広報PRコラム#92 「情報発信」をひもとく(7)
こんにちは、荒木洋二です。
今回も前回の続きで情報発信の内容について詳説します。振り返りとして、情報発信を構成する四つの要素を再掲しておきます。
①目的 :何のために伝えるのか。
②(主体と)対象:(誰が)誰に伝えるのか。
③情報の内容 :何を伝えるのか。
④手段 :どうやって表すのか。どうやって伝えるのか。
◾️左脳と右脳、理性と感性
企業は2種類の公式情報を発信しなければなりません。一つは「表舞台」の情報、もう一つは「舞台裏」の情報です。それぞれの情報は、情報発信の目的と連動しています。つまり情報とは「知らせるため」(第1の目的)の情報と、「選ばれるため」(第2の目的)の情報に分類できるのです。前回の内容をここでも再掲します。
・知らせるための情報:「表舞台」(機能的な側面)の情報
・選ばれるための情報:「舞台裏」(情緒的な側面)の情報
機能的な側面の情報とは、脳の働きでいえば、左脳、理性で判断する情報です。「表舞台」の情報を繰り返し発信することで、認知と理解を獲得することができます。そこで初めて選択肢に挙がる、という土俵に立てるのです。
何のために知らせるのかといえば、それは選ばれるためです。知らせないと何も始まりません。しかし、選ばれなければ意味がありません。
選ばれることにつながらなければ、つながる確率が相当低かったとしたならば、今まで情報発信に費やした労力(資金と時間)は一体なんだったのでしょうか。まるでブラックホールに吸い込まれるような、水泡と帰してしまったかのような状況に陥るということです。
では、そうならないために、企業は選ばれるためにどんな情報、どんな内容を発信すべきなのか。選ばれるための情報とは何なのかをこれから明らかにします。
選ばれるためには、選ぶ側に「選ぶ理由」を与えなければなりません。そのためには情緒的な側面の情報が欠かせません。脳の働きでいえば、右脳、感性(あるいは情緒)で判断する情報です。
◾️信頼と共感
生活者は、機能面の情報だけでは「選ぶ」という意思決定をなかなか下せません。とりわけ現代は、あらゆる分野・領域でコモディティ(均一・同質)化が進んでいるといわれています。機能面での差別化は難しく、情緒面で他者との違いを示すしかないといいます。
企業そのものを選ぶ、選ばないという判断の際にも同じことがいえます。多数の選択肢がある状態で、企業自身が選ばれるためにはどうすればいいのか。「表舞台」の情報で認知と理解を獲得した、その先に何があれば選ばれるのか。
結論を述べましょう。情報を受信する相手から信頼を獲得し、ひいては自社に対する共感を醸成することで選ばれるのです。信頼と共感があってこそ、相手は「選ぶ」という意思決定を迷いなく下すことができるのです。見方を変えれば、信頼や共感を得るためには多種多様な「舞台裏」の情報が欠かせない、ということです。
では「舞台裏」には一体どんな情報があるのでしょうか。それ以前にそもそも「舞台裏」とは何を指しているのでしょうか。
◾️一方向かつ一面からだけの見方や捉え方
とかく企業は商品・サービスの名称、仕様・機能、利点ばかりを発信してしまいがちです。つまり「表舞台」の情報ばかりです。この場合、熱心に働きかける相手も新規顧客候補に集中しがちです。
そのことを裏付けるように、「リード獲得」という言葉が企業社会に広がり、「リード獲得」を事業の柱に据える会社も相当数います。その手段ともいえるLP(ランディングページ)を制作する事業者、SNS(交流サイト)の運営を代行する事業者も数多く存在しています。
採用の場合では、会社名、会社概要、実績・業績ばかりを発信しています。ここでもLP制作とSNS運用を提供する事業者が幅を利かせています。
このような現状をどう解釈すればいいのか。私は、企業経営の見方や捉え方が一方向かつ一面だけに偏っているとみています。近視眼になってしまっているのです。もっと多角的かつ多面的に企業経営を捉え直すことにより、「舞台裏」とは何かを解き明かすことができます。
前述の例で言えば、商品・サービスを新規顧客(候補)という視点だけで捉えています。別の角度、つまり社員の視点から捉えるとどうでしょうか。
◾️失敗談や開発秘話を「見える化」
卓越した商品、良質なサービスを世に出すまでには、開発に携わった社員たちの失敗談や苦労話などが数多く存在しています。それぞれが(程度の差こそあれ)情熱とこだわりを持ち、諦めずに挑戦し続けたに違いありません。だからこそ困難や障壁を乗り越え、新商品や新サービスが出来上がったのでしょう。
商品・サービスを世に出すまでの過程には単なる失敗談に終らず、必ず成功に至る開発秘話が存在しています。企業の表面からだけでは、外側からだけでは決して知ることができなかった「舞台裏」が確かにあるのです。
新商品・新サービス完成に至るまで開発の現場に密着し、その模様を映像で記録に残したり、関わった人たちに要所でインタビューしたりすることで「舞台裏」を「見える化」することができます。
「見える化」した情報は明らかに情緒的な側面の情報ですし、しかも熱量を帯びています。人々の心を揺さぶる、魅了できるエネルギーに満ちた情報です。企業としての人柄、人格がにじみ出る、つまりその企業らしさが伝わるような情報です。
次回は、商品・サービスを既存顧客、取引先・パートナーという視点から捉え直します。