広報PRコラム#106 リスク情報と向き合う(1)

こんにちは、荒木洋二です。

書籍執筆のために設けた半年間の休載期間を経て、昨年7月に当コラムを再開しました。

再開して最初の連載が「『情報発信』をひもとく」でした。結局、当初の想定より長く続き、年末最後のコラム(12月25日)で19回に及んだ連載を終えました。そのコラムの最後で、ニュースルームがブランディングの本拠地であり、マイナスの情報も集約・蓄積する場であると述べました。今回からこの「マイナス」の情報に焦点を当てます。

◾️社会に浸透したリスクマネジメントという用語

ところで、皆さんは「リスクマネジメント」という言葉を聞いたことがありますか。広報PRとも関わりが深い概念です。実は私は、リスクマネジメントの専門人材を育成するNPO法人の理事長を務めています。同法人の事務局長に就任したのが2004年4月でしたから、この世界に携わってから今年で20年を迎えます。

現在では、リスクマネジメントという言葉はよく使われるようになりました。2004年当時、リスクマネジメントに関する書籍は、大きな書店チェーンでもごくわずかしか並んでいませんでした。企業社会でこの言葉を使う人も多くありませんでした。しかし、今や「市民権」を得ているといえるまでに浸透しています。
なぜ、そう思うのか。書店チェーンでは、20年前とは様変わりして、棚の一列を占めるほど増えています。実体験としては、仕事で出会う人たちの多くが何の抵抗も違和感もなく使っています。企業社会だけでなく一般社会に目を向けても、サッカーの解説で仕切りに使われるなど、明らかに広がっています。

では、ここで皆さんに問います。

リスクとは、そもそも日本語ではどう表せばいいのでしょうか。リスクの語源は何でしょうか。リスクにはそもそも定義があるのかないのか。あるのであれば、どんな定義なのか。そんなことにも触れながら、「リスク情報と向き合う」と題した連載を今回から始めます。

◾️別視点からの2種類の情報

今まで当コラムでは、企業が発信する公式情報は2種類に分けられる、と繰り返し伝えてきました。その2種類とは「表舞台」と「舞台裏」でした。言い換えると、機能的な側面の情報と情緒的な側面の情報です。企業における実力と人柄ともいえます。企業の魅力とは、すなわち実力と人柄のことなのです。これら魅力を相手の心に焼き印することこそが、ブランディングの本質です。当コラムで繰り返してきた主張です。

しかし、経営と向き合う視点を少し変えると、情報は別の二つに分類できることが分かります。
結論から述べます。企業が発信・共有すべき情報はプラスとマイナスの2種類に分類できます。

不祥事や事故が起こった際にも包み隠さず、事実や意思決定の過程を明らかにすることがどれほど重要なのか。当コラム「危機のときにこそ『舞台裏』」で5回にわたり、強調しました。

つまり「舞台裏」の情報とは、決してプラスの情報ばかりを指しているのはでなく、マイナスの情報も含まれるのです。危機のときにこそ、会社の本音や本性があらわになるといえます。真価が問われます。そんな場面で誠実に包み隠さずに情報を公開し、誠意を持って謝罪し、しかるべき対応を迅速に実行するのです。
リスクゼロの会社など存在しません。人間が関わる以上、ミスや失敗は避けて通れません。自覚があるかないかを問わず、悪意を持って関わりを持とう、つながろうとする人も少なからず存在しています。リスクが顕在したとき、まさしく危機のときにこそ、人柄が現れます。誠実な人柄を表すことでブランディングにつながるのです。
何も不祥事や事故だけでなく、リストラ、事業の縮小・撤退、業績悪化なども同様です。経営にとってマイナス面の情報も積極的に発信・共有しなければ、ステークホルダー(=利害関係者)から信頼されません。未上場であったとしてもその姿勢を変えてはいけません。

◾️未来を見据えた情報にも目を向ける

従来の視点でいえば、「表舞台」の情報で主となるものは「今」の情報です。ニュースリリースはこれから新しく取り組むことを発表します。内容がプラスかマイナスに限らず、近未来に実行することが確定している情報です。「舞台裏」はどうかといえば、これはほとんど過去の情報です。創業ストーリー、製品を開発するまでの秘話、失敗談、顧客体験など、どれも過去が主体の情報です。前述の不祥事や事故においても、危機が発生するまでの「舞台裏」を明かすことは決定的に重要です。

ここでもう少々踏み込んでみましょう。

同じくプラスとマイナスの分類なのですが、そこに時間軸を加えることで経営の本質がより鮮明になります。過去、現在だけでなく、未来を見据えるということです。いま現在は直面していない、事象として現れていない事柄に関するものです。未来のことですから、どう転ぶのか、どんなことが起こるのかが現時点では明らかではないのです。経営にとってプラスの影響があるのか、あるいはマイナスの影響があるのか。現時点では断定できない、ということです。

リスクの「芽」はどこにでも存在しています。つまり遍在しています。しかし、リスク自体は未来にしかありません。リスクは時間軸で捉えると未来の領域に属するのです。

「リスク」、この言葉の響きはどうもマイナス面ばかりが強調されてしまいがちです。実際、「リスク=良くないこと=マイナス」と捉えている人も少なくないでしょう。しかし、それは誤りです。語源、定義からもそのことは明らかです。

次回はリスクの語源と定義を解説します。その上でマーケティングとの関わりも示します。

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