広報PRコラム#100 「情報発信」をひもとく(15)

こんにちは、荒木洋二です。

前回は、情報発信における3原則について明らかにしました。3原則とは次のとおりです。

(1)質:コンテンツの品質(音・文字・映像・図解など)
(2)量:情報量(文章・映像などの長さ)
(3)間:いつ伝えるのか(時間・瞬間) どこで伝えるのか(空間・場所) 

ここで情報発信を構成する4要素の一つである「手段」に関して、改めて再掲します。

・表現手段:どうやって「見える化」するのか=どうやってコンテンツを作るのか
・伝達手段:どうやって伝えるのか=どうやって(コンテンツを)デリバリーするのか

今回から4回にわたり、伝達手段について詳述したいと思います。

◾️印刷と電子、プッシュ型とプル型

まず、伝達手段の種類を明示します。前々回で述べたとおり、企業における情報発信で利用する媒体は次の二つです。それぞれ現場で活用されている媒体も分類して列挙します。

・印刷媒体:会社案内、各種パンフレット、チラシ、小冊子、プレスリリース、社内報、広報誌、
      株主通信、各種刊行物(アニュアルレポート、CSR報告書、統合報告書)など

・電子媒体:コーポレートサイト、メールマガジン、公式SNS(複数)、公式動画チャンネル、
      オウンドメディア、各種LP(ランディングページ)、ニュースルームなど

上記は企業自らが運営する媒体です。これら媒体(コンテンツ)を情報の受け手へ届ける、つまりデリバリーする最終手段は何でしょうか。
印刷媒体の場合、次のとおりです。

・印刷媒体:郵送(宅配)、投函(記者クラブ)、手渡し(営業、展示会など)、
      展示(オフィス受付など)、FAX

電子媒体の場合はどうでしょうか。
メールアドレス取得(メールマガジン)、公式SNSへのフォロー、動画チャンネルへの登録があれば、これらは全てデリバリーの最終手段として機能します。プッシュ型媒体といえます。それ以外はプル型媒体です。整理すると次のとおりです。

【2種類の電子媒体】
・プッシュ型:メールマガジン、公式SNS、公式動画チャンネル


・プル型  :コーポレートサイト、オウンドメディア、各種LP、ニュースルーム

ここで、「今さら情報発信で印刷媒体を利用するのか」と疑問を抱いた読者も少なからずいるでしょう。特にデジタルネイティブといわれる世代の読者であれば、その感覚が強いだろうということは疑いようがありません。

しかし、デジタルネイティブやZ世代と呼ばれる層は、人口に占める割合から自明のように少数派です。当然のこととして、企業を取り巻く関係者たちを見渡してみても、やはり主流派はZ世代などではありません。割合の差こそあれ、印刷と電子を併用している人が圧倒的に多いのが現実ではないでしょうか。

◾️やはり組み合わせ、そして積み重ね

となれば、どう組み合わせるかが重要である、ということに異論を唱える人はいないでしょう。印刷媒体同士、電子媒体同士、印刷と電子での組み合わせがあり、その積み重ねがあるからこそ、本連載の第2回で示した二つの目的を達成することができる、というわけです。

自分自身が企業と関わる場合のことを想像してみてください。どうやって情報を取得しているのか、どんな過程を経て、購入・就職・取引などの行動を起こしているのか、つまり選んでいるのかを冷静に分析してみてください。どこまでいっても組み合わせと積み重ねが「手段」の肝であることに気付くはずです。

前回の補足として、もう少しだけ表現手段に関して掘り下げます。

表現手段の成否を決定づける要因とは何か。それは「質」と「量」の組み合わせ方です。文章にしろ動画にしろ、質が著しく低いコンテンツは論外といえます。ただ、どれほど質の高いコンテンツを作ったとしても、情報の受け手の状態にそぐわなければ、記憶に残らないし、心にも響きません。

社員がどんな仕事に従事し、どういう時に働きがいを感じるのかをしっかりとインタビューしたとします。それを読み応えのある、臨場感あふれた長文の記事としてまとめたとしましょう。自社に対して現時点でさほど関心を抱いていない学生であれば、そんな長文は読む気にはならないでしょう。受け手の目の前を通り過ぎるだけ、つまり「スルー」されてしまいます。そのインタビュー内容が記事としてどんなに優れていたとしても、です。

一方、就職説明会に参加したり、社長のメッセージや若手社員の振る舞いなどに触れたりすることで、強い関心を持っている学生がいたとします。そんな学生が同社の大学OB・OGから、先のインタビュー記事が掲載された社内報(印刷媒体)の抜き刷りを手渡しで受け取ったとしたら、熟読するに違いありません。

◾️表現と伝達も組み合わせと積み重ね

他方、自社の公式SNSをフォローした学生が、先のインタビューが掲載された投稿の画像が目にとまり、見出しに関心を持って内容を確認しようとしたところ、長文が、しかも改行が少なく掲載されていた場合、どう捉えるでしょうか。見づらさや違和感で読む気が失せてしまうかもしれません。「量」と伝達手段が噛み合っていません。
ところが、文章の出だし部分(リード文)のみ、あるいは要約した文章のみを掲載した投稿があった場合、どんな反応をするでしょうか。その投稿は、詳しい情報を知りたい人のために全文が掲載されたニュースルームへの動線として、リンク先URLも記載しています。一度きりの投稿ではスルーするかもしれませんが、一人ではなく数人の社員インタビューが定期的に投稿され、何度か接する中で心が惹かれる見出しや画像、リード文などがあれば、全文が掲載されたニュースルームにアクセスするだろうことは容易に想像できます。

ここでの積み重ねとは、社員インタビュー要約の定期的な投稿が当たります。そこに長文を掲載したニュールームを組み合わせた、ということです。短文と長文を組み合わせ、公式SNSとニュースルームを組み合わせたのです。そして、その前段階として公式SNSでの定期的な投稿という積み重ねがあった、というわけです。

今挙げた事例は、情報の受け手との心理的な距離感、関係性の深度により、最適な表現手段を選ぶことがどれほど重要なのかを裏付けている、といえるのではないでしょうか。さらに受け手の属性(先述の事例でいえば、学生)や状態(同就活中)に合わせて、最適な伝達手段を選ぶことも重要だ、ということです。その情報の真意が伝わるのか、伝わらないのかがどんな手段を選ぶのか、どう組み合わせるのかによって分かれるのです。

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