中級講座 Ⅰ.理論・基礎知識 経営と広報 CSRの基礎 〜CSRの今〜

こんにちは、荒木洋二です。

「経営と広報」の「2.CSRの基礎」について、今まで4回にわたり解説してきました。今回が最後の講座です。

③CSRの今

今まで「①企業・組織と社会」と「②CSRとは」を解説しました。今回が最後「③CSRの今」について解説します。

CSRとは社会貢献活動のことでしょうか。そう理解しているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。同じような言葉で「SRI」がありますが、何の略か、日本語の訳語は何か、ご存じでしょうか。「ESG」はどうでしょうか。(前回も説明しましたが)「SDGs」は分かりますか。

今回はこうした類似語を一つ一つ整理します。

■CSR

まず、CSRは単なる社会貢献活動ではありません。(前回述べたとおり)かつて日本企業が自社の印象を良くするために行った、フィランソロピーやメセナと呼ばれる文化的な活動とは本質が違います。CSRの本質は利害関係者と正面から向き合うことです。逃げずに真摯に、その実態や実情と向き合うことです。自社が営む事業との関わり、本業との関わりの中でCSRは成り立つものです。あくまでも事業の延長線上にあるのがCSRなのです。

資金や時間に余裕がある大企業が、ボランティアなどの社会活動や観光振興、芸術文化振興のために行う活動では決してありません。ボランティアやそのほかの活動を否定しているわけではありません。

上場や未上場、企業規模に関係なく、すべからく企業は利害関係者と共に価値を生み出し、事業を営んでいます。利害関係者は経営資源そのものであり、それぞれの利害関係者により社会は構成されています。ある面、企業は社会全体から経営資源としての利害関係者や自然環境を負託され、事業を営んでいるともいえます。ゆえに事業との関わりの中でこそ、CSRは成り立ちます。これがCSRの本質です。

■SRI

次にSRIとは何でしょうか。

これは「Socially Responsible Investment」の略称です。日本語では「社会的責任投資」といいます。つまり投資行動です。運用上の投資基準にCSRの視点を入れましょう、というのがSRIです。

ちなみにCSRには国際標準があります。2010年11月1日に、「ISO26000」が発行されました。発行したのは、国際標準化機構(ISO)です。ISOは品質管理や環境、リスクマネジメントに至るまで、さまざまな国際標準を定めています。ISO26000は、正確にはCSRでなく、SR(社会的責任)の国際規格です。企業に限らず、あらゆる組織に社会的責任があるからです。SRはリスクマネジメントと同様、審査登録制ではなく、ガイドラインとして示されています。

欧米を中心に規格策定の段階から認知が広まり、「CSR報告書」を発行する企業が相次ぎました。日本国内でも、2000年代半ばを前後する時期に先進的な大企業が「CSR報告書」を発行し、企業社会に広がりを見せたという経緯があります。

■ESG

ESGとは何でしょうか。

これは「Environment=環境」、「Social=社会」、「Governance=ガバナンス(統治)」の略でESGです。

皆さん、「トリプルボトムライン」をご存じでしょうか。ボトムラインとは、決算書の最終行に記載されている「利益(損失)」のことを指します。利益とは、すなわち経済的観点のことです。トリプルボトムラインとは経済的観点だけで企業を評価するのではなく、社会的観点、環境的観点も加えるべきという考えです。三つの側面から企業を評価しようということです。1994年、起業家であり、作家でもあるジョン・エルキントン氏が最初に提唱したといわれています。

ESGとは、環境、社会、ガバナンス(統治)の三つです。世界の先進的な企業では、この三つの視点を取り入れ、アニュアルレポート(年次報告書)や統合報告書でESGの取り組みを記載しています。近年、日本の上場企業でも統合報告書にESGに関して記載する企業が増えています。SDGsに関する記載も同様に増えています。

■SDGs

SDGsとは、「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では「持続可能な開発目標」と訳されています。「エス・ディー・ジーズ」と読みます。

2015年9月の「国連持続可能な開発サミット」で採択されました。国際連合加盟193カ国が、2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標です。「貧困をなくそう」、「飢餓をゼロに」、「質の高い教育をみんなに」、「人や国の不平等をなくそう」など、17の目標が掲げられています。日本でも各企業は、どの目標に対し、どんな活動を実施しているのか、などをウェブサイトや統合報告書で公表しています。

17の目標については、以下二つのスライドで確認してください。

国連はSDGs以前には「GC(グローバルコンパクト)の10原則」を定めていました。国連の一連の活動の中で近年掲げられた目標がSDGsです。

中級講座の「理論・基礎知識編」における最後のコース「経営と広報」の「2.CSRの基礎」は今回の講義で最後です。次回から、「経営と広報」の最後「3.リスク・コミュニケーション」を3回にわたり、解説します。

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