広報PRコラム#67 パブリシティの未来(1)

こんにちは、荒木洋二です。

筆者が広報PRに携わるようになって、間もなく四半世紀を迎えようとしています。今年の4月で丸25年です。25年前、PR会社に就職し、筆者の「広報人生」は始まりました。当初は毎日、プレスリリースを書いては報道機関に送ったり、編集部を訪ねたりしていました。その情報をもとに新聞や雑誌などに記事が掲載されました。あの時のかすかな興奮というか喜びは今も鮮明に覚えています。毎日の仕事が新鮮だったし、楽しくて面白くて仕方がありませんでした。

企業・組織が、プレスリリースなどの報道資料を報道機関に提供します。その資料、情報をもとに記事が掲載されたり、ニュースとして報道されたりします。この一連の流れを「パブリシティ」と言います。

今回から数回にわたり、この「パブリシティ」についての私見を披れきします。まず、パブリシティの現在地を確認後、パブリシティの歴史を概観します。最後に大げさにいえば、パブリシティの未来を展望してみようと思います。

■パブリシティとは狭義の広報なのか

筆者の広報人生を振り返ると、始まりから約15年はパブリシティ業務一色に染まっていました。
この業界に入って3、4年経った頃、広報に関する書籍を手に取り勉強するようになりました。すると、どの書籍にも広報とはPRと同義語であり、PRとはパブリック・リレーションズの略であると説明されています。パブリック・リレーションズを直訳すると公共関係、意訳すると、利害関係者との良好な関係構築という概念であることも知ります。さらに、こう解説されます。パブリック・リレーションズとは広義の広報、パブリシティとは狭義の広報であると。当時はこの説明で納得していました。
今から13、4年ほど前、起業して間もないころ、広報講座を担当する機会に恵まれました。講座の中では「広報とはパブリック・リレーションズ」であると説明しながら、事実として当時の実務はパブリシティに終始していました。狭義の広報という理解で、現場ではパブリシティを実践していたのです。

しかし、パブリシティとは狭義の広報なのでしょうか。狭義、すなわち狭い意味で、ということです。何がどう狭いのでしょうか。一つ一つ解説しましょう。

第一の視点として「パブリック」を構成する主体を分解してみましょう。企業にとってのパブリック、つまり利害関係者とは、経営者・社員、顧客、取引先・パートナー、株主、地域社会(役所・住民)のことです。ここに報道機関を加えることもあります。パブリシティとは、企業・組織が報道機関に情報を発信することから始まります。対象が報道機関だけということです。つまり対象が狭いといえます。

■パブリシティとメディア・リレーションズ

第二の視点として「リレーションズ」ですから、関係を築かなければなりません。そのためには双方向のやり取りが欠かせません。コミュニケーションが必要だということです。情報の発信だけでなく、情報の受信や共有も含まれます。
繰り返します。パブリシティとは、企業・組織が報道機関に情報を発信することから始まります。機能としては発信だけです。受信や共有は含まれません。つまり機能が限定されています。これも狭いといえるかもしれません。
そもそもパブリック・リレーションズの一つとして、メディア・リレーションズがあります。メディア・リレーションズとは、報道機関と良好な関係を築くことです。それが、パブリシティの成果を上げるための土台となることは確かです。

パブリシティとは狭義の広報と言いながら、「パブリシティ」をそのまま使うこともあります。映画業界がそうです。劇場映画では、最後にキャストやスタッフなどのテロップが淡々と流れます。お気付きの人もいるでしょう。そこで「パブリシティ」担当が必ず表記されています。テレビでもドラマなどのテロップで「ウェブパブリシティ」などの担当名が出てきます。

ただ、企業社会では一般的にパブリシティのことを広報と等しく捉えています。もっとはっきりいえば、現在、間違いなく「広報=パブリシティ」という認識が企業社会で広がり、定着してしまっています。この認識がパブリシティの悲劇を生み出している、というのが筆者の見解です。ですから筆者は、パブリシティを狭義の広報とすることに異を唱えたいのです。

■PR会社の主業務はパブリシティ

別の角度から分析してみましょう。

パブリシティのことを広報PR業界では「メディア露出」ともいいます。マスメディアとはテレビ、新聞、雑誌、ラジオのことです。インターネットが普及する以前はマス4媒体と言われていました。現在は、インターネットが加わっています。マス5媒体です。
これらメディア企業は報道部門と広告部門に大別されます。企業がメディアと接する場合、この2部門と関わります。報道部門と関わるのが企業の広報部です。大企業の場合、広報部以外のさまざまな名称が付けられています。パブリック・リレーションズ、コーポレート・コミュニケーション、ブランド・コミュニケーションなどです。同部署内で社内報、報道、IR(株主向け広報)などに分かれています。広告部門と関わるのが、企業の広告・宣伝部であり、マーケティング関連部署です。大企業ではこのように広報と広告の両機能を担う部署が必ず設けられています。

大企業といえど社内の人材だけでは規模も能力も十分でない場合、専門会社に外注することも少なくありません。広報部門の報道対応の業務を委託されるのがPR会社です。広告・宣伝やマーケティング業務を委託されるのが広告代理店です。ですからPR会社の主業務はパブリシティなのです。その証左として、PR会社がクライアントから要請されるのは、どこまでいってもメディア露出です。PR会社の現場では、メディアでの露出数(掲載・報道数)をKPI(重要成果指標)として設定されることがほとんどです。非常に残念なことですが、メディア露出が目的となっているのです。
PR会社は、もちろん企業の広報部(報道対応)も、報道機関と良好な関係を築かなければなりません。メディア・リレーションズを担っているから、当たり前のことです。それが本質です。しかし、現実はどうでしょうか。メディア露出にこだわり過ぎ、それを目的としてしまっている企業やPR会社は、報道関係者から敬遠され、場合によっては忌み嫌われます。本末転倒の典型例といえます。この実態もパブリシティの悲劇を生み出しています。

次回はパブリシティの成果に焦点を当て、解説します。パブリシティが企業経営にどんな影響を与えるのかをデータなどから明らかにします。

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