広報PRコラム#87 「情報発信」をひもとく(2)

こんにちは、荒木洋二です。

休載していたコラムを先週より1年ぶりに再開しました。前回から続くテーマは「情報発信」です。

◾️何のために情報を発信するのか

当社が掲げるミッションの一つは、「広報を当たり前にする」ことです。どんな企業であっても、企業規模や業界・業種に関係なく当たり前にすることです。広報とはそもそも何なのか。同じ意味であるPR(パブリック・リレーションズ)とはそもそも何なのか。
小学生でもその意味、本質が理解できる。そのためにはどう表現すればいいのか、どんな言葉を用いればいいのか。相手に伝わるためにはどう伝えればいいのか。当社はそんなことをずっと問い続けてきました。その営みを整理したのが、当コラム「SECIモデル体験」でした。全人格をぶつけた一対一の対話による問いは今も続けています。

広報の一側面を担うのが「情報発信」です。ゆえにここ1年前後は、「情報発信」とは何なのかを対話と思考により突き詰めています。そこで明らかになったこと、整理できたことがあります。前回は序章のような位置づけでしたから、今回から要素ごとに分けて、一つ一つ解説します。

前回、企業にとって情報発信は宿命であると述べました。市場と社会で生きていくための、最も重要な営みの一つが情報発信です。そして、発信する上で大切なこと、発信する前に整理し明確にすべきことがあります。
何のために(目的)、誰(主体)が誰(対象)に、何(情報の内容)を伝えるのか。そして、どうやって(手段)伝えるのか。当たり前なことにも関わらず、一つないし二つの要素をあいまいにしたまま、発信してしまっていることが余りにも多く見受けられます。

今回は情報発信の目的を明らかにしたいと思います。何のために情報を発信するのか、ということです。この最も重要なことを明確に定めないまま、発信していることが多いと見ています。物事を分かりやすくするために、まず「どうやって(手段)」発信しているのかを確認してみましょう。

皆さんが経営、あるいは所属している企業でも、毎日多くの情報を発信していますよね。しかも、オンラインとオフラインを織り交ぜ、さまざまな方法・手段を駆使しながら発信しています。

◾️情報をどうやって発信しているのか

まず、オンラインによる情報発信を見ていきましょう。

従来から取り組んでいることとして、メールマガジン、もちろん企業サイトでも発信しています。ここ数年で登場したのが、LP(ランディングページ)やオウンドメディアでしょう。
SNS(会員制交流サービス)で言えば、フェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどを利用して、発信しています。最近ではティックトックや、動画配信ツールであるユーチューブで公式チャネルを立ち上げる企業も増えています。
専門事業者の配信サービスを利用して、ニュースリリース(プレスリリース)を発信する企業も急増しています。そのほかSNSやポータルサイト、ニュースサイトで広告を出したり、採用サイトに有料で情報を掲載したりする企業も少なくありません。
そして、コロナ禍で一気に広がったのが、人と人がオンラインで対面して、情報を発信する方法です。ズームやミートなど、手段はさまざまです。口頭のみ、あるいはプレゼンテーション資料を画面に表示しながら、熱心に自社の商品・サービスに関連する情報を伝えています。経営者など決裁者限定のコミュニティも急増しています。当社も今までに10近いサービスを利用してきました。コミュニティというより営業先(顧客候補)紹介(マッチング)だけを提供するサービスもあります。

次にオフライン、つまりリアルを見てみましょう。

コロナ禍になる前であれば、業界ごと、あるいはサービス内容ごとに特化した展示会も毎週のように開催されていました。これらの展示会に自社のブースを構えて、営業資料、パンフレット、モニター映像など、ここでもさまざまな方法・手段を駆使しています。人による口頭も加え、多くの企業が熱心に情報を発信しています。東京ビッグサイト、幕張メッセなど、有名な大きな施設だけでなく、全国の主要都市では日常的に行われていました。新卒や中途を採用するための説明会も同様です。
業種によってはチラシやポスティング、DM(ダイレクトメール)を行う企業もいまだに少なくありません。
経営者たちは、朝礼や社員総会などで経営理念や思い、将来のビジョンなどを口頭のメッセージとして伝えているでしょう。

中小・中堅企業やスタートアップでは、ほぼ取り組んでいないので見落としがちなことがあります。ほとんどの大企業では、印刷媒体による社内報、(顧客向け)広報誌、株主向け通信、ファクトブック、アニュアルレポート(年次報告書/現在では統合報告書ともいう)なども、ずっと以前より当たり前のこととして続けています。

◾️知らせなければ始まらない

ここまでで情報発信に関する方法・手段を細かく確認してきました。では、これら一つ一つの情報発信は、何のために、何を目的に実施しているのでしょうか。目的があいまいなまま、情報を発信しているとしたら、果たして望む成果が得られるでしょうか。そもそも目的が不明瞭なのですから、成果を測りようがないのではないでしょうか。

前回も述べたとおり、知らないということは存在していないに等しいといえます。存在していないのですから、誰からも選ばれません。ですから、まず知らせることから全ては始まります。知らせないと何も始まりません。つまり少々難しく言えば、認知を獲得することです。そう考えると、知らせるために、情報を発信していることになります。情報発信の目的は、認知獲得ということです。これはこれで一つの解答ですし、間違いはないでしょう。

◾️選ばれなければ意味がない

しかし、ここで冷静に考えれば、認知獲得は入り口に過ぎない、ということに気付くはずです。

例えば、市場に情報を大量に発信し、多くの顧客候補から認知を獲得できたとしましょう。問題は認知した人(個人・法人)たちが自社の商品・サービスを購入・利用してくれなければ、売り上げになりません。何のために知ってもらったのか、ということです。最終的に売り上げにつながらなければ、意味がありません。採用においては多くの学生(新卒)、多くのビジネスパーソン(中途)に自社の存在を知ってもらったとしても、雇用できなければ意味がありません。

要は何かというと、選ばれなければ意味がない、ということです。つまり、すべからく企業は選ばれるために情報を発信するのです。
ただ、認知を獲得したいだけであれば、(不謹慎かつ極端な例になりますが)世間を騒がせるような重大な不祥事を起こせば、あらゆるメディアが報道し、一気に会社の知名度は上がるでしょう。しかし、そんな不祥事を起こした会社を選ぶ人(個人・法人)はいません。

知らせるための情報発信は入り口に過ぎません。しかし、その先にある目的は何か。選ばれるために情報を発信しているのです。選ばれるためですから、相手があってのことで選ぶという意思決定を相手に委ねていることになります。

では、どうすれば選ばれるのか。「知らせる」から「選ばれる」までにどんな段階、過程があるのかを次回は詳しく解説します。

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