Weekly Essay 楽天モバイルにみる大企業の社会的責任
1月19日、「Yahoo!ニュース」のトップページに掲載された『毎日新聞』のニュースが目に留まりました。楽天モバイルの下請け企業が経営危機に陥っており、多くの社員が解雇されたことを伝える記事です。楽天モバイル社員が取引企業2社の役員と共謀し、46億円を横領しました。その影響が立場の弱い下請け企業に及んでいるにもかかわらず、楽天モバイル側はこの問題に対応や関与を行う立場にない、と主張しているとしています。
気になって調べてみたところ、楽天モバイルが横領した疑いのある社員を解雇したことを発表したのは、昨年9月2日でした。大手マスコミの動きとしては、同日、日本経済新聞やNHKが速報し、翌日、読売新聞が報道しました。
下請けの経営危機や社員解雇に関しては、毎日新聞より先に東京新聞(2022年12月6日付)が報道しています。不正に関わったとされる取引先2社は取引を停止されたうえに預金口座を差し押さえられたため、そのもとに連なる1次、2次、3次の下請けに支払いが実行されず、前述の事態が生じたわけです。この取引先の1社は電波基地局の設置工事に使う部材の管理・輸送事業、もう1社は基地局設置工事を担当していたといいます。
これらの報道に触れ、私には強烈な違和感がありました。企業の、特に多くのステークホルダー(利害関係者)に小さくない影響を及ぼす立場にある、大企業の社会的責任とは何でしょうか。「下請け」という表現自体も企業の優劣や上下関係を示しているようで、気持ちがいいものではありません。CSR(企業の社会的責任)の国際標準規格である「ISO26000」では、「ステークホルダー・エンゲージメント」を中核に組み込んでいます。エンゲージメントとは分かりやすく言えば、「向き合う」ということです。ステークホルダー・エンゲージメントとは、全ての利害関係者と真剣に正面から向き合うということです。そのためには傾聴や対話、コミュニケーションは欠かせません。2次だろうが、3次だろうが関係なく、ステークホルダーとして向き合うのが大企業の社会的責任ではないでしょうか。下請けがいたからこそ、サービスの根幹に関わる基地局が設置できたのです。
先の読売新聞の記事を見ると、楽天モバイルは「事業への影響は軽微」としています。おそらく株主(株価)を意識しての発言なのでしょう。下請け企業で働く人たちが大量解雇されていることを「軽微」と捉えているのでしょう。大切なステークホルダーなのですから「対応や関与を行う立場にある」はずなのに、です。
この問題に関する報道は、私の調べた限りでは今のところ毎日新聞と東京新聞だけです。大企業だからこそ、社会的責任はもっと厳しく問われるべきではないでしょうか。マスコミももっと厳しく追及すべきではないでしょうか。
1月16日(月) 荒木洋二のPRコラム
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