広報PRコラム#107 リスク情報と向き合う(2)

こんにちは、荒木洋二です。

企業経営に重大な影響を与える情報は二つに分類できます。それはプラスの情報とマイナスの情報です。

とかく広報PRの世界では、プラスの情報ばかりに目がいきがちですし、意識が偏りやすいものです。前回はマイナス面の情報を伝えることがどれほど重要かに言及しました。

今回、もう一つ指摘したいこととして、広報に携わる者たちは情報を発信することばかりに注力する傾向があります。

PRとはパブリック・リレーションズの略です。企業・組織を取り巻く関係者(=利害関係者)と良好な関係を築くという概念です。良好な関係を築くためには双方向のコミュニケーションが欠かせません。コミュニケーションとは見る、聞く、考える、話す(伝える)という四つの要素で構成されています。

ですから情報発信だけでなく、情報共有や情報収集が極めて重要であることはいうまでもありません。

これらのことを踏まえたうえで、今回はリスクの語源と定義をまず明らかにします。

◾️リスクは未来にある

当コラムの第25回「リスクとクライシスの違いとは?」でも解説しましたが、改めて確認しましょう。

まず、リスクの語源として次の三つが挙げられます。

1)ラテン語:「to navigate among cliffs」
 座礁・沈没も予想される険しい岩礁を縫って航海するような状況:冒険に近い

2)アラビア語:「明日の糧」を表す言葉

3)イタリア語:「リズカーレ(riscare)」
 勇気を持って試みる、危険を承知で挑戦するという意味

これら語源から明らかなことは、リスクとは前向き、ポジティブな言葉であり、未来にあるものだ、ということです。航海するときは必ず目的地があります。試みるのも、あるいは挑戦するのも何か成し遂げたいことがあってこそのことです。その目的を達成するために、あえて前進する、挑戦するということです。

ただ、未来にどんなことが待ち受けているのか。ある程度予測することはできたとしても、完全に把握することはできません。幾多の困難を乗り越えて、目的地に無事にたどり着けるかもしれません。反対に途中で激しい嵐に見舞われ、沈没してしまうかもしれません。こうして見てくると、リスクとはただひたすら危険なこと、全てがマイナスをもたらすこと、という一般的に抱かれている印象とは随分かけ離れていることが理解できるのではないでしょうか。

ここまででリスクという言葉自体が、目的と深く関わっているということが見えてきました。

◾️目的に対する不確かさの影響

そこで次にリスクの定義を解説します。

・リスクの定義:目的に対する不確かさの影響

この定義は、リスクマネジメントの国際規格「ISO31000」で定められたものです。国際標準化機構(ISO/アイエスオー)が示したガイドラインです。今回は、同ガイドラインを詳しく解説することはしません。簡潔に説明するにとどめておきます。

要点だけ述べますと、リスクは「事象の結果」とその「発生の起こりやすさ」の組み合わせで表されます。起こったことが与える影響が強いのか弱いのか、どの程度の影響があるのかということとそれぞれが発生する確率によって、分析できるのです。

定義自体に「目的」が明記されています。リスクの語源から導き出された定義であるといえます。

ただ、この定義では目的達成を阻むという意味合いが色濃く表れています。企業経営でいえば、「事象の結果」が目的達成にどれほど悪影響を及ぼすのか。「発生の起こりやすさ」がどれほど達成を阻むことにつながるのか。リスクマネジメントの規格が、そもそもマイナス面に焦点を当て、どうリスクをコントロールするのかに照準を合わせているからでしょう。

なぜ、そうなったのかといえば、それまでの経営戦略や経営計画は明るい未来、夢を描くことが主流だったからといえます。経営戦略の中にリスクマネジメントの視点が欠如していた、ということです。

経営戦略を描くということは、つまり「考える=思考する」ということです。どんな情報をインプットするのか。そのインプットした情報をどう分析するかによって描く戦略は大きく変わってきます。誰を見るのか、何を見るのか、どこを見るのか。誰に、何を、どこで聞くのか。それがインプット、情報収集です。経営、事業展開にとってプラスになること、マイナスになることの両面の情報と向き合うことが大切です。

企業のコミュニケーション戦略、情報戦略は、経営戦略のもとに立てられなければ意味がありません。経営戦略を土台にコミュニケーション戦略が立てられます。そして、そのコミュニケーション戦略に基づくからこそ情報戦略も経営に直結したものになり得るのです。

◾️強みと弱み、機会と脅威

集めた情報をどう分析するのか。それは戦略の立て方に大きな影響を及ぼします。経営戦略、コミュニケーション戦略、情報戦略の全ての段階に関係してきます。そこで企業社会で浸透している分析手法を紹介しましょう。

その代表的な手法の一つが「SWOT(スウォット)分析」です。ご存じの人も多いのではないでしょうか。この手法はプラス・マイナス両面の情報をもとに分析するものです。

例えば、新規事業を展開する当たり、その成否を判断するために自社における内部環境と外部環境を分析します。企業における内外の情報を収集・分析します。内部においては、自社の強み(Strength)と弱み(Weakness)が何のかを問います。外部では何が機会(Opportunity)となり、何が脅威(Threat)となるのかを見極めます。

四つの頭文字を取り、「SWOT分析」というのです。これら四つの領域を4象限に分類した図を見かけたことがあると思います。この四つの領域のうち、「W=弱み」と「T=脅威」がマイナス面の情報といえます。

◾️ステークホルダーの目線

この手法は一つの事業を分析するには有効かもしれません。ただ、経営戦略全体を立てる際には、さらにコミュニケーション戦略、情報戦略を描く際には単純化し過ぎていて、収集する情報に抜けや漏れがかなり出てしまうおそれがあります。

では、そうならないためにはどうすればいいのか。次回は利害関係者(ステークホルダー)の視点、目線を取り入れながら、マイナス情報の的確な収集・分析に関して考察します。

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