【過去の人気コラム】#62 企業の魅力を考察する(2)


2019年年末から始めた「荒木洋二のPRコラム」と「聴くコラム」ですが、おかげさまで85回の配信を重ねて参りました。
2022年7月から2022年9月までは、筆者が出版に向けた執筆活動に集中させていただきたく、新規のコラムはお休みとさせていただきます。そこで再開するまでの間、過去の配信の中から人気のあったコラムを再送させていただきます。


2022年1月24日配信

こんにちは、荒木洋二です。

企業ブランディングとは、わが社の魅力をみんなの心に焼き印することです。では、企業の魅力とは何でしょうか。企業のどんな事実や振る舞いが、人々の心をひきつけて夢中にさせるのでしょうか。その魅力を伝えるにはどうすればいいのでしょうか。

■「ビジョンを掲げ、業界を牽引している」が6年連続で第1位

前回のコラムで、電通PRコンサルティング(旧電通パブリックリレーションズ)の企業広報戦略研究所が提唱する「魅力度ブランディングモデル」を紹介しました。今回のコラムでは2021年9月に発表された、魅力度ブランディング調査の第6回調査結果をもとに企業の魅力を探ります。

それでは早速、調査結果を見ていきましょう。生活者が魅力を感じる項目の上位5項目は次のとおりでした(図表1)。

上位5項目は割合の微増・微減はあるものの、3年連続で全く同じ結果でした。しかも第1位の「ビジョンを掲げ、業界を牽引している」は、6年連続と不動の地位を確立しています。第1位から第3位までと第5位はいずれも人的魅力で、第4位が商品的魅力でした。上位5項目の四つを人的魅力が占めています。

この結果が意味することは何でしょうか。同研究所では非財務情報が魅力の鍵となる、と評しています。非財務情報の言い方を変え、しかも当社流に表現すると、企業経営の「舞台裏」ということです。生活者は商品・サービスの魅力よりも、企業そのもの、つまり企業の人柄や人となりにより魅力を感じていることが分かります。「舞台裏」の情報が鍵を握っています。

ここで留意すべき点を改めて述べます。
同調査は20業界200社を対象としています。各業界を代表する10社を見てみると、日本企業も外資系も誰もが知っている大手企業ばかりです。読者の皆さんが勤めている企業が大手企業、有名企業でなければ、そのまま自社に当てはめようとすると現実とはずれが生じます。バイアス(偏り)があるという視点で結果を分析する必要があります。

次に同調査での「企業の魅力をどのようなところで見聞きしたか」という質問の回答を見てみましょう。次のような結果が出ました(図表2)。

■魅力を感じた情報源はリアルが約7割

同質問では情報源を五つのカテゴリーに分け、各6項目で合計30項目を挙げています。カテゴリーは次のとおりです。

・リアル 

・メディアの番組・記事

・ソーシャルメディア

・オウンドメディア

・メディアの広告

カテゴリー別に見ると、1位が「リアル」(68.6%)、2位「メディアの番組・記事」(33.7%)、3位「メディアの広告」(19.3%)、4位「オウンドメディア」(13.6%)、5位「ソーシャルメディア」(10.2%)という結果でした。
前掲の情報源の1位、3位、4位の三つがリアル、2位がメディアの番組・記事、5位がメディアの広告です。

リアルの3項目はいずれも、企業規模によって大きな違いが出ることはないでしょう。しかし、多くの読者が気付いたはずです。大手や有名企業でない限り、テレビ番組に何度も記事で取り上げられることはほぼ不可能です。ましてやテレビCMなど、とても手が出せません。

メディアの番組・記事のカテゴリーでの2位は「ウェブメディア(ニュース記事、ニュースアプリ含む)」(11.6%)です。記事ですから、企業として熱心にプレスリリースを投函・配信したり、記者との良好な関係を土台に取材依頼したりしなければ、報道されるわけがありません。そのためには広報部を設け、複数人の体制が必要です。中小・中堅企業、スタートアップでこのような体制を構築できている企業はほとんどないでしょう。

メディア広告の2位は「インターネット広告」(3.0%)です。インターネット広告であれば、大手でなくとも実施している企業は少なくありません。テレビCMよりははるかに敷居は低いですし、読者の皆さんの会社でもすでに日常的に実施しているかもしれません。ただ、テレビCMの5分の1に過ぎません。しかもメディア広告全てにいえることですが、継続しなければ、業績向上や企業の成長につながる成果はほとんど得られません。メディア、つまりマスメディアにおいては報道面も広告面も大半が大手企業たちの情報で占められているのが現実です。

■リアルな体験以外でどうやってわが社の魅力を伝えるのか

ちなみにオウンドメディアにはウェブサイトばかりでなく、「書籍・出版物・パンフレット」(2.6%)や「株主総会・決算説明会」(2.5%)、「イベント(オンライン含む)」(2.5%)も含まれています。オウンドメディアとは「自らが所有する媒体」という意味ですから、含まれるのは当然です。ウェブサイトは商品・サービスブランド(5.0%)、コーポレート情報(4.6%)、採用情報(1.9%)の3種類のページに分けています。「ソーシャルメディア」に分類されている「企業公式アカウントのソーシャルメディア」(2.6%)もオウンドメディアですから、これらを全て合計すると、21.7%にまで増えます。
1位「商品・サービスを購入して」には及びませんが、2位「テレビ番組」を上回ります。総力戦だと相当な影響力を持てるのです。しかも1位は企業規模にほとんど関係がない項目です。

リアルな体験以外でどうやってわが社の魅力を伝えればいいのでしょうか。

オウンドメディアの本質は「自ら伝える」ことです。メディアを通しではなく、自ら直接伝えるということです。では誰にわが社の魅力を伝えるのか。まず、目の前にいる利害関係者です。目の前にいる、すでにつながり、関係を築いている者たちですから、当然のことながら直接伝えられます。

中小・中堅企業、スタートアップがどうやってわが社の魅力を伝えればいいのか。次回は今回の考察をもとにこの解を導き出します。

前の記事へ 次の記事へ