広報PRコラム#82 ステークホルダー考(3)
こんにちは、荒木洋二です。
前回まで2回にわたり、国内外において「ステークホルダー資本主義」が注目を浴びている事実を確認しました。経営において、どれほどステークホルダーが重要であるのかが理解できたと思います。
今回から、ステークホルダーをキーワードに企業経営を読み解いていきます。経営目的、経営戦略、社会的責任、広報PR、リスクマネジメント、経営資源、企業価値、合計七つの項目を一つ一つ解説します。
■ステークホルダーは共に価値を生み出す仲間たち
まず、ステークホルダーとは何かを改めて確認しましょう。ステークホルダーとは利害関係者のことです。企業・組織にとって、利益も損失も相互に影響を与え合う関係者です。「ステークホルダー考(1)」で整理した内容を端的にまとめてみると次のとおりです。
・ステークホルダー:経営者・社員、顧客、取引先、株主、地域社会(役所・住民)、社会全体、(自然)環境(=地球)、未来
広報PRの視点からいえば、ここに「報道機関(メディア)」を加えます。
企業・組織は全てのステークホルダーをどんな存在として捉え、どう向き合うべきでしょうか。極めて当たり前のことですが、企業・組織はステークホルダーの存在なくして価値を生み出すことはできません。どのステークホルダーが欠けても経営は成り立ちません。ステークホルダーの中で一部の者だけが過分な利益を享受する状態は、いずれ企業・組織を衰退へと導きます。株主至上主義がその証左といえます。取引先企業を下請け扱いして無理を強いたり、利益を削るような圧力をかけたりすることも同様です。
つまりステークホルダーとは、企業・組織にとって価値を生み出すための「仲間」といえます。
顧客の声から新たな気付きを得て、新製品や新サービスが生まれることがあります。企業社会では割と頻繁に耳にすることです。医療機器メーカー大手のテルモが「痛くない注射針」を2005年7月に発売、社会から注目を集めました。金型プレス加工の岡野工業(2018年廃業)との協力により開発できたことは、有名な物語として語り継がれています。糖尿病で苦しむ子どもたちのために、大企業のテルモと中小企業の岡野工業が共に知恵と能力を出し合い、「痛くない注射針」という価値を生み出したのです。詳しくはテルモのウェブサイトに掲載されています。
・シリーズ広告「テルモの痛みへの挑戦」
岡野工業の功績や廃業に関しては次の記事が詳しい。
・『M&A Online』(2018年3月5日)
この例からも明らかなとおり、全てのステークホルダーは価値を共に生み出す仲間です。いわば身内のようなものです。企業・組織にとって「外部」ではなく、「内部」です。
■ステークホルダーから選ばれ続けるために
日本型経営ともいわれる「三方よし」、そこから派生した「六方よし」も「八方よし」も底流にある価値観は同じです。そもそも企業・組織は社会を構成する主体であり、一員です。社会存続の上に成り立っています。社会と環境から全ての経営資源を負託されて、事業を営んでいるといえます。ステークホルダーがあってこそ成り立つ存在なのです。その存在なくして成長も存続もあり得ません。
『競争の戦略』を著した、米国の著名な経営学者マイケル・ポーター氏がCSVを提唱したのは2006年のことです。CSVとは「Creating Shared Value」の略であり、日本語では「共通価値の創造」と訳されます。そもそも価値はステークホルダーの協力により生み出されており、共通価値を創造してこそ事業の未来は明るいのです。
ここまでの解説で、企業経営にとってステークホルダーが欠かせない大切な存在であることが理解できました。この事実を理解した上で、問いを発します。
・(経営者は)何のために経営しているのでしょうか。
・企業経営の目的とは何でしょうか。
この問いに対する筆者の解答はこうです。
・ステークホルダーに選ばれ続けるために経営しています。
・経営の目的はステークホルダーに選ばれ続けることです。
ステークホルダーがどんな存在であれ、激変する社会の中で生きているし、事業を営んでいます。刻一刻と変わる時代と社会で生きるステークホルダーも当然変化せざるを得ません。そんな状況下で果たして、わが社は、わが組織は選ばれ続けることができるのでしょうか。「ステークホルダー資本主義」の時代、そのことがあらゆる企業に問われています。
企業経営にとって重要な二つの現在進行形とは何でしょうか。それはマーケティングとブランディングです。分かりやすく、ある意味大胆にこの二つの現在進行形を日本語で説明してみます。
マーケティングとは、新しいつながりをつくることです。つまり、未来の利害関係者と接点を持つための営みです。新しい出会いがなければ、企業・組織に未来はありません。どうすれば選ばれるのか。これがマーケティングの至上命題といえます。
では、ブランディングとは何でしょうか。ブランディングとはつながりを「より深く」「より強く」「より長く」することです。一度選ばれたとして、つながりが浅ければ、弱ければ、すぐに関係は切れてしまいます。長続きしないのです。ステークホルダーからどうすれば選ばれ続けるのか。これがブランディングの至上命題です。どちらも必要なのです。
■ステークホルダーとの約束
では、どうすれば選ばれ続けるのでしょうか。
ここで問われるのが経営戦略です。経営戦略とは経営の意志であり、ステークホルダーとの約束です。約束はステークホルダーに期待を醸成します。その期待に応えることができるのでしょうか。応えるとは英語で「response」です。責任は英語で「responsibility」です。すなわち期待に応えることが責任なのです。
今回は主に経営の目的をステークホルダーで読み解きました。次回は経営戦略と社会的責任について読み解きます。