気持ちです。継続意欲であれば、ずっと社員として働きたいのか、ということになるでしょう。取引先であれば、(競合状況に左右されますが)企業を推奨する気持ちの程度となるでしょう。株主であれば、継続して株を保有したい気持ちはどの程度か、ということです。

企業側の視点から地域社会との関わりを見ると、企業として「町をよりよくする活動に参加したい気持ちはどの程度か」が問われます。あるいは企業が行う本業と密接に結びついたCSR(企業の社会的責任)に対して、それぞれの利害関係者が参加したい、関わりたいとどの程度思っているか、ということです。

感謝意欲でいえば、「企業をよりよくする活動」とは製品開発やイノベーションにこだわる取り組むをしているのか。より働きやすい職場となるよう取り組んでいるのか。社員が継続して付き合ってくれる顧客、取引先などに対して感謝する気持ちを持っているのか。各利害関係者の立場で、自ら以外の利害関係者に対して感謝する気持ちがどの程度なのか、ということです。

現段階ではあまりにも粗削りで、定量評価の明確な基準となっていません。しかし、今後、企業の魅力を測る指標として、企業広報戦略研究所が提唱する「魅力度ブランディングモデル」とともに注目される指標ができるのでは、と静かに興奮しています。

次回は、魅力を生み出す源泉として「情熱」に焦点を当てて、考察を続けます。企業経営に対して、関わる人たちがそれぞれの立場から「自分事」にできるかどうか。その鍵を探ります。

★参考文献『「失敗」からひも解くシティプロモーション ー何が「成否」をわけたのか』(河井孝仁著、第一法規刊)

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