広報PRコラム#68 パブリシティの未来(2)

こんにちは、荒木洋二です。

皆さん、「パブリシティ」という言葉をご存じでしょうか。広報PRに携わったことのある人にとっては日常用語でしょう。近い領域の広告やマーケティング関連の人でもあまりなじみがない言葉かもしれません。一般のビジネスパーソンは、ほぼ知らないだろうと予想されます。
企業・組織が、プレスリリースなどの報道資料を報道機関に提供します。その資料、情報をもとに記事が掲載されたり、ニュースとして報道されたりします。この一連の流れが「パブリシティ」だと前回説明しました。

前回は、企業社会では「広報 = パブリシティ」として定着していること、PR会社の主業務、「メディア露出」という認識の弊害などに言及しました。今回は、パブリシティが企業経営にどのような影響を与えるのかを解説します。

■報道機関としてのメディアの役割

パブリシティは報道、つまり「メディア露出」につながった段階で初めて成立します。ですから企業経営におけるパブリシティの成果は、マスメディアの影響力に拠るところが大きいといえます。

ここで改めてマスメディアの役割を確認しておきましょう。

マスメディアは、報道と広告という両方の機能を有しています。パブリシティに関わりがあるのは報道機関としてのメディアです。報道面での役割を五つ挙げてみます。当社がeラーニング形式で提供している広報PR講座「中級講座:Ⅰ 理論・基礎知識編」の講座(番号:21013)内で記載した内容を引用します。

◆報道機関の主な役割

・国民の知る権利に応える:情報公開法

・目利き(選別眼):一次情報を獲得し、社会に伝達

・「情報の非対称性」の解消に一定の効果

・生活者の味方・代弁者

・第三者としての客観的な立場

国民の知る権利に応えることが、報道機関としての最も重要な存在意義といえます。国や自治体などの行政機関と国民との間には厳然たる「情報の非対称性」が存在しています。個々人が行政機関における全ての情報を知ることはできません。圧倒的な情報格差があります。
そのために情報公開制度が設けられています。法務省のウェブサイトに同制度の詳細が記載されています。同サイトによれば、「『行政機関の保有する情報の公開に関する法律』に基づき,行政機関の保有する情報の一層の公開を図り,政府の保有するその諸活動を国民に説明する責務を全うするとともに,国民の的確な理解と批判の下にある公正で民主的な行政の推進に資することを目的とするもの」としています。「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」は、一般的に情報公開法として知られています。

■情報の非対称性を解消 

企業・組織と生活者の間にも、情報の非対称性は存在しています。報道関係者はプロフェッショナルとしての専門能力を備えています。目利きとして、何が社会にとって有益な情報なのかを、見極められる選別眼を持っています。生活者は全ての一次情報を確認できる立場にありません。ですから生活者の代わりに記者たちが現地、現場に赴き、取材します。一次情報を獲得します。そして、ありのままの事実を社会に伝達します。一次情報だけでなく、独自の視点による解説や調査報道などで二次情報も提供します。
このように報道により情報の非対称性をある程度は解消できます。全てを解消できるわけではありませんが、一定の効果があるのです。こうしてみてみますと、報道機関は生活者の味方であることが分かります。

別の視点もあります。市井の人の生活や声などを取材し、社会に広く伝えます。社会的な弱者といえる人たちの苦渋や問題などは、見過ごされ、あるいは放置されてしまいがちです。そのような人たちを訪ね、寄り添い、つぶさに取材し、その実態を報道します。つまり生活者の代弁者でもあるのです。生活者にとって、有益な情報を入手する面では味方であり、小さく弱い声、声なき声を伝えるという面では代弁者です。もちろんここでも情報の非対称性を解消する役割を果たしています。これが報道機関の役割です。

■データから読み解く報道の影響力

報道機関は、第三者としての客観的な立場から、企業やその事業を目利きとして評価する立場にあります。市場や業界に精通している記者であれば、鋭い選別眼や嗅覚を持ち合わせています。ゆえに報道される内容は、一般社会から一定の信頼を得ています。発信する情報は、読者や視聴者から信用されているのです。
つまり企業・組織にとっては、利害関係者に影響を与える立場にあります。企業に対してポジティブな報道があれば、生活者の評価や評判は高まります。ネガティブな報道があれば、その評価や評判は著しく下がります。

生活者が企業を評価するに当たって、報道はどれほどの影響を与えるのしょうか。データから読み解いてみましょう。2021年2月に一般財団法人経済広報センターが公表した「第24回 生活者の“企業観”に関する調査報告書」を紹介します。経済広報センターは経済団体連合会(経団連)の外郭団体で、1978年に設立されました。「社会と経済界とのコミュニケーション」をキーワードに、経済界の考え方や企業活動について国内外に広く発信するとともに、社会の声を経済界や企業にフィードバックすることに努めている団体です。毎年2月に同調査報告書を公表しています。

数ある設問の一つとして、企業評価の際に利用する情報発信者の信用度について尋ねています。同調査では「メディアからの発信(ニュースや記事など報道)」と「企業からの発信(企業ホームページ、各種刊行物、ソーシャルメディアなど)」を「信用する(信用する/ある程度)」が79%
と同率で1位を獲得しています。いずれも「信用する」が6%、「ある程度信用する」が73%と全く同じでした。
2020年の調査結果と比較すると、いずれも「ある程度信用する」が73%と変化はありませんでした。ただ、メディアからの発信は「信用する」が1ポイント下がったの対し、企業からの発信は1ポイント上がったため、同率で並んだのです。

筆者は10年以上、同調査をウォッチしています。ほぼ毎年、メディアからの発信が1位で約80%、企業からの発信は1〜5ポイント差で2位、という結果です。メディアの捏造報道やヤラセ番組などが明るみになった際には、1位と2位が逆転したことはありました。ただ、総じて生活者は企業を評価するに際して、メディアからの発信を信用していることは明らかです。同じように企業からの発信も信用していますが、ここでの企業とは誰もが知っている大企業を指していると捉えた方がいいでしょう。当コラムで何度か紹介した、「魅力度ブランディングモデル」の調査結果と同様にバイアス(偏り)がある、と理解しましょう。

中小・中堅企業、スタートアップにとってみると、メディアからの発信がより大きな影響を及ぼすことは間違いないでしょう。パブリシティの成果は、企業評価だけでなく、企業の信頼までも左右する影響力があるのです。

次回は、筆者の経験からパブリシティの成果を明らかにします。

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